期末テストを乗り切れ【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「お願い! またみんなの力を貸して!」
直実は学校の廊下で、中間テストを協力し合った同志に両手を合わせて頭を下げた。
「ナココ、県大会で授業にも出てなかったしさぁ、ご協力頼みます!」
明美も頭を下げる。
「うん、私はいいよー。
期末は赤点で関東大会に出られなくなるペナルティはないけどぉ、追試で時間を取られちゃうのはイヤだよねぇ、やっぱり。」
日本史担当の桐原史香がほんわかと承諾した。
「女卓も関東大会行くからナココの気持ちはよくわかるよ。
私でよければ協力させて。
英語と古文がヤバい私としてはとっても助かるし。」
神長裕子も快諾した。
「ナココのピンチは放っておけないしね、私もOKだよ。」
門倉奈留が左手でOKサインを作る。
「今回もみんなの家をローテでいいかな?」
直実の問い掛けに対し、
「了かーい!」
他の四人がユニゾンで答えた。
● ● ●
直実が対テスト同盟を結んでいた頃、この男も同志を求め、あちこちを回っていた。
太刀川である。
「なあ、俺と一緒に勉強しねぇか?」
太刀川はクラスの男子の中で成績のいい望月に声を掛けた。
しかし、
「‥‥お前と勉強して、俺に何のトクがあんだよ?
悪いけど他を当たってくれ。」
と、まあ、こんな調子で断られ続けていた。
全科目赤点である事に加え、人付き合いを疎かにしてきた孤高のスラッガーの悲哀である。
そんな太刀川の背後から、
「ずいぶん苦戦してるみてぇじゃねぇか。
俺でよければ協力しようか?」
見かねた金森が声を掛けた。
「なんだ金森か‥‥。」
「なんだとはご挨拶だな、おい。
同じ赤点常習犯同士、仲良くしようぜ。」
「いや、赤点常習犯同士が手を組んでも何の解決にもならないと思うんだが?」
「お前、知ってるか?
マイナスとマイナスを掛けるとプラスになるんだぜ?」
「なんだと!?
そんな諺があったとは!」
諺ではない。
だが、金森の台詞に感銘を受ける太刀川。
「でもいいのか、俺はテスト範囲も知らないぞ?」
「心配すんな太刀川、俺も知らないから。
けど、たとえ百対ゼロだって諦めなければ何とかなる!」
「そうだな!」
太刀川と金森がグータッチを交わし笑い合った。
「さすがにテスト範囲くらいは知らないとダメだと思うぞ?」
松浦が二人に声を掛けた。
「そういう松浦はわかってんのか?」
太刀川が指さして問う。
「俺は人に訊いたからな。」
「その手があったか!」
太刀川と金森が揃えて手を打った。
「いっくら考えてもダメだったんだよなぁ。」
金森が目を閉じ、腕を組んでしみじみと語る。
「いや、超能力者じゃないんだから、そこは訊こうよ。」
松浦はツッコミ不在の勉強会に一抹の不安を感じた。
「俺も参加していいか?
勉強は俺もあまり出来る方じゃないが、お前ら二人じゃ心配だ。」
「助かるぜ、松浦。」
太刀川が胸を撫で下ろす。
「ところで、どこでやるんだ、勉強会は?
参考書があるといいんだが。」
「参考書?」
太刀川と金森が小首を傾げながらユニゾンした。
「ちょっと待て、お前ら、まさか参考書を知らないのか?」
「本の仲間だって事は知ってるぜ。
だけど、そんな金があるんだったらバッティング理論の本を買う。」
「俺はエロい本を買うな、うん。」
野球バカ一代と煩悩魔王に訊いたのが誤りだったと松浦は悟った。
「しかし、困ったな。
うちには参考書に回す金がない。」
要は三人とも参考書は持っていない訳だ。
「でも、なんで参考書が必要なんだ?
教科書でなんとかなるんじゃねぇか?」
太刀川の質問はもっともだ。
「教科書に書いてある事を理解出来れば、な。」
松浦の簡潔な答えに二人は納得した。
三人とも授業を受けていないのだから、もっともな話だった。
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