5, 【TRPG編その1】ここが、TRPGワールド!?
4人の名前の言葉遊び、お気づきいただけたでしょうか。
1話を見返していただくと納得いく描写があるやもしれません。
ランタンが吊り下げられている市場を抜け、煉瓦造りの街並みを4人は通り過ぎていく。
街灯の薄明かりがあるためか、夜だというのにあまり暗くはない。
「ずいぶん綺麗な通りです。私が昔行った中世ヨーロッパ展ではもう少し殺伐としていたものですが」
「それは時代的にしかたないんじゃないかにゃ? もしくはこの街がお金持ちよりの住民を想定しているとかー?」
「どうやら後者のようね。建物一つ一つが大きいし、装飾も凝ってるわよ。向こうの蝙蝠のランプが付いた洋館なんて、まるでお城みたい」
観夜が左奥に見える大きな洋館、というよりお城を指差す。
この世界では、各ゲーム世界への入り口は建物に扮している。紫のオーラすら纏っているように見えるあのお城は、ホラーゲームか肝試しか。
反対側を見ると、パン屋から出てくる一団が見えた。パンを焼くボードゲームをしていたようだが――うっ、こんなところまで来て仕事を思い出したくない!
さて、そろそろ目指す場所はこの先にあるはずなのだが。
「おっマップ表示的にあそこじゃない? って、なによあれは…………」
そこには、崩れかかった茅葺きの小屋があった。
ドアがあったような跡はあったものの、半壊しているため中の様子が見えるようになっている。
「朽ちた荒屋ですね。まだ奥があるようですし、入って見ましょうか」
「いやーな空気だにゃ……。それに下から風も吹いてくるし……」
透空の言葉に観夜がいち早く反応する。
「下から風ですって? 古い家に引き上げ戸が仕込まれているのは王道中の王道ですわ! 透空さん、床を持ち上げてみて」
はいにゃ、と床を探る透空。
果たしてあったようで、ガコッという音と共に床が持ち上がる。覗き込むと階段が下に続いていた。
怖いもの知らずの礼を前にして、一行は恐る恐る階段を下っていく。
地下は松明が灯してあり、暗くはないことからこのルートが正解であるようだ。
やがて石造りの扉に行き当たる。
4人は頷き合い、手をかけようとしたところで――。
ポップアップ表示が入る。この世界に来てから初めてだ。
『〜〜〜〜〜〜CAUTIONS!〜〜〜〜〜〜
この先はTRPGワールドとなります。世界
間転移およびゲームのチュートリアルが
挿入されますので、プレイヤーの皆様方
お揃いの上でお入りください。
』
スクロールすると、『人数:四人』と書かれている。
少人数だったら向こうで他のプレイヤーとマッチングしたりなんかもするんだろうか。
今回は四人用のシナリオでお願いしたいところ。
後ろを振り向いてみんながいることを確認した礼は、ゆっくりと扉を押し開いていくのだった。
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「ここは……? 一軒家……?」
「ふむ。地下通路の向こうが、森の中の一軒家とは。面白いですね」
あたりを見回す。食器棚、木のテーブル、木目のあるフローリング、丸太の壁。うん、綺麗なログハウスね。
窓の外はうっそうと茂った森だった。嵌め殺しになっていて出られそうにはないけれど。
『ふぉっふぉっふぉ。貴殿らが今回のばぁやの遊戯に付き合うてくれる者どもかい?』
突然奥から声がかけられる。
現れたお婆さんはローブと帽子とを被り、いかにも魔法使い然としていた。
『儂はアレイスターの孫娘、ジルモンテじゃ。ここでゲームマスター兼、皆のお婆ちゃん役をしておるよ』
またふぉっふぉっふぉ、と愉快そうに笑う。こういうのって、自己紹介しといたほうがいいのかな。
その気持ちを読んだのか、お婆さんが先んじて返事をする。
『心配には及ばんわい。儂はゲームマスター、皆の名も承知じゃ。……して、今回は4人用のライトなシナリオを用意しておるが、はてさてどちらの形式で遊びなさる?』
本日2度目のポップアップ表示。GMから、TRPGを遊ぶにあたって2つのスタイルが提示された。
私たちは当然のようにそのうちの片方を選択する。
『ふぉっふぉっふぉ。決断が早いのう』
「ここに来たら皆さんこちらを選ぶのではなくって?」
『まさしく慧眼じゃ。期待しておるよ』
GMが手にした杖で家の奥を指し示す。
一見何も無い空間であったが、彼女が何やら詠唱すると、そこにたちまち蒼の扉が出現した。
ニコッと笑ってみせ、彼女はこう告げる。
『これは幻想、無茶をしたとて生きては帰れようが、精神的ショックは人によっては多大なダメージとなりうる。何か問題があればすぐに言うのじゃ』
「心配いらないにゃご老人! こう見えて透空たちは百戦錬磨なのだー!」
「GM以外を久々にプレイする気がします。この一シナリオ、どうぞよろしくお願いします」
深々とお辞儀をした咲読に続き、皆が頭を下げる。
そして次々と扉の中に飛び込んでいった彼女らを、歴戦の魔女は静かに微笑んで見送るのだった。
次話が少し先になるかもです。
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