4, 断章、人物・用語紹介
TRPG編に先駆けて。TRPGの用語あんまり知らないよ! という方に向け、4人の紹介も踏まえながら軽めの会話形式で書かせていただきました。
後半は用語解説なので、ご存知の方は読み飛ばしていただいて構いません。
DAGが発売される数ヶ月前、とある日のこと。
高校にて4人が所属する、通称「アナ研」には、扉の軋む音とともに一人の新入生が訪れていた。
「あ、アナ研でこちらで合ってますかぁ……?」
「然りです。……見学でしたら、こちらを見ていかれるのが早いでしょう」
眼鏡をかけた銀髪の少女は目の前で立ち止まると、左手でぴしっ! っとわたしの右方を指差す。
そこではテーブルを囲んで座り、なにやら電子紙を眺めている3人がいた。
それと、上にたくさん転がってるあれは……サイコロ?
「その前に、自己紹介したほうが良いでしょうね。……はい、私の右の黒髪セミロングから順番に」
「こんにちはっ! 御先室 礼です! ベーカリーで働いてます! 勉強はできる方なんですけど、意外だねって言われます! 役になりきるのが好きなのでTRPGとか好きです! 他にはえっと、得意科目は国語、好きな色は茶色、好きな料理は餃子……」
「はいストップあなた暴走しすぎです。次茶髪一つ結び」
「はじめまして、唯野 観夜よ。あたしのことは気軽に観夜さん、と呼んでくれたら嬉しいわ。後はそうね、論理パズルのような理論立ったゲームが得意かしら。 よく勘って言われるけれど、ちゃんと考えてるのよ?」
「観夜さんの思考回路が無茶苦茶すぎて訳がわからないからですよ、それは。次、透空」
「透空は味噌じゃないにゃ〜〜! ぜぇ……はぁ……。
改めまして、天雨 透空ですぅ。ん、やっぱこの帽子気になるー?」
お辞儀をするような大仰な仕草で帽子を取る。
中から綺麗な金髪が広がった。長さからするとボブくらいだろうか。
「天然なんだけどねえ、校則違反だーっていう人がうるさくってさ。いちいち説明するの面倒だからこうして隠しちゃってるわけ。実際この帽子も好きだしね」
「透空の髪は綺麗なのにもったいないことです。私の髪色も特異ですけど、生まれた時からなぜかこの色ですが何か? って睨めば大抵二度と問題事は起こりませんでした」
しれっと怖いことをいう。身長は一番低いのに一番おっかない……。
「透空は私たちの中で一番反射神経に優れているんですよ。神経衰弱とかカルタとかやらせたら右に出るものはいません。……ちなみに私と彼女は寮で同室なんですが、こっそり食べてたお菓子を隠すスピードも」
「ストーーーーーップにゃ!そこまで!」
「……はいはい。最後に私こと五手 咲読。特技は未来予知です。
――というのは冗談で、人の思考や動き方には必ずパターンがあります。複数人の行動全てを予測し切ることができれば、見かけ上は未来予知をしたのと同じように周囲からは見える、それだけのこと」
それができたら苦労はしないぞー、とか私そんなにわかりやすいですか!? とか色々聞こえてくる。私もほんとにそう思う。
「みんな高校2年、あなたより一つ年上です。人生においては1年程度誤差のレベルなので、気安く接してくださいね」
「は、はひぃっ」
圧! 圧が強い!
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「ついでTRPGの説明に移ります。あなたが最初テーブルを見た時、ルールブックの名称ではなくダイスの方に気を取られていましたね。おそらくTRPG未経験者と見ました、丁寧に解説します」
私の前に、分厚い本、細かい記入欄がある電子紙、サイコロ、筆記用具が順番に並べられていく。
「TRPGに必要なものはこれで全部です。TRPG ―正式名称:テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム― は全て現実世界の会話にて行われる寸劇ゲームだと思ってください」
ロール・プレイング・ゲーム。自分が勇者など、"ある役割"をあてがわれ、それに沿った行動を取って冒険する遊び。
説明によると、分厚い本はルールブック、紙は自分の受け持つキャラクターの情報が書かれたキャラクターシートなるもの、サイコロはダイス、と呼称するらしい。
「ルールブックは古物商から買い入れました。このシステムは電子での販売がなぜか無いのですよね。
システムというのは遊び方のことで、忍者として競いあったりアンドロイドになったり探索者となって世界の秘密を探りに行ったり、いろんなバージョンがあるんですよ。システムが記載されている本がルールブックです」
基本的にダイス (トランプを使うことも)を振ることで自分が取った行動の成功失敗を判定するのだとか。
攻撃が成功、パリィの失敗、ダメージまで全部ダイス。なるほど。
「こうして人数を集めてプレイすることを卓を立てる、あるいはセッションと言います。時にあなた、SAN値という言葉はご存知でしょうか?」
それは聞いたことがある。SAN値が減ったら正気じゃなくなる、らしい。
「不朽の慣用句です。そのSAN値はクトゥルフ神話TRPG、というシステムに由来しているのですよ」
能力値:STRは筋力、CONは体力、POWは精神力、DEXは素早さ、APPは美しさ、INTは知性、EDUは教養度にそれぞれ対応するとのこと。
でもって、SAN値とはPOWから算出される「正気度」……なのです、と咲読さんは言う。
「まあ細かいことは置いておきましょう。ダイスを振ってPC、"プレイヤーキャラクター"のステータスを決める、ということだけ覚えていただければ。次に行きましょう」
丁寧に物を元の位置に戻す咲読さん。
「TRPGではゲームマスター、略称GMというポジションが存在します。その人がキャラクターたちを乗せるシナリオであり、ルールです。ゲーム内で何かしたいことがあれば大抵はGMに判断を仰ぐことになります」
「それじゃ、GMの人は遊べないんじゃ……」
「よく私がGMを務めますが、シナリオの中でみんなのキャラクターが仲良くなったりして思いもよらない会話が生まれたり、意見が分かれて別行動しだしたりと、見ていて飽きないですよ?」
仕切る側の楽しみもあるのです、と言いタブレットをもう一度持ち出してきた。
「最後に、キャラクターには開始前に技能値というものが付与されます。数式は省きますが、これらを割り振ってどういった行動が得意なのか、個性を付けていくわけです」
例えば御先室が作ったこのキャラ。
物理で殴ることしかできないように見えるが、ジャンプ力も同時にあったり、追跡能力もあったりと意外と小回りが効く。加えて、POWが低いため自信なさげだが、精神分析能力を持つ。
「このキャラは運動神経が良く、体格もしっかりしていますが、感情面ではあまり強くはなく他人の顔色を窺って生きてきたのかもしれません。ね、面白いでしょう」
こうした個性あるキャラクターたちで力を合わせ、閉鎖空間からの脱出やミッションの達成など、様々な目的を達成することを目指すゲーム、TRPG。
「どうです? 興味が湧いてきたら早速今からでも……」
「その、私、『アナ研』にアナウンサーのお話を聞きにきたんですけど……」
硬直数秒。
後ろの先輩たちもみんな目を見開いていた。
「あ、あああアナ研って『アナウンサー研究部』のことだったのーーー!? わたしたち『アナログゲーム研究会』じゃなくて!!!」
礼の声がこだまする。
後で聞く所によると、仮入部だけでもしていってくれたのは私の力ですね! と咲読が胸を張っていたらしいが、果たして彼女はまた足を運んでくれるのだろうか――。