惚れました【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「直実ーっ、奈留ちゃんから電話ぁーっ!」
葉子が一階から大きな声で直実に伝えた。
「はぁーい!」
直実が自室のドアを開け、元気な足取りで階段を駆け下りてくる。
「はい、もしもし。」
「ああ、ナココ。
明日関東大会だけど、今日は空いてる?」
「うん、今日は明日に備えて練習は休みだよ。」
「だったらさぁ、うちわ祭に行かない?」
「えっ!? 奈留ちゃん、和田くんと行くんじゃないの?」
「うん‥‥和田くんも行くんだけどね‥‥。」
どうも歯切れが悪い。
「えーと‥‥実は私、アケと行く事になっててさぁ。」
「ああ、アケにも声を掛けたから、その辺は大丈夫。」
「状況が見えないんだけど‥‥最初から話してくれないかな。」
「――だよね。
うん、わかった。」
● ● ●
「ええーっ、新井くんがアケにお熱!?」
直実が素っ頓狂な声を上げた。
「そうみたい。
和田くん、断り切れなくてダブルデートを約束しちゃって。
けど、アケはナココと約束があるからって‥‥。」
「そこまではわかったよ。
問題はその先だよ。」
「フユくんを連れ出すのもちょっと気の毒だったし、ついトリプルデートって事で‥‥。
誰か目ぼしい人、連れて来てくれないかなぁ。
この通り! 頼んます、ナココ大明神様!」
受話器越しで両手を合わせている奈留が目に浮かぶ。
困っている人を看過出来ない自分の性格が恨めしかったが、
「わかったよ、奈留ちゃん!
任せておいて!」
つい勢いで軽返事をしてしまう性格も恨めしかった。
「じゃあ、今日の一時に高城神社の裏に集合って事で。」
「うん。じゃあ、また。」
直実は受話器を置いた。
(目ぼしい人って、どうしよう!?
デート相手だよ、デート!)
直実はその場でガックリと膝を着いた。
「なにやってんだよ、こんなトコで?」
直冬が冷たい視線で問い掛けてきた。
「フユ、あんたまだ奈留ちゃんの事、好きなん?」
直実のどストレートな問い掛けに直冬は真っ赤になってたじろいだ。
「な、な、なんだよ、急に!?」
いくら恋愛に疎い直実でも、この反応を見れば一目瞭然だった。
「ううん、何でもないよ。
気にしないで。」
「ムチャクチャ気になるじゃんか!」
「いいのいいの、オトナの問題だから。」
直実は直冬を追い払うような仕種を取ると、
「なんだよ、ちぇーっ。」
直冬は台所の方へ立ち去って行った。
一方の直実は、
(ああ、どうしよどうしよ!)
魔の無限ループに落ちて行った。
(ん‥‥? でも、待って。
アケはまだ事情を知らない訳だし、私も知らない振りしてればデート相手でなくてもいいじゃん。
条件に合う適当な男子に声を掛ければ‥‥。)
直実は条件を整理してみた。
1・今日、暇な男子
2・誘ってOKしてくれる事
3・新井と和田を知っていて、和気あいあいと話せる事
4・自分が普通に話せる相手
(なんだ、意外と条件は少ないじゃない。)
直実は『デート』という単語に振り回されていた事に今更になって気付く。
と同時に四つの条件を満たす男子の少なさにも気付く。
(羽野くんか多々良くんしかいないじゃん。)
直実は野球部の連絡網を見ながら、羽野の電話番号をプッシュした。
感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。