期末テストを乗り切れ【Cパート】
「千島にノートを借りて正解だったな。」
太刀川の部屋での勉強会で金森が感嘆した。
「ああ。字が読みやすくて要点もまとまってる。
期末テストを受けるには参考書以上のノートと言ってもいいな。」
松浦も共感する。
「俺がカンニングに走りたくなる気持ちもわかるだろ?」
太刀川は同意を求めるが、
「それは微塵もわからない。」
意見は二人に即座に否定された。
コンコン。
ノック音と共にドアが開く。
「いらっしゃい。
うちの愚弟がいつもお世話になってます。」
太刀川の姉がお茶と菓子を持って入ってきた。
髪型は爽やかなナチュラル・ストレートショート。
スレンダーな体型ながら出る所は出ている美しいプロポーション。
太めの眉と切れ長の三白眼は太刀川家の遺伝なのだろう。
「お姉さまですか?」
金森がシャキッと背筋を伸ばし、可能な限りの二枚目声で太刀川の姉を褒める。
「はい、姉の小督美です。」
「お美しい。
高校生でいらっしゃいますか?」
「まあ、お上手ね。学年は高二です。
ごゆっくり。」
小督美はそう答えると、一礼して部屋を出て行った。
「お前の姉ちゃん、美人だなぁ。
俺もあんな姉ちゃんがほしかったなぁ。」
金森がうんうんと一人頷く。
「そうかぁ?
今日は猫被ってんだよ。
普段は結構怒りっぽいんだぜ。」
そうは言っても内心は嬉しい太刀川。
「とても信じられないな。
物腰柔らかそうなのに。」
松浦がお茶を飲みながら話に加わる。
「姉貴は琴やってるからそんな感じに見えるんだろうな。
けどよ、姉貴のプリンを黙って食べただけで三日間は口利かなくなるし、ノック忘れて部屋に入ったらしこたま怒られるしよ。」
「それはお前が悪い。」
松浦と金森はビシッと太刀川を指さし、ユニゾンのダメ出し。
「つーか、お前、姉ちゃんの事、相当好きだろ?」
金森が追及する。
「なんでだよ?」
「わかるよ。
――で、お前は姉ちゃんの下着でエロい事したん?」
「!? し、しねぇよ、ンなコト!!」
「隠さなくったっていいって。
姉ちゃんを持った弟の通過儀礼みたいなものなんだからよ。」
金森は太刀川の肩に腕を回す。
「通過儀礼‥‥なのか?」
「まあ、した後はほぼ百パー後悔するらしいけどな、はっはっは。」
「――だろうな。」
そう答えた後、自分が狡猾且つ卑劣な誘導尋問に引っ掛かった事に気付く太刀川。
「はいはいはい、自白しましたね、太刀川教経くん。」
「ち、違げぇ! 俺はただ‥‥。」
「ただ?」
金森がジト目で見つめる。
「つうか、勉強しよーぜ、勉強。
まずは初日の数学だ。
目指せ、赤点突破!」
太刀川は教科書とノートのコピーを交互に見始めた。
「そうだな。
俺たちは勉強しに来てるんだからな。
――だろ、親分。」
松浦の言葉に、金森は太刀川に回していた手を放し、自分の席に就いた。
「その通り、シャンゼリゼ通り。
さあ、勉強、勉強っと。」
三人はその後もわからない所を教え合い、時に探り合い、初日の勉強会を何とか乗り切った。
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