中間テストに潜む魔物【Bパート】
「フユくん、久しぶり! 大きくなったね。」
放課後、鷹ノ目バーバーの店先で直実の弟・直冬に挨拶する奈留に、直冬は頬を染めた。
「こ、こんにちは、奈留ねえちゃん。」
「なぁに赤くなってんだか!」
直実のサイドヘッドロックが直冬にガキッと極まる。
「あででで!
なにすんだよ、ガサツ女!」
「誰がガサツ女だってぇ?
ラリアットとジャーマン、どっちがいい?」
姉弟のやり取りを見ながら笑う明美と奈留、呆気にとられる裕子、ほのぼのとする史香。
「まあまあナココ、勉強会の時間がなくなっちゃうから、今日はその辺でって事で。」
明美が直実の肩を叩いてブレイクさせた。
「ええっ、姉ちゃんが勉強!?
雪どころか槍が降って来るんじゃ‥‥。」
「フユ~、あとでシンプ・シエロン・ロス・アギレスの刑ね。」
「プロレス女が怒った! 逃げろ――っ!」
そう言うと直冬は家の中へ駈け込んでいった。
「相変わらずだなぁ、二人は。」
奈留がくすりと笑う。
「小学生の時はよくウチに来たよね。
中学に入ってっからは初めてじゃない?」
「そうだね。」
「ナココったらもう、いつまで立ち話する気ぃ?」
明美が両拳を腰に当ててプンスカポーズを取ると、
「ああ、ごめんごめん、今、案内するね!」
直実は慌てて勉強会のメンバーを先導した。
● ● ●
「ここが鷹ノ目さんの部屋なんですかぁ。
見た事ない物がたくさんありますねぇ。」
史香が筋力トレ―ニング機器だらけの部屋を見回しながら感想を述べた。
本棚には男女、団体問わずプロレスのビデオがずらりと並ぶ。
中にはアメリカ直輸入と思われる物もあり、直実はこれで英語を自然と学んでいた事が理解出来た。
「鉄アレイに腹筋マシンはわかるけど、アレは何?」
裕子がコンパスのような金属製の器具を指さした。
「アレは開脚ストレッチャーだよ。」
「かいきゃくストレッチャー?」
馴染みのない単語に明美以外の三人が首を傾げる。
「股割りってわかる?
ほら、お相撲さんとかが怪我をしない為によくする、あの痛そうな柔軟運動だよ。
で、その補助をする道具がアレなんだけど‥‥もう出来るようになっちゃったから欲しかったらあげるよ?」
「あ‥‥必要ないかなぁ、今ンとこ。」
奈留が頭に大きな汗を浮かべた感じでお断りした。
その直後だった。
コンコンコン。
やたら丁寧なノック音がした。
「あ、お母さんかな?
――今、開けるね。」
ドアを開けると、お盆を持って立っている直冬がいた。
「姉ちゃん、お茶だって。」
「フ、フユがノックするなんて‥‥!
雪どころか槍が降って来るんじゃ‥‥。」
直実がお返しした。
「いらないなら持って帰るけど。」
「ああ、いるいる!」
直実は慌てて直冬からお盆を受け取る。
直冬は奈留をチラ見してから、
「バカな姉ですが、よろしくお願いします。」
と一礼した。
「どーせ、私は筋トレにステータスを全部割り振ってますよーだ!」
(バカを認めちゃってるけど、いいの!?)
四人が心の中でツッコミを入れた。
感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、誠にありがとうございます。




