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唄う神器とわたしの魔法  作者: 前森コウセイ
上洲異界と帰宅部
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第23話 一年生 五月

 浮遊感が収まると共に目を開けば、そこには石垣積みの大回廊が広がっていた。


 いがらっぽい、木が焼けたような匂いと、強く漂う梅の香りに混じって、ほのかに香る獣脂の埃臭さ。


 遠目の火事のように、回廊はほのかに赤く照らし出されていて、しかし熱さはまったく感じず、ここが現実とは異なる法則にあるのだといやでも理解させられる。


 背後を振り返れば、飛び込んだのと同じ大きな異界口(ゲート)があって、それが出口なのだと絹が教えてくれる。


 先に突入した人達が、壁沿いに寄って装備確認やミーティングしてるのを真似て、紗江達もまた、壁際に寄る。


「それじゃあ、装備と陣形の確認ね」


 そう言われて、紗江達はそれぞれの獲物を取り出す。紗江は鉄鈴扇、(らん)は鉤爪手甲、紅葉(もみじ)は先の膨らんだ鉄杖だ。


「蘭ちゃん以外はみんな後衛かぁ」


 絹もまた、鉄大弓を見せて苦笑する。両端が刃状になったそれは、緊急時には近接戦闘にも使えるそうなのだが、それほど得意ではないそうだ。


「あ、お絹さん、わたしは近接もできるから、中衛扱いだって咲良(さくら)様が言ってたよ」


 紗江が手を挙げて伝える。


 自分ではその辺りがよくわからないのだが、GW(ゴールデンウィーク)の合宿で穂月の型を見た咲良が言っていたのである。

 穂月(ほづき)の型は万変流転にして距離を選ばないのだと。


「そうなの? じゃあ、紗江ちゃんは蘭ちゃんのサポートね。紅葉ちゃんとわたしは後衛」

 頷きで応え、進み始める。


 回廊はやがて直進する道と左手に折れる道に出て、絹は足を止める。


「ここから左に進んで下ると、中層に出るの。中層は大型種属も出るから、具足か甲冑を着られるようになるか、わたし達が一緒の時以外は行かないようにー」


 大型種属と言われて、紗江が思い出すのは大鬼だ。あんなの生身では二度と相手にしたくない。


 絹の言葉にコクコクうなずくと、彼女はにんまり笑って再び歩き始める。

 進む先は中層への道ではなく、直進の方だ。


 大回廊はだんだんと細くなり、高さ二メートル、幅四メートルほどになるが、紗江達と同じように先輩に先導された者達はレクチャーを受けながら、そうでない一年生と思しき数人組の班は、なるべく集団から離れないようにして各々が進んでいく。


「そう言えばみんなは<型>は使えるのかな?」

 そばを歩いて後輩にあれこれ教えている集団に触発されたのか、絹はふとそんな事を言いだした。


「型ですの? 武道や舞踊なんかの?」


 紅葉が小首を傾げると、絹は首を振ってにんまり。


「それを魔道的に発展させたものかな。スキルなんていい方もするけど、うーん」


 うまい伝え方が思い浮かばないのか、絹は人差し指を唇に当てて首を捻る。


「実際に見せた方が早いかな。

 ――すみませーん! 試し撃ちするんで、前空けてくださーい!」


 手をメガホンにして周囲の人達に声をかけ、絹は回廊の真ん中に躍り出る。


 なにかのデモンストレーションと捉えたのか、周囲の人達も拍手で迎え入れ、絹は片手を挙げてそれに応えた。


「向こうの突き当りが見える? あそこを狙うよ?」


 絹が示したのは、五〇メートルほど向こうの突き当りの壁。


 回廊に対して並行に身構えた彼女は、腰に手を当て、肩幅に両足を開き、深呼吸をひとつ。


 次いで左手で弓と矢を持ってゆっくり腰の高さに持ち上げ、腰に当てられていた右手が滑らかに動いて矢羽根に添えられる。


 静かに両手が頭上に掲げられ、そこから開くようにして両手が降ろされると、自然、射型が完成している。


 静と動が同居した美しい姿に、周囲の人達も息を呑んで見守る。


 その豊かな胸の中央で魔道器官がほのかな光を放ち、全身に燐光が染み渡り、やがて弓矢をも包み込んだ瞬間――、


「フッ!」


 バン!と、まるで木板でも打ち合わせたかのような音を立てて矢が放たれ、突風が轟と周囲を薙ぎ倒す。

 同時に衝撃音が響いて、目標としていた石垣が弾け飛び、大きく露地をむき出しにしていた。突き刺さったはずの矢が跡形もなく砕け散っている。


 ――静寂。


 パラパラと石垣に残っていた砂礫が崩れ落ちる音が響く中、いまだ残る風に髪を揺らした絹は、残心を解いて紗江達に振り返る。


「どう? わかった?」


 にっこり微笑む彼女に、

「――いや、わかんねーよ!?」

 この場に居合わせた全員の声がひとつになった瞬間だった。


「もー、なんでわかんないかなぁ」


 頬を膨らませて不満げな絹。


「いや、お絹さんがただのほんわかエロ巨乳じゃない事はよくわかったよ?」


 エロも巨乳も関係ないが、誰もそこには突っ込まない。みんなそう思っていたに違いない。紗江は内心うなずく。


「今のは弓道の基本の射型なんだけど、それを士魂と連動させて行うと、あれくらいの威力が出るの」


「――あそこまで派手なのは珍しいからなー?」


 外野から野次が飛ぶが、絹は気にしない。


「時間がかかっちゃうから、咄嗟に使う事はできないんだけどね。

 そうだ。他にはこんなのもあるよ?」


 言うと、絹はヌルりと動いて、紗江に肉迫したかと思うと、不意にその姿がかき消える。ぴとりと首筋を撫でられて、紗江は悲鳴を上げて背後を振り返った。


「歩法って言うんだけどねー、わたしじゃどうしてもワンステップ余分に必要なんだけど、天恵先輩はこれが得意で、気づくと後ろに回ってたりするんだよー」


「あー、入学式で見た。イジワルな先輩に相手に使ってた」


 蘭が手を上げて応える。


「まあ、なにを言いたいのかというとねぇ、頑張り屋の後輩ちゃん達に、強くなる方法は魔術、魔法だけじゃなないんだぞーって事を教えたかったんだよ」


 腰に手を当て、絹がその大きな胸を張って見せれば、

「おおー」

 その場にいた全員が思わず拍手した。


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