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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第五十章 遠い一点・前篇
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遠い一点・前篇【Eパート】

(なんだ、あのリードは!?)


 まるでアウトにしてくださいと言わんばかりの直実(なをみ)のリードに、その場にいた春日部(かすかべ)輝松(きしょう)の全員が驚愕(きょうがく)した。


「なろうっ!」


 当然ながら安西は牽制球を投げる。

 しかし、次の瞬間、直実は二塁(セカンド)へ走り出した。

 あまりにも無謀な盗塁だ。


「させるかよっ!」


 一塁手(ファースト)の遠藤は二塁(セカンド)のベースカバーに入っている高橋に送球する。

 すると突然、二塁(セカンド)ベースの手前で立ち止まる直実。


「はい、アウトっと!」


 直実に右手に持った球でタッチしようと近づく高橋。

 刹那、直実の愛嬌のあるタレ目が鋭く変わる。

 直実はそのタッチを()(くぐ)ると、高橋の左肩に手をついて跳び越える。


「なっ!?」


 あまりの出来事に頭がついていかない高橋。

 慌てて振り向いた時には、直実は神速の五メートルダッシュで二塁を陥れていた。


「こ、これ、野球かよ!?」


 高橋が思わず叫んだ。


「タッチされてないし、ベースラインも外れてないし、問題ないでしょ?

 素人には素人にしか出来ない技があるんだよ。」


 しかし、直実の前代未聞のプレイについて審判団が集まって協議を始めた。


 ● ● ●


 そして五分後。


「アウト!」


 二塁塁審はアウトを宣告した。

 当然、納得のいかない直実。


「ちょっと、なんで!?

 私、ルールを守ってるんですけど!」


「君の今のプレイはとても危険だ。

 プロならいざ知らず、学生野球としては認める訳にはいかない。

 従って、アウトとする。」


「そんなぁ~。」


 直実はその場にへなへなとへたり込んだ。

 ルールの壁に阻まれ、またも宮町中は無得点で攻撃を終えた。



 六回裏。

 二死(ツーアウト)まで簡単に取った松浦。

 そして打席には『黒闇天に愛された男』の異名を取る鈴木が立つ。


「行け行け隆義(たかよし)! 行け行け隆義(たかよし)!」


 大応援団の声援が球場いっぱいに響き渡る。

 それもそのはず、この試合、春日部(かすかべ)輝松(きしょう)の唯一の出塁者である鈴木に掛かる期待は推して知るべしといったところだ。


(前の打席、三振させられたんだよなぁ。

 何とか、ここで一本打っときたいねぇ。)


 初球、百四十キロのストレートを見逃してストライクに先行される。

 二球目、内角への見せ球、シンカーが(から)くもボールの判定。

 首を傾げた土肥は主審に尋ねる。


「今の、ボールですか?」


「ボールだよ。わずかに外れた。」


 神経がピリついていた土肥は松浦に返球した後、人差し指で目を指した。

 その次の瞬間、


「審判への侮辱行為としてキャッチャー退場!」


 二塁塁審が土肥の退場を告げた。


「ちょっと待ってくださいよ、重過ぎないですか、それ!」


 土肥が主審に詰め寄る。


「侮辱行為をしてはいけない。

 学生野球なら尚更だ。

 それぐらい君にもわかるね?」


「‥‥‥‥はい、すみません。」


 一度、下された判定は覆らない。

 土肥は素直に謝罪した。


 ベンチから出てきた三浦は選手交代を告げる。


「キャッチャー、羽野。」


 プロテクターを装着し、ドタドタと走ってくる羽野に、


「後は頼む。」


 と、言葉少なに土肥はベンチへ戻って行った。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

1990年という時代なので、ストライクとボールのコールの順番は現代(2022年)とは違っています。

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