松浦健太、十五歳の憂鬱【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「ストライーク! バッターアウト!
ゲームセット!」
日を同じくして北信越大会を制したのは五島巴を擁する木曾北中だった。
「よっし、完全試合達成っと!」
巴はグローブをパンと叩き、喜びを露にした。
● ● ●
「ストライーク! バッターアウト!
ゲームセット!」
東北大会を制したのは大本命と言われ続けてきた仙台の白鳳学院だった。
「よし、よくやった吉野!」
捕手の有綱源太がハイタッチを求める。
「当然の結果です。」
『鉄仮面』と呼ばれる吉野静は、三回コールド勝ち、参考記録ながらの完全試合に白い歯を見せる事なく有綱のハイタッチに応じた。
「こんな時くらい笑顔を見せたらどうだ?」
三塁手の景清光朗が静に小声で告げた。
「全国大会二連覇まで取っておきます。」
「この欲張り娘め。」
景清はそう言うと静の帽子のつばを摘まんで下げた。
「なっ!? 何をするんですか!?」
帽子を直しながら静は景清に怒り顔を見せた。
「たまには違った表情が見たくてな。」
景清は少し茶目っ気を出して言った。
「おーおー、ご両人、妬けるね、このこの!」
静の背後から小野寺兄弟がユニゾンで冷やかす。
静と景清の関係は二人が隠そうが周知の事実だった。
「ああ、もう。」
静がうざったそうにつぶやいた。
● ● ●
スカ――――――ン!
「よっしゃーっ! サヨナラやぁーっ!」
近畿大会決勝戦は乱打戦となり、決着は鵬徳寺学園の二年生で四番の蒲生範頼の逆転3ランでついた。
百八十五センチ、百四十キロの肥満体型の蒲生がのっそりとダイヤモンドを一周する。
「ようやった、カバオーっ!」
『蒲生』が『かば』と『お』と読める事と、カバのようなその体型から、カバオのニックネームで呼ばれていた蒲生はホームインするとチームメイトから手荒い祝福を受けた。
「痛いですやん、先輩。」
蒲生ははんなりとした言い方で照れていた。
● ● ●
そしてもう一人、完全試合を達成した男がいた。
北海道大会を制した上沢木中の小栗義仲である。
流氷シュートとクリオネボールと呼ばれる不規則な回転をするクセ球を武器に重ねた三振数、実に二十一個。
人呼んで『オホーツクの牙』。
「けっ、つまんねー試合だったぜ。」
小栗はチームメイトとハイタッチする事なく一人球場を後にした。
一匹狼、まさにその表現がぴったりの男だった。
● ● ●
その頃、宮町中部員たちの帰りの電車の中に三浦の姿はなかった。
三浦は一人、向かう所があった為だ。
神奈川県某所
(長野、お前に会いに来るのは何年ぶりだろうな。)
三浦は親友、長野の墓に花と線香を手向け、心の中で話し掛けた。
(今日、俺の教え子たちが関東大会を制覇した。
お前の使っていたあの青いグローブが全国大会に行くんだ。
天国から見ていてくれ。)
ふと、一陣の風が吹いた。
三浦にはそれが長野の答えに感じられた。
(ああ、今度来る時は全国制覇の土産話を持ってきてやるよ。
――じゃあ、またな。)
三浦はおもむろに立ち上がると、墓に背を向け振り向く事なく歩いて行った。
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