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自称陰キャは許せない。

さて、誰視点でしょう?


「あれ、しまった・・・・。現国の教科書、家に置いてきちゃった」


「はぁ? もう、何してんのよアンタ。今日瑠璃ちゃん休みだから担当河爺だよ?」


「うわぁ最悪。絶対入れ歯飛んで来るぐらいキレられるじゃん」


「もう。しゃーないわね。ほら、机くっつけなさいよ。見せたげるから」


「マジで!? あざっす! 桜ちゃんマジ天使!」


「ふふん。そうでしょう~。肉まん二個で手を打ってあげるんだから、ありがたく思いなさい」


「あ、違った。ただの食いしん坊だったわ。天使とか言って損した」


「何でよ! 超優良条件じゃない!」


「いや百歩譲って肉まん要求するとこまではお茶目で見逃せるけど何で二個なんだよ。普通一個じゃん。もうちょっと恥じらいなさいよ思春期女子」


「だって、部活の後お腹空くんだもん・・・。もう良いわよ! そんなに文句言うなら見せてやんないから!」


「あ、嘘嘘嘘! 桜ちゃんマジ女子力限界突破のあざとさ満点男たらし! 肉まん二個でも三個でもおごるから見せて!」


「そ、それ褒めてるつもりなの? ・・・・・・ピ、ピザまんも付けなさい」


「いやどんだけ食べるんだよ。別に良いけどさ」


「うっさい!」




 ・・・・・・・・・・は? 何あのやり取り。クッソうらやまマジ卍なんですけど。ラノベか? この世界はラノベなのか? だとしたらアイツ絶対主人公だよね。え、何それ。ガチでぶっ殺したい。


 あ、どうも。東横高校一年B組の片隅で、今日もひっそりと馬車道さん(ガチで天使では?)を見守る静かなるドン、山北町(やまきたまち)世附(よづく)です。

 すいません嘘吐きました。ドンじゃなくてただの変わった名前のモブです。


 まあ俺の事は置いといて、何なんですかあのモサ眼鏡? いや僕も眼鏡なんですけど。サラサラストレートヘアなんであいつよりはモサくありません。じゃなくて、何すかあの自称陰キャ野郎。我らが天使とたまたま隣の席だからってちょっとイキり過ぎでは?


 そもそも、何であんな俺と大して変わらない地味な奴が、馬車道さんや磯子みたいな目立つ二人と一纏めで三馬鹿とか呼ばれてちゃっかりクラス内のポジション確保してるのかって話ですよ。本来ならクラスカースト最下位に位置してるはずなのに、何その枠外扱いみたいな感じ。ラノベ主人公かよ。死ぬほど羨ましいわ。俺だって隣の女子とイチャイチャ教科書二人で見ながら授業受けたり放課後一緒にダラダラ過ごしてみたいわ。え、何それホント良い。


 と、そんな事をチラリと考えながら何となく隣の女子をチラ見すると・・・・・。


「あ? 何?」


「な、何でも無いです・・・・・」


 怖っ! 何でアイツの隣はガチ天使なのに俺の隣は悪鬼羅刹なガチンコギャルなの? 運命理不尽過ぎません? リアルが充血してるんですけど。


 まあね、それはもう良いんですよ。いや良くないけど。でもこれは奴が能動的に何かした結果じゃなくて運命の悪戯だからまだ何とか血の涙を飲んで許せなくなくも無いんですよ。いや無いけど。

 

 けどそれ以上に、何よりも、絶対的に許せない事は・・・・・・。


「てかさ、()()()()それだけ食べてて何で太んないの? やっぱ部活とか運動やってる人って痩せやすいのかな」


「知らないわよ。寧ろ、隙あらば体育の授業もさぼってるアンタがそんなガリガリな方が心配通り越して引くんだけど・・・・。あと、桜ちゃんて呼ぶな」


 あれですよ! 聞きました!? 何あの呼び方!? はぁぁぁぁっ!? マジ極刑案件なんですけどぉ!?


 普通さ? 俺らみたいな地味な奴は女の子と話すだけでも緊張してしどろもどろになる物じゃん? それが不文律で常識で絶対遵守の真理じゃん? なのに下の名前でしかもチャン付け呼びとかどんだけまとめてハードル飛び越えてんだよ。寧ろダンプカーで全部撤去してるじゃん! てかお前が撤去されろよ!


 いや知ってるよ? 馬車道さんが上の名前で呼ばれるの嫌いだから、仲が良い奴はみんな「桜」って呼んでるのは。でもさ? それはそれこれはこれじゃない? 超えちゃならない一線てあるじゃない? 俺ら草食動物がどんだけ勇気出して話しかけてると思ってんの? あれか? お前は今流行りのロールキャベツ男子とかそういう奴か? ならそのままコンソメに溺れて死にさらせ!


