いざ広島【Cパート】
「あれ、意外な組み合わせだね。
まさか太刀川のコバンザメが隣りとは。」
希望の隣りには星野が座っていた。
「誰がコバンザメっスか!?」
「わかってるくせに~。」
ニマッと直実が笑う。
「‥‥わかってるだけに気分が悪いっス。」
太刀川と似た反応を返す星野。
「昔、父の道場に通ってたんですよ。」
希望が関係を説明した。
「ええっ、あんた、柔道やってたの!?
わかった、弱すぎて野球に転向した!
――どう、当たりでしょ?」
「デリカシーの欠片もない台詞っスね。
‥‥まあ、当たりっちゃあ当たりっスけど。」
星野はボソボソと語った。
「じゃあ、粟田さんと星野は昔馴染みなんだね。」
羽野が直実の容赦のないストレートを緩和すべく口を挟んだ。
「‥‥まあ、そういう事になるっス。」
「なんで身体のちっこいあんたが柔道を?」
「いやいやいや、その台詞、あんたにノシを付けて返すっスよ。
普通、身体のデカい人が目指すもんっスよね、プロレスラーって?」
「ふっ、人生にはいろいろあるのさ‥‥。」
直実は窓の外に顔を向けると、遠い目をしてつぶやいた。
「俺にもいろいろあったんスよ‥‥。
男には、ただ強さを求める時期が必ずあるんス‥‥。」
星野も通路側に顔を向けると、やはり遠い目をしてつぶやいた。
二人の事情を知っている希望は、うんうんと頷いた。
「でも、野球に転向して大成功じゃないか。
一年でレギュラーに抜擢されるなんて。」
羽野が空気を正常化させた。
「そう思います?
自分でもそう思うんスよ。
リトルでもすぐにレギュラー取れましたし!」
生き返ったように雄弁に語り出す星野。
(星野に柔道の話は禁句だな‥‥。)
羽野は心の中でそう思った。
その矢先、
「あんた、希望ちゃん目当てで柔道始めたね?
どう? 図星でしょ?」
直実が人差し指でビシッと星野を指さして名探偵ばりに推理を突きつけた。
「なっ!?
な、な、な、何を根拠に!?」
たじろぐ星野に勝利を確信したような表情を浮かべる直実。
「まず、柔道を始める動機が不自然!
強さを求めるなら柔道以外にもあったはず!」
「いやいやいや、当時の熊谷じゃ柔道と剣道の二択じゃないスか!」
「次に、希望ちゃんは可愛い!」
「話を聞けっつーの!
俺はただ――」
「まあ、この話はこの辺でいいじゃないか、鷹ノ目さん。」
羽野が必死に止める。
「それもそっか。
星野の過去バナなんか聞いてもしょうがないよね。
第一、希望ちゃんの好みとは月とスッポンくらいかけ離れてるし。」
「な、直実先輩‥‥!」
慌てる希望。
「背が高くて強い人‥‥っスか。」
星野がつぶやく。
「あれ‥‥? 知ってたの?」
直実はきょとんとした。
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