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唄う神器とわたしの魔法  作者: 前森コウセイ
穂月屋敷にて
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第19話 一年生 GW

 ひと騒動あったものの昼食を終え、さらに莉杏(りあ)先生と茉莉(まつり)のシロカダ様への質問は続き、よく理解のできなかった紗江は、シロカダ様の携帯ゲーム器を借りて遊びだした。


 結愛(ゆめ)はというと、ご飯で一度起こしたものの、食べ終わってしばらくは紗江とゲームで遊んでいたものの、再びうとうとし始め、すぐに眠ってしまった。


 本当によく眠る子だ。


 やがて柱時計が一五時を報せると、

「そろそろ帰り道が危なくなるでの。帰った方がいいだろう」

 シロカダ様がお開きを告げ、莉杏先生と茉莉は見るからにしょんぼりした。


「そう残念そうにせんでも、また来たら良い。

 莉杏、おまえの考察はなかなかに面白い。茉莉の刻印法に対する取り組みも楽しかった。

 ――そうだ。(われ)伝文宛(メアド)を交換しよう」


 シロカダ様もこの時間がまんざらでもなかったのか、いそいそとスマホを取り出し、三人で仲良く伝文宛(メアド)交換。


「絶対にまた来ます!」


 鼻息荒く言い募る莉杏先生に、シロカダ様は幼子にするように頭を撫でる。


 紗江はというと、結愛を背負って帰る準備を始めようとしたのだが、

「あー、紗江や。おまえは居残りだ。今晩、泊まっていけ」

「ええ? またゲームの対戦? わたし、友達が待ってるんだけど」

「む。あー……まあそうだ。久しぶりに来たんだ。(われ)とも遊んでおくれ」

 言い淀むシロカダ様に、紗江もなんとなく二人の前では話せない事があるのだろうと当たりをつけて、不承不承頷く。


「じゃあ莉杏センセ。申し訳ありませんが、結愛をお願いします」


「わかったわ。ちゃんと届けるから安心してね」

 と、莉杏先生は眠ったままの結愛を背負って、再度、シロカダ様に一礼。茉莉と共に帰っていった。


 風穴に三人の姿が消えるのを待って、シロカダ様はため息をひとつ。


「あれが神器召喚式の責任者、な。確かにあれほどの知識量があれば、可能だったろうな」


 シロカダ様もまた、叔母美咲が消えたあの儀式の事は気にかかっていたのだろう。


 莉杏先生に探りを入れながら、茉莉には伝わらないよう、濁した言葉で意見交換してみたそうだが、さしものシロカダ様も叔母の失踪原因は皆目見当がつかないと、紗江に説明していた。


 そうして紗江を見下ろし、シロカダ様は続ける。


「だが、神器が消失した理由はわからんかったようだな。そして、なぜおまえがそれをその身に宿してしまったのかも、理解できておらん。ま、(われ)も推測程度の理解でしかないがの」


 弾かれたように紗江はシロカダ様の顔を見上げる。


「おまえを残したのはな、ソレの使い方を教えてやる為なのさ」


 シロカダ様は煙管から紫煙を燻らせながら、紗江を見下ろす。


 二人の視線が正面から合う。


「アレは、まだわたしの中にあるって言うの?」


 探るように問えば、シロカダ様は確かに頷いて、紗江の胸元を煙管で示す。


「どうせ詳しく説明しても、おまえの頭じゃ理解できんだろうから、簡潔に言うが、おまえの壊れた魔道器官と癒着して、さらに裏の位相に隔離されておるの」


「結愛がなにかしたようなんだけど……」


「あの娘がしたのは、魔道器官と神器の間の回廊を整えたのだろう。なぜそれができたのかはわからんが……あの娘からは貴属の匂いがしたからの。貴属なら無意識にそれができたとしても不思議ではない」


 精霊を介さず、動作や呼吸ひとつで魔道を操る、人の上位種。

 それが貴属だ。人では理解できない出来事を彼らは鼻歌交じりにやってのける。


 結愛がそんな種属かもしれないと知って紗江は息を呑むが、そこが本題ではないとばかりにシロカダ様は話を進める。


「おまえ、儀式の最中になにを願った。なにを望んだ? 恐らく神器はそれを叶えるためにおまえに宿ったはずだ」


「わたしは……あの時……」

 薄れゆく意識の中で、なにを考えていただろう。


 美咲お姉ちゃんが消えて、みんなが倒れていて、慈雨(じう)様と咲良様が必死に舞い唄っていて。


 鬼女が恐ろしかったのは覚えている。大怪我をして、血が止まらなくて、身体がだんだん冷たくなっていって……


「――ああ、みんなで帰りたいなって……」


「ふむ……」


 シロカダ様は顎に手を当て、鼻を鳴らす。


「みんなの中に自身も含めたか。破損した魔道器官(リアクター)では治癒を受け付けんだろうから、自らをその代替として器官の主要部を修復――喚主の美咲と血縁だったのも理由か。宿主を誤認した可能性もあるが……」

 ブツブツと口の中で考えをまとめ、頭を掻く。


「ま、正確なところはわからんの。喚主の美咲が残っておれば、また違ったのかもしれんが、今は要は使い方さえ覚えれば良いだろう」


「どういう事?」


「家伝と一緒って事さ。原理理屈はわからなくても、使い方はわかるって事」


 小首を捻る紗江の額を指先で弾き、シロカダ様は不敵に笑って見せた。


「おまえが学校で神器を使ってしまった事は静江から聞いた。

 これからおまえのそれを狙って、良からぬ考えを持つ輩も出てくるだろう。そういう連中から身を守る術をお前は身に着けなければならん。

 ――おまえがおまえのやりたい事を成すべき為にも」


 そう言って一息。シロカダ様は笑みを濃くして紗江を見据える。


「なるんだろう?

 ――誰かを助けられる誰かに」

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