類は友を呼ばない。
桜ちゃん視点です。
自分で言うのも何だが、私は昔からそこそこモテる。
小学校は一年生から六年生まで告白されなかった学年は無かったし、中学は一年の時に一個上の野球部の先輩と付き合ってたから告白はあまりされなかったけど、それでも男子の視線は感じていた。・・・・・まあ、あの頃はまだ恋愛よりも部活の方が楽しくて、結局先輩とは手を繋いで帰るくらいの事しかしなかったんだけどね。
だが、それは全部、あくまで異性の話で、同性には多分、割と嫌われていた。
「おーい、桜ちゃん?」
「へ? な、何よ?」
「いや、似合わない物憂げな顔で窓の外を見つめているところ声かけて申し訳ないけど、次、移動教室だから」
「なっ!? ど、どういう意味よ! あと、しれっと桜ちゃんて呼ぶな!」
だが、最近は何故か同性にもモテるようになった。・・・・・・認めたく無いが、その理由は多分、この絶妙に腹立つ言動が唯一の特徴な冴えないボサボサ眼鏡と・・・・・、
「お? 何だよ桜。遂にお子ちゃまにも恋の病で悩む時が来たのか? お兄さんに相談してみ? 男を骨抜きにするあ〜んなテクからオススメの下着のチョイスまで、全部面倒見てやるぞ?」
「う、うるさい! 死ね! この変態のっぽ!!」
あと、この人の姿をした万年発情期の猿男と、つるむようになったからだ。
正直に言って、入学したばかりの頃は、この二人とこんな風に普通に話すようになるなんて、全然思って無かった。もちろん、同じクラスで席も近いから、何となく顔と名前は覚えてたけど、興味も無かったし、何なら磯子の奴に至っては普通に軽蔑してた。・・・・・だってそうでしょ? 共学だからクラスの半分女子で、何なら先生も女の人なのに、平気で大声で下ネタ言うような男よ? 関わりたくないと思って当たり前じゃない。
湊も湊で、自分から他人に話しかけたりしないタイプだし。何より見るからに根暗だし。とてもじゃないけどソリが合うとは思わなかった。と言うか、今でも別に合ってない。
でも、それは二人も同じだった。
何度も自分で言うのはちょっとアレかと思うけど、私はモテる。だから、入学とかクラス替えとか席替えとか、そう言うイベントの度に新しく出会う男子は、大抵私を“女の子’’を見る目で見てきた。それ自体は別に悪い気はしないし、私自身、愛想が悪い方じゃ無いから、そこそこは誰とでも仲良くなった。・・・・・・けど、やっぱり異性として意識して来る相手とは、こんな風に気安く話したり、大声で悪態吐いたりは出来なくて、どうしても距離があった。
けど、湊と磯子は、ちょっとこっちがムカつくくらい私を異性として意識していなかった。
だからだろう。いつの間にか、滅茶苦茶に腹立たしい事だが、こいつらと話している時間を、居心地良く感じていたのだ。
そうこうしている内に、先生からは三馬鹿なんて呼ばれるようになって、クラスの中でイジられグループみたいなポジションになった。すると、中学までは私を遠ざけていたはずの女子たちも、普通に話しかけてくれるようになったのだ。
彼女たち曰く、『桜って、可愛いし気が強そうだから最初はちょっととっつき辛かったけど、話すと意外に普通で良い子って言うか、ちょっとオカンて感じで落ち着くww』だそうだ。・・・・・微妙に嬉しくないけど、それでも同性の友達が沢山できたこと自体は嬉しいし、彼氏が居た中学の時よりも、申し訳ないけど今の方がずっと楽しい。
・・・・・・あとついでに、恐らく女子からだと思しきラブレターが、たまに下駄箱に入っている。今のところ宛名が無い、想いの丈だけ綴った可愛いらしい物だけだから別に良いけど、真剣に返事を求められたらちょっと困ってしまうかも知れない。いや、気持ちは嬉しいのよ? でも断り方むずくない?
まあ、それはともかく。この学校に入ってからの良いことも悪いことも、こいつらとつるむようになったお陰(せい?)なのだ。
「はぁ・・・・・」
「どったの? ため息なんか吐いて」
「別に。何でも無いわよ」
「おいおい湊。聞いてやるなよ。いくら桜がお子ちゃまでも、もう高一なんだから流石に来るものは来てるだろ? 男はそういうとこも汲み取れないとモテないぞ?」
「来るもの・・・・? あ! ああ、そう言うことか! ごめん桜ちゃん! 今の無し! 気にしないで!」
「は・・・・? って、はぁ!? 違うわよ馬鹿!! てか、その発言自体がデリカシー皆無でしょうが!!」
「え!? 違うの!? でも、桜ちゃんが考え事なんてする訳無いし・・・・・」
「私を何だと思ってんのよこの根暗メガネ!! あと、桜ちゃんて呼ぶな!」
「どうでも良いけど、そろそろ行かないと遅刻するぞ? 次ハゲワシの化学だろ? 遅れたら一時間まるまるネチネチ嫌味言われるぜ絶対」
「うわっ、そうだ・・・・・ほら桜ちゃん。何か知らないけどボーッとするのは後にして、早く支度しないと置いてくよ!」
そう言いながらも、湊は席から立ち上がっただけで、私の支度が済むまで動こうとしない。コイツは謎に自己評価が低いけど、こういう所は案外義理堅いと言うか、普通に良い奴なのだ。
因みに磯子は既に教室から出て行った。あいつは平気で他人を見捨てて行くのだ。死ね。・・・・・まあ、とは言いつつ、多分先に行って私らが遅れてる言い訳とか適当にでっち上げて誤魔化したりしてんのよね。腹は立つけど、憎めない奴。
ほんっとにマジで一ミリも感謝する気なんて起きないけど、でも、何だかんだで、コイツらが居ないとしっくり来ない。それくらいには、私もこの三人でつるむ時間を気に入っているのだ・・・と、思う。
「・・・・・ふっ。だから、桜ちゃんて呼ぶなっつの!」
そう言って、私は科学の教科書とノート、あと筆箱を持って、駆け出した。
運動音痴の湊が、追いつけない速度で。
「あ、ちょっ!? この薄情者ぉ〜!!」
後ろから湊が情けない声で叫びながら追いかけて来るけど、ちょっと走っただけでゼェハァ息切れして曲がり角の後からは振り返っても姿が見えなくなった。どんだけ体力無いのよ・・・・・・。
まあ、私が間に合ったら、‘‘湊はお腹壊してトイレから出られなくなってました’’、くらいの言い訳はしておいてあげよう。うん。そうしよう。
・・・・・・因みに、普通に間に合った私と、後からギリギリチャイムが鳴ると同時に化学室に入って来た湊を、ハゲワシ(中年化学講師)とクラスメイトたちがほんのり頬を赤らめて見てきた。
何事かと思ったら、先に着いていた磯子が、『湊と桜は教室で保健体育の保健の補習をしているので、少し遅れて来ます。因みに、‘‘女の子の日について’’、という非常に重要な内容なので、そっとしておいてあげて下さい!』と、高らかに宣言しやがったせい、と、授業が終わってから仲の良い女子がチラチラ私と湊の間で視線を彷徨わせながら教えてくれた。
私は無言で上履きを脱いで手に持ち、部活で鍛え上げた運動能力の全てを持ってして、悪しき下ネタクソ野郎を背後から襲った。