虚無飼育日記
9月22日
今日から虚無を飼うことにした。元々は犬や猫にしようかと考えていたのだが、生まれて初めてのペットということもあり、恥ずかしながら命ある生き物を飼育するハードルの高さに尻込みしてしまった。
ここに住みはじめたときもペット禁止とは言われなかったが、虚無ならばトラブルの原因となりやすい鳴き声も気にならないのが利点だ。さらに毎日の散歩や定期的なブラッシングの必要もないし、食事やトイレの心配すらせずにすむ。病気に罹ることもなければ、永遠の別れを経験する必要もない。
名前はムー子に決めた。生後三か月の女の子。まだ少し足取りがおぼつかないようだが、そのよちよち歩きが可愛らしい。これからどんな風に成長していくのか楽しみでたまらない。
9月23日
飲食の必要はないと分かってはいたのだが、やはり何もあげないのは可哀想なので、小さな平たい皿に水道水を注いで置いてみた。ムー子は、最初恐る恐る指先を水につけていたが、しばらくするとぴちゃぴちゃと音を立てて美味しそうに飲んでくれたので良かった。
今日は、かなり暑かった。しばらく寝苦しい日が続くのだろうか。
9月24日
昨日の暑さが嘘みたいな肌寒さだ。ムー子は体調を崩したりしないから安心だ。今日は「お手」を試してみたが、なんと一回目から俺の掌に自分の小さな右前足を差し出した。この子は生まれついての天才虚無なのかもしれない。せっかくなのでこれからもいろいろな芸を教えてみようと思う。
9月25日
ムー子は順調にすくすくと育っている。もう5歳児ぐらいの大きさはあるんじゃないだろうか。今日は虚無ボールを投げて一緒に遊んだ。本当に覚えが早くてこっちが驚いてしまうほどだ。尻尾をぶんぶんと振りながら、ボールを咥えて俺の元に駆けてくる姿がとても愛おしい。
9月26日
今日は簡単な言葉を教えてみた。当然、最初は俺の名前。さすがにすぐにとはいかなかったが、数時間根気よく練習した結果、はっきりと「ま・さ・き」と呼んでくれた。自分の名前を口にしてもらえるだけで、涙が出るほど嬉しかった。他にも「む・う・こ」「ご・は・ん」「お・み・ず」「あ・そ・ぶ」の4単語も覚えた。ムー子はやはり素晴らしく賢い。誰かに自慢できないのが残念だ。
9月27日
ああ、どうしよう。どうしよう。どうしよう。
ムー子がいきなり姿を消してしまった。まさかこんなことになるとは思いもしなかった。しかも、よりによってこんなひどい嵐の日にいなくなるなんて。無事を祈ることしかできないのがもどかしい。今にも胸が張り裂けそうだ。
9月28日
今日もムー子は帰ってこなかった。
9月29日
今日もムー子は帰ってこなかった。
9月30日
今日もムー子は帰ってこなかった。
10月1日
良かった!! ムー子が帰って来た!! しかも、驚くべきことに隣には1匹の野良虚無を連れていた。これが犬や猫であれば簡単に飼うことはできないが、虚無なら何匹飼っても負担になることはないし、ムー子が気に入った虚無なら悪い虚無じゃないだろう。新しいオスの虚無は無一郎と名付けた。
10月2日
ムー子と無一郎は仲良くじゃれ合って遊んでいる。いつか二人の間に子供虚無を授かったりする日が訪れるのだろうか。将来が楽しみだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
9月22日
しばらく仕事が忙しくて構っていなかったことが原因なのでしょうか。私の脳内彼氏が突然、虚無を飼い始めました。自分でも何を書いているのかよく分かりませんが、事実なのだから仕方がないのです。元々ちょっと天然っぽいところはあったのですが……まあ、でも何だか面白そうなので、しばらく様子を見守ることにします。




