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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第十七章 中間テストに潜む魔物
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中間テストに潜む魔物【Dパート】

「フユくん、やっぱここにいたか。」


 奈留(なる)鷹ノ目(たかのめ)バーバーからすぐ近くの公園にある汽車の遊具の運転室部分に体育座りをしている直冬(なをふゆ)を見つけた。


「奈留ねえちゃん‥‥。」


「そっちへ行ってもいいかな?」


「‥‥‥‥うん。」


 奈留は直冬の隣りまで行くと、やはり体育座りをした。


「私が小学生の時までは一緒に遊んだっけねぇ。

 中学に入って部活にのめり込んで‥‥だいぶ離れちゃった。」


「うん‥‥。」


(おぼ)えてるかな?

 まだフユくんが三輪車に乗ってる頃、あそこっから転がり落ちたの。」


 そう言うと奈留は公園の北側にある熊谷堤(くまがやづつみ)を指さした。


「うん、憶えてる。

 ウチの姉ちゃんが一輪車で降りたのをマネしたら、とんでもない目に()った。」


「あははは、ナココは体幹(たいかん)が強かったかんね。

 まあ、小さい頃から身体(からだ)(きた)えてたし。」


「あん時、絆創膏(ばんそうこう)、貼ってくれたんが奈留ねえちゃんだった。」


「そうそう。

 ナココったら泡食(あわく)ってあたふたしてるだけだったよね。

 とにかくナココと遊ぶとさ、生傷が絶えなかったなぁ。

 だから遊ぶ時は必ず絆創膏を持って家を出たもんだったよ。」


「そうだったんだ。」


 二人の間に静寂が流れた。


「ねえ‥‥彼氏って、どんな人なの?」


「そうねぇ‥‥。

 月並みだけど優しい人、かな。

 ――ああ、あと頭がいい。」


「‥‥なら、よかった。」


 直冬は寂し気に、ふっと笑った。


「そろそろ帰ろっか。

 みんな心配してると思うし。」


「うん‥‥。

 でも、その前に一つだけ言わせてよ。」


「え?

 ――うん、いいよ。」


 一陣の優しい風が吹く。


「ずっと、好きだった。

 俺に好きな人が出来るまで、好きでいて‥‥いいかな?」


「うん。

 ――早く見つかるといいね。」


 奈留は直冬の頭を優しく撫でた。


 ● ● ●


「これはみんなに心配掛けた罰だかんね!」


 直冬は直実(なをみ)のコブラツイストを甘んじて受ける。


「あいててて‥‥!」


「痛い時には泣け!

 耐えられない時にはわめけ!」


 直実はぐいっと締め上げる。


「マ、マジで痛てぇんだけど!

 ――あいででで!」


 直冬の目から涙が溢れる。


「姉ちゃん、ギブギブ!」


「まあまあ、今日はその辺で。」


 母の葉子(ようこ)が直実をなだめた。


「しょうがないなぁ。」


 直実は技を解いた。


「なっさけないツラだなぁ、グシャグシャじゃん。

 ‥‥ほら、顔(あら)ってきなよ。」


「‥‥うん。」


 直冬は洗面所へと向かって行った。


「みんな、遅くなってすまないね。

 家が遠い子は送って行くから、車に乗ってくんない。」


 父の直斗(なおと)がそう言うと、


「ありがとうございますぅ。」

「ありがとうございます。」


 史香と裕子がユニゾンでお礼を言った。


「じゃあ、明日は私んちで現国と古文の勉強会って事で!

 それじゃ失礼しまーす!」


 そう告げると近所の明美は徒歩で帰途に就いた。


「私もこれで帰るわ。

 じゃあ、また明日ね。」


 奈留もまた帰途に就く。

 続けざま、直斗の車も発車する。


「なんか、急に寂しくなっちゃったわね。」


 葉子が素直な感想を言った。


「そうだね。」


「そろそろ私たちも家ン中に入ろっか。」


「うん。」



 家の中に入ると、直実は顔を洗い終わった直冬と廊下で出会う。


「どう? 少しはスッキリした?」


「‥‥まあね。」


「コブラツイストは古典的な技だけど、またまだ捨てたもんじゃないよね。」


「だまれよ、プロレス女。

 あーあ、何で俺、三年早く生まれなかったんだろ。」


 目をつぶった直冬が後頭部で手を組み、ぶっきらぼうにつぶやくと、すかさず直実が、


「なになに、そんなに私と双子になりたかったの?」


「そうじゃなくて!」


 顔を真っ赤にした直冬の声が響き渡った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 直冬の告白が切ないですね。
[良い点] 奈留と直冬のやりとりがぽかぽかしました。
[良い点] 直冬くんの告白が泣ける。 直実ちゃんの愛のコブラツイストも泣ける。 [一言] キュンキュンきました。
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