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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第五十一章 遠い一点・後篇
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遠い一点・後篇【Bパート】

「アウト―ッ!」


 二塁塁審が宣告した。


「ああっ、ちくしょーっ!」


 悔しがる鈴木。

 一点が遠いのは春日部(かすかべ)輝松(きしょう)も同じだった。


 春日部輝松の捕手(キャッチャー)中山(なかやま)()は羽野の送球に目を丸くした。


「あいつ、座ったままで‥‥しかも肘から先だけで!」


「ああ、まるでダーツでも投げるような感じだったな。

 まったく、宮町中はビックリ箱だ。

 何が飛び出してくるかわからない。」


 中山田の言葉を受け、その隣りにいた安西が返した。



 七回表、ここまでいい所なしの星野が先頭打者(バッター)だった。


(なんとか俺が突破口を開かないと!)


 ベンチの中で星野は気負い立っていた。


「何、(りき)んでんだよ、てめぇは。」


 聞き慣れた声に振り向くと、そこには治療から戻ってきた太刀川がいた。


「太刀川さん!」


「来た球を打つ、それがお前のスタイルだろうが。

 なに小難しい事を考えてんだよ、その悪い頭で。」


「どうせ俺の頭は太刀川さんみたいに悪いっスよ。」


「なんだよ、その自爆技は?」


「へへっ、おかげで(りき)みが取れたっス。」


 そう言うと、星野はぺこりと太刀川に頭を下げた。


 ● ● ●


 打席に入った星野だったが、えぐスラと荒れ球に苦戦し、フルカウントとなっていた。


(そろそろ限界か‥‥。)


 中山田は監督の鬼崎(きざき)に目配せをした。

 球数の多さに加え、灼熱の太陽が安西の体力を奪っていた。

 コントロールの乱れが目立ち、えぐスラのキレにも陰りが見えてきた。


(このバッターをとにかく打ち取れ。)


 中山田のサインに頷く安西。

 そして投じたのは必殺球のえぐスラだ。

 だが、かつてのえぐさは半分以下になっていた球は、


 コン!


 いとも容易(たやす)くセーフティーバントの的にされる。

 一塁線に転がる打球を、ダッシュしてきた一塁手(ファースト)の遠藤がキャッチする。

 そしてベースカバーに入った二塁手(セカンド)の高橋に送球。


「セーフ!」


 リアルぴのの面目躍如、星野が出塁した。


「よっしゃーっ! よくやった!」


 三塁側ベンチで太刀川が自分の事以上に喜んだ。


 ここで鬼崎(きざき)がタイムを掛け、主審の元へ歩いていく。


「ピッチャー、安西に代えて竹本(たけもと)。」


 春日部輝松の二年、竹本(たけもと)義幹(よしもと)がマウンドに走ってくる。


「竹本? 誰だ、それ?」


 加藤が首を傾げた。


「公式戦の登板データがないので、自分にもちょっと‥‥。」


 和田が県大会用の資料をまとめたノートを見ながら答える。


「あれは、春日部の王子様だよ。」


 直実(なをみ)が真顔で言う。


「ちょ、ちょっと直実先輩!」


 太刀川と一緒に戻ってきた希望(のぞみ)が困惑気味に直実を制止する。


「春日部の王子様ぁ? なんだそりゃ?」


 太刀川が(たず)ねる。

 当然の反応だ。


「希望ちゃんの親戚で、昔よく遊んだんだって。」


「遊んだって、お医者さんごっことか?」


 煩悩(ぼんのう)魔王がいかがわしい手つきで尋ねる。


「なんでお医者さんごっこなんですか?」


 希望は右の眉だけ上げて金森に逆質問する。


「そりゃあ、男の子と女の子がやる事ってったら定番じゃねぇか。」


「いやらしいですよ、金森さん。」


 赤面した希望がむくれる。


「えっ、いやらしいレベルで遊んだの?

 これは参っちゃったなぁ~。」


「そんな話、今する事じゃなかんべ。

 それよりどんなピッチャーなん?」


 竹之内(たけのうち)が希望から情報を聞き出そうとした。


「それが‥‥私も知らないんです。

 第一、春日部(かすかべ)輝松(きしょう)に入ってる事も、野球をやってる事も県大会の時に知ったくらいなんで。

 ――あ、ただ、来年には必ずエースになってみせるって言ってたんで、それなりには実力はあるんじゃないかと。」


「おっ、投球練習が始まるぞ。」


 藤本がベンチの部員たちに声を掛けると、全ての視線はマウンドに注がれた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

1990年という時代なので、ストライクとボールのコールの順番は現代(2022年)とは違っています。

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