表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

1-9 全身チートの森の王と、神々の悪戯

「ところでさっきの水の魔法はいつ覚えたんだ?」


「それ、聞く? ……その、おもらし、したの、早く洗い流さなきゃと思ったら、習得できた」


「……悪い」


だが、それが本当なら改めて、ルリは凄い。

ファイア・ウォールの時といい、『必要な時に必要な魔法を習得している』ように感じる。

ルリがいれば、この状況も何とかなるかもしれない。

わずかだが、希望はある。ないよりはマシだ。


トン、トン


森林王がその巨大な脚で、地面を軽く鳴らす。

周囲に張られた結界の輝きが増し、森林王自体も金色の光を纏う。


「ルリ、あれは?」


「解析。『生殺与奪の結界:自身の半径100mに回復魔法・スキルの発動を封じる上級結界を張る』。もう一つ、覆っている方のスキルは詳細がわからない。多分、まだ『効果の発動』はしていないんだと思う。私たちと距離を空けた隙に、2つスキルを発動された」


森林王は動かない。祈りを捧げるように、空に顔を向けているのみ。


「まさかあいつ……こうやって無尽蔵にスキルを重ね掛けしていくつもりじゃ……」


ただでさえ、絶対的な力の差がある。

それでもなお、その差を広げ続ける。

まるで、不敬を働いた下等生物が絶望するのを楽しむかのように。

それが『王の狩り』とでもいうかのように。


「いい加減にしろこの野郎!」


ツバサが森林王目掛け、気刃を放つ。

王は気にも留めない。

直撃、しかし、ダメージは1。


「アイアン・フィスト」


続けてルリの魔法。鉄のこぶしが王の顔面を不敬にも殴りつける。

しかし、こちらもダメージは1。


「……わかった。あの体を覆っているのは『神威:中級以下の魔法・スキルによるダメージを1に留める』。攻撃を受けたことで発動したから、詳細がわかった」


「は……?」


HP5150の上にダメージは1しか通らないとすると、単純に考えると5150回攻撃を当てる必要がある。

あまりに非現実的だ。


「上級魔法、スキルなら通るんだよな? ルリ、上級魔法とかって……」


「……使えない。1つも。そもそも、上級魔法、スキルはAランク冒険者が持つようなレベルのもの。仮に今、覚えられたとしても、おそらく、MPが足りない」


ツバサが言及したかった事をルリが先取りする。

希望の1つは、ルリの魔法習得にあった。だがそれも、上級でなければ意味がなく、かつ、もし覚えたとしても発動ができない。

絶たれていく。希望が。1つ1つと。


「――なら、物理攻撃を試したい。俺が斬りこむ。すなまいが守ってくれ。あいつの攻撃受けたら、俺、多分死ぬから」


ルリの返事を待たずにツバサが斬り込む。ルリならやってくれる。命を任せたんだ。もし死んでも文句は言わない。

視界の外に回り込むように接近。

王はその姿を追うように顔を少し動かす。


(視た? なんでだ?)


しかしそれ以上、身体を動かす様子は見られない。

王の前足を剣で横に薙ぎ、そのまま走り抜けようとするが――。


――キィン


「ぐあっ!」


剣がはじき返され、ツバサは体制を崩す。

王は虫けらを踏み潰すように、その足をゆっくりと掲げる。


「ファイア・バレット。アゲイン、アゲイン」


そこにルリの魔法が炸裂する。炎の弾丸が3発。

王の動きがわずかに鈍る。


「アイアン・ツイン・ハンド」


ルリが両手を前に出す。ツバサの眼前に巨大な石の手が2つ出現し、片方は振り下ろされる王の足を受け止め、片方はツバサを掴み、王から引き離す。

王の足を受けた方は粉々に砕けるが、ツバサは退避に成功。


「スキルの発動を確認。『不敬:自身の対象部位への物理攻撃を1秒間反射する』」


こちらを見たのは発動部位を決めるためか。

王のHPは5145。

物理攻撃への対策も万全。

ふざけるな、この全身チート野郎が。


「まだだ!」


ツバサが気刃で大木を1本切り倒す。


「ルリ、今のでこれを投げろ!」


「! わかった」


ルリは意図を察したように再び『アイアン・ツイン・ハンド』を発動。

ツバサが倒した巨木を岩の手で掴み、王の胴を目掛けて投げつける。

それはもちろん弾かれ、巨木が粉々に砕け散る。

が、そこにもう1本、巨木が投げつけられた。

ツバサが追加で斬ったものだ。


初めて、王の纏う空気に動揺が見えた気がした。

直撃。HP5135。

2本目の巨木は王の横っ腹に命中した。


(予想通り……!)


『自身の対象部位への物理攻撃を1秒間反射する』

穴があるとすれば、その『1秒』だった。

発動が意識的に行われ、時間定義が無限ではないという事は、その1秒の直後は同じスキルを発動できないのではないか、と、ツバサは仮説を立てたのだ。

トライアンドエラー。ゲームの基本だ。

クリアできないゲームはない。製作者は必ず、『攻略法』を用意している。

無論、この世界はゲームではない。

しかし、神とやらがこの世界にはいて、スキルや魔法はその神が与えたものだという。

であれば、『絶対無敵』の能力なんて、あるはずがない。

そんな確証はないが、ツバサはそこにベットし、当てたのだ。

ある程度、自分の信じたものに賭ける。そうでないと、前には進めない。

人生とはそういうものだと、ツバサは理解していた。そして――。


『スキル習得:スキル・ドロー』


そんなツバサに、神が応えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