 くそっ・・・・アイツだってつい最近までは照れて「馬車道」とか「桜子ちゃん」とかちょっとイジりっぽく呼んでたくせに、いつの間にか更に距離を縮めやがって。これだからラノベ主人公みたいな奴は油断ならないんだ。


「うっす、山ちゃん! お、何だ? ま~た湊にヤキモチ焼いてんのか?」


「い、磯子!? いや、俺は別に・・・・・」


 と、俺がギリギリと歯ぎしりしながら憎き罪人を睨み据えていると、後ろから長身の無駄に爽やかな男に声をかけられた。


 磯子蓮。我らが天使と、打ち首必須のクソ野郎と共に三馬鹿と呼ばれている下ネタのっぽだ。


「わっかんねぇんだよなぁ。あのチンチクリン桜のどこがそんなに良いのかねぇ・・・・。まあ、それはともかく安心しろって。俺も湊も桜とは仲良いけど、付き合うとかそういうは()ぇから」


「だ、だからそんなんじゃ無いって言ってるだろ!」


「はいはい。てかさ、山ちゃんまあまあ顔整ってんだから、眼鏡外して前髪もうちょい短くすれば? 桜が食いつくかは分かんねぇけど、普通にそこそこモテんじゃね?」


「わっ!? ちょ・・・・・」


 勝手に俺の眼鏡をはずして前髪をめくり上げる磯子に抵抗を試みるも、力でも身長でも敵わない俺はあっさりと剥かれてしまう。うぅ・・・お嫁に行けない・・・・。


「なあ? 伊勢原もそう思うだろ?」


 しかも俺の頭を鷲掴みにして、ぐるりと隣のガチンコギャル・・・・・もとい、伊勢原さんの方へと無理やり顔を向けさせる。


 くっ、悔しい! でも期待しちゃう! 伊勢原さんはぶっちゃけ怖いけど、顔は綺麗系でスタイルも抜群な読モ系美人なのだ。もしかして、これでワンチャンあれば俺も晴れてラノベ主人公的な青春ライフを・・・・・・・。


「へっ!? あ、えっと、い、良いんじゃね? てか、いきなり話しかけんなし・・・・・」


 ・・・・・・お? あれ? この反応、マジでワンチャンあるのでは? 何か頬赤らめて俯きながら毛先いじいじしてるし。これ、アレか? いわゆる雌の顔って奴では!?


「て、てかさ! 何で桜のことは桜なのに、ウチの事はまだ伊勢原なわけ!? ・・・・・み、美乃里(みのり)で良いって言ったじゃん」


 ・・・・・・・・・・・ん? んん~? あるぇぇ? おっかしいなぁ? なんかどう見ても、伊勢原さんのチラチラ見てる視線の先は俺じゃ無くて・・・・・・。


「おお、悪い悪い。てかさ、美乃里スカート短すぎじゃね? 朝からあんま興奮させんなよな」


「ば、馬鹿! マジ最低!」


「はははっ! あ、山ちゃん後で科学の宿題見せてくれよ。昨日バイトで疲れ果てて全然出来なかったからさ。あのお子ちゃま二人もどうせまともにやって無いだろうし」


「お、おう」


「サンキュ! んじゃまた後でな!」


 俺が言ったら一発で通報物のド下ネタをさらっとぶち込んで、磯子は嵐の様に去って行った。


「・・・・・・もう。ホント馬鹿」


 ・・・・・・・・・・・・・そして、その背中を伊勢原さんが、何やらウルウルした瞳で見つめている。


 これアレですね。完全に俺はアウト・オブ・眼中って言うか、伊勢原さん完全に磯子にフラグ立ちまくりですね。何がワンチャンだよ。寧ろワンちゃん並みに遠吠えしたいわ。爆発しろ。


 忘れてた。磯子はあんだけフリーダムに下ネタ言いまくってるくせに、密かに女子人気高いんだよな。まあ馬車道さんはたまにゴミを見る様な目で見てるから、多分大丈夫だと思うけど。


 はぁ・・・・・結局、青春して無いのは俺だけか。良いなぁ。こんな事ならダメもとで高校デビューとかしてみれば良かった。


「ね、ねえ、山北町」


「ん? あ、ああ、伊勢原さん? 何?」


 何だろ突然。もしかして磯子の連絡先でも聞かれるのだろうか? いや、でもクラスのグループラインで知ってるだろうし、今更それは無いな。じゃあアレか? 女子の好みとか? どうしよう。そんな事まで話すほど俺、磯子と仲良くないんだけど・・・・・。いっそ腹いせに物凄い変態趣味という事にでもしてやろうか。


「あのさ、ウチも科学の宿題やって無くて、だから、後で蓮と一緒に見せてもらって良い?」


「っ!? う、うん。別に、良いけど」


 お、おおう。不覚にも、ウルウルした瞳でお願いされてトキめいてしまった。でもこの子、あの下ネタのっぽの事好きなんだよなぁ。


 ・・・・・ふっ、まあでも、頼られるのは悪い気しないし。どうせ自分が青春出来ないなら、恋のキューピットにくらいなってやりますかね。


「あ、ちょっ!? 桜ちゃん!? それ僕のカフェオレ!」


「良いでしょ別に。手付金だと思って献上しなさい。あとデカい声で桜ちゃんて呼ぶな」


「そんなぁ・・・・。ああ、僕のファースト関節キッスがあっさりと食欲魔人に奪われるなんて」


「ぶふっ!? き、キショイ言い方するな!? この根暗眼鏡!!」


 



 ・・・・・・・・・・・・・・でも、アイツだけは絶対に許さない。絶対にだ。






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