全国大会開幕【Cパート】
「あいつ、宮町中の鷹ノ目じゃねぇか?」
「あの百六十キロ投手の!?」
「なんでブロックが違う試合を観に?」
球場がざわめき出した。
観戦に来ていた、この試合の勝者と当たる白鳳学院の部員たちもこれには驚いた。
「鷹ノ目直実さん‥‥。」
思わず静の口から直実の名が漏れた。
「挨拶でもしてくるか?」
景清が静に冗談半分で尋ねる。
「まさか。」
静は間髪入れずに否定した。
「それはそうと、あんたさっき、ピッチャーが投げた瞬間、『あ』って言ったよね?
打たれる事、わかったの?」
席に直実が戻ると、太刀川に尋ねた。
「リリースが早かったんだ。
おそらく、元々は早かったんだろうな。
練習で極力リリースポイントを遅くしたんだろうが、ふとメッキが剥がれた。
それをあのバッターは見逃さなかった。
――ただそんだけの話だ。」
太刀川は球場に顔を向けたまま、淡々と解説した。
「‥‥私もメッキが剥がれないように気をつけなくっちゃ。」
「そういう台詞は十年早えー。」
「なにをーっ!
私だってちゃんと練習してるんだから!」
「あ? てめぇは始めて何か月だよ?
メッキを付ける程、野球してねぇだろうが。」
太刀川は直実に顔を向け、繋がり眉毛に縦皺を作って言った。
「それは‥‥まあ、そうなんだけどさ。」
「てめぇの場合、ボロが出ないように気をつけるが正解だな。
はっはっはっ。」
太刀川は自分で言った台詞で豪快に笑った。
目くじらを立てた瞬間湯沸かし器に気付かずに。
「ぐわっ!?」
悲鳴を上げる太刀川。
直実のチキンウィングフェイスロックが綺麗に極まった。
「ちょ、ちょっと直実先輩!
試合観戦中ですよ!?」
希望があたふたしながら直実を説得する。
「さあ、言いなさいよ、『ごめんなさい』と!」
「誰が言うかってんだ!」
二人とも意地っ張りだ。
「ふうーん、もっと痛くしないとわからないみたいだね。」
直実は更に絞め上げた。
「あいででで‥‥。
てめぇ、それでも女かよ?」
「どういう意味?」
「女ならもっと胸の感触があってドキドキときめくもんだろ!
てめぇにゃ、ちっともねぇんだよ!」
「なっ!?
わ、私はこれからが成長期だっての!」
太刀川の言葉に赤面しながらもチキンウィングフェイスロックを解かない直実。
「直実先輩も太刀川さんもいい加減にしてください!」
希望の宮町中の良心回路として叫びが直実の技を解かせた。
試合観戦そっちのけで直実たちのやり取りを見ていた白鳳の面々。
「何やってんだ、あいつら?」
景清が思わずそうつぶやいた。
「‥‥バカ丸出し。」
続けざま静がバッサリと斬り捨てた。
「先輩たち、本来の目的を忘れてましたよね?」
希望の言葉に項垂れる直実と太刀川。
「だって、太刀川が――」
「だって、こいつが――」
二人がユニゾンで言い訳をしようとした時だった。
「ああ君たち、ちょっといいかな?」
背後からの声に振り向く直実と太刀川。
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