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高校生はモッテない。

蓮くん視点です。


「ああ〜、何か面白いこと無いかなぁ」


「何よ藪から棒に・・・・・。普段は斜に構えてズレたことばっか言ってるくせに、いきなり高校生っぽい発言するのやめてくれない?」


 湊の特に意味の無いぼやきに、今日も桜は律儀にツッコむ。こいつら、ホント仲良いよな。お兄さんはほのぼのするぜ。

 別に俺はこいつらより年上な訳じゃない。留年も浪人もしてない、親孝行な現役合格高校一年生だ。でも、昔から一歩引いたとこで他人を観察する癖がついているせいか、どうにも同年代の連中が子供に見えてしまう。


 中でも、特にこの二人は別格でガキっぽくて、それが可愛くて、ついつい構いたくなるんだよな。


「蓮? 何ニヤニヤしてんだよ。まだ面白いことなんて何も起こって無いぞ」


「いやぁ、俺はお前ら見てるだけで十分面白いんだけど、まあそうな。最近俺ら、この辺ブラブラするだけで、何もしてねーし」


 俺は周囲を見回しながら、何でも有りそうで何にも無い、海沿いの街並みを眺める。

 俺らが通ってる東横高校は、控えめに言っても立地に超恵まれてる。最寄りは元町中華街駅の近くで、教室の窓からは海が見えるし、学校を出ればすぐに散歩やランニング、あと何より重要なデートに持って来いな山下公園に辿り着く。・・・・・・でも、景色とかを楽しめたのなんて最初の一ヶ月くらいで、慣れちまえば普通に日常風景だ。寧ろ、色んな事に興味あがありありの有りな俺たち高校生には、ちょっと物足りない。


 『横浜市開港記念会館』とか、『横浜市イギリス館』とか、最初に見た時は「おお〜」ってなったけど、それだけだ。別にガキの俺らが何度も見て面白いもんでも無い。・・・・・・てか、『横浜市』主張強すぎじゃね? あんま自分の事アピールすると逆にモテないよ? 千葉の控えめさを少しは見習った方が良いと思うんだ。だってせっかく世界一のテーマパークが出来たのに、『東京ディズニーランド』って名前付けちゃうんだぜ? 譲り合いの精神ハンパなく無い? 奥ゆかし過ぎてマジ千葉が大和撫子。


「二人揃って使えないわね。なら、中華街か赤レンガでご飯食べようよ! 今日午後練超キツかったから、めっちゃお腹空いてんの〜」

 

 そう言いながら、桜は自分の腹を押さえて猫のように背を丸める。

 う〜ん。確かに顔はそこそこ可愛いんだけど、このペットにしか見えない生き物のどこを他の男子連中は異性として意識しているんだろうか。餌をあげたくなる母性?父性?みたいな部分は刺激されないでも無いけど、少しもアッチ系の想像が出来ないしする気にもならないんだよなぁ。ホント、マジで何でこいつモテるの?


「桜ちゃんたら、女の子がはしたないわよ」


「だから突然のキャラ変やめなさいよ。一瞬誰か分かんなくなるでしょうが。あと、桜ちゃんて呼ぶな」


 再びじゃれ合う小動物×2を見て、俺は日向ぼっこでもしているような顔になる。なごむわぁ〜。


 湊は俺よりは桜のことを女子扱いしてるけど、異性とか恋愛対象とか、そういう目では多分見てない。と言うかそもそも、コイツはその手のことに他の同年代の奴らより興味が薄い。

 桜が良く吠えるけど人懐こいペットショップの犬みたいなイメージなら、湊は気まぐれな野良猫だ。餌をくれる人のとこにはチョコチョコ顔を出すけど、根っこのとこでは警戒心が強くて、自分が興味有ること以外にはとことん関心が無い。だから友達も少ないし、誤解される事も多い。


 それでも、俺や桜はコイツに結構好かれてる方だと思う。湊は不特定多数に良い顔しない分、気を許した奴にはとことん甘くて自分もワガママを言うのだ。・・・・・これでもうちょいスペック高かったら、結構モテると思うんだけどな。マジで興味無いことは少しも努力しないんだよなぁ。ま、そういう不器用さがコイツの面白いとこでも有るんだけど。


「まあ桜の女子力の低さは今更だから置いといて、お前ら、そもそも買い食いする金あんの?」


「うっ・・・・・そうだった、お金・・・・って! 女子力低いって何よ! 人間なんだから身体動かしたらお腹空くのは普通のことでしょ!」


「そういう事を大声で言っちゃうとこだと思うよ。まあそれは良いとして」


「良くない!」


「じゃあ良くないとして、確かに蓮の言う通り、限りある僕たち高校生のお小遣い事情を考えると、中華街とか赤レンガのご飯屋さんはちょっと高いよね。基本観光客の足元見てる値段だし」


「湊〜。お前もそう言うとこだぞ〜。すぐ捻くれた言い方してからに。面倒臭い男はモテないぞ?」


「ふっ・・・・。蓮は分かって無いなぁ? 社会に出れば、お金にシビアな価値観を持ってる男の方がモテるんだぞ?」


 桜によく「腹立つ顔」と言われているドヤ顔で、「モテの秘訣!」とかを偉そうに語ってる見るからにモテないYoutuberみたいな事を言い出した湊に、俺は珍しく冷静に突っ込んだ。


「親に養って貰ってる奴が小遣いの使い道でケチ臭い事言ってて、本当にモテると思うのか?」


「ぐはっ!?」


「てか、アタシらまだ社会に出て無いし。あと、ぐちぐち偉そうに観光地のご飯の値段で文句言う男とか、普通に無い」


「ぐふぅっ!?」


 俺のジャブからの桜の追い討ちアッパーで、あっさりと湊は撃沈する。「だって・・・・・昨日見たYoutubeで言ってたんだもん・・・・・」とか呟きながら、道の端を行儀良く並んで進む蟻の最後尾について行こうとする様は、文字通りの虫けらだった。大して恋愛とか興味無いくせに、半端にモテようとするからそうなるんだぞ〜。


「はぁ。ったく、しゃ〜ないな! んじゃ、バイトの給料が昨日入ったお兄さんが特別に奢ってやるから、普通に駅前のセブン行こうぜ」


 自信喪失して虫けらの仲間入りしそうになっている湊と、腹が減ってツンデレのツンに拍車がかかりまくっている桜が居た堪れなくなってきた俺は、気がつけばそんな事をポロッと口にしていた。


「「お兄ちゃん大好き!!」」

 

 すると、一瞬にしてケロッと表情を変えた小動物(馬鹿)×2は、キラキラした瞳で俺を見上げながら無駄に完璧にハモる。

 そして、俺が目を白黒させている間に二人で腕を片方ずつ掴んでぐいぐいと引きずって行った。


「お、お前らなぁ・・・・・・」


 苦笑いしつつも、やっぱりこいつら、可愛いなぁ・・・・・・と、思ってしまっている時点で、なんだかんだ俺が一番馬鹿なんだろう。





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