負けられない理由・前篇【Dパート】
二回表、球を見る事に徹した雀宮学院の攻撃は三者連続三球三振で終わり、二回裏を迎える。
先頭打者は四番の太刀川。
「ボールフォア!」
太刀川は歩かされた。
(これもベンチからの指示なんでね。)
捕手の滝田が心の中でつぶやく。
それ程までに監督である戸福寺への信頼感は厚いものがあった。
「俺の前に敬遠とはなぁ。燃えちゃうよー、俺。」
そう言うと金森はバットを二回ほど振ってから左の打席に入る。
(このバッター、ランナーがいると集中力が増すタイプだったよな。
――なら、集中力を切らしてやるか。)
滝田は沢村に牽制球を執拗にさせた。
次第にうんざり顔になっていく金森は、2-2からの五球目をセカンドフライに打ち取られてしまう。
(あのキャッチャー、よく研究してる。
金森の弱点、エロい事以外では集中力が途切れやすい事‥‥。)
太刀川は一塁ベース上で軽く舌打ちをする。
(こちらには専属のスコアラーの他、地元の新聞社の全面的なバックアップがある。
君たちのデータは全て掌握済みだよ。)
戸福寺はふっと微笑む。
続く六番・羽野に対しては徹底したインコース攻め。
(このデカブツは身体が硬くてインコースがあまり上手く打てないんだよな。)
が、相撲部での荒療治で弱点を克服したという情報までは入ってなかったようで――
カキ――――ン!
コンパクトに、それでいて思い切りよく百二十八キロのストレートをミートする。
しかし、打球に勢いはあったものの、左翼手真正面のライナーに倒れる。
七番・和田はファウルで十ニ球粘る。
そして十三球目のファウルフライは三塁側ベンチに飛び込む。
「どいてくれーっ!」
三塁手の芋淵はそこへ果敢に突進。
ドガッ!
激しい音の後、ファウルフライを捕球したグローブを掲げる芋淵。
「アウト!」
三塁塁審がコールする。
「幹三、ナイスプレー。」
戸福寺は芋淵のファインプレーを称えた。
(まさかあのフライを捕るとは‥‥せめて、あと七球は投げさせたかったところですが‥‥。)
和田は、ふうむといった表情を浮かべた後、ベンチへ引き上げて行った。
三回は表裏とも三者凡退。
依然、直実の三球三振ショーは継続中。
直実の球数がまだ二十七球であるのに対し、沢村の球数は五十九球と倍近くとなっていた。
「リュウ、満の球数が多い。
これからは早めのカウントでアウトを取ってくれないか。」
戸福寺が捕手の滝田に命じた。
「ああ、わかってる。
けどよ‥‥」
「七番のカット打法とまともにやり合うな。
あのバッターに一発はない。
ウチの守備陣を信頼してやってくれ。」
「そうだな。」
「それから、この回から積極的に振っていけ。
スピードには慣れたはずだ。
データ通りあちらの女投手、スピードは速いが単調だ。
バットを寝かせて軽く振り抜け。
一発はいらない、スモールヒットを重ねて点をもぎ取ってほしい。
行ける‥‥よね?」
「おうっ!」
戸福寺による絶対的な統制、それが雀宮学院の強さだった。
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