1, DAG、始動
本日3話、明日2話分投稿します。
御先室 礼は娯楽に飢えていた。
学校に行けば友達と話せるし、家にはテレビゲームだってある。
外では遊べないが、散歩くらいはできる。
(特段見るものがあるわけじゃないけど……あ、でも隔壁近くの高射砲は見に行ってみたいかも)
博物館もあるし、何度か行った防衛施設展も眺めるのは楽しかった。
でも、そうじゃない。
私が求めているのは、もっとわくわくするような体験。
友達と一緒に遊べて、食卓を囲むような暖かさもあって、いろんな体験ができて飽きなくて――おまけに現実から目を逸らせたら。
彼女の願いはそう奇異なものではない。所謂ゲーマーたちもこの暗黒時代を嘆いていた。
実のところ、世に遊びは多けれど、真に仲間を繋げてくれるものはそう多くはないのだ。
ましてや、国家間の争いにより土地が削られていき、娯楽も文化も縮小を余儀なくされた現在は、土地不足に陥ったら真っ先に公園を解体するような状況であり、皆新しいゲームなどが発売されることなど"まず"あり得ないと思っていた。
この十年間一切の動静が語られてこなかった、巨大ゲームソフト開発会社、Avalancheが突如動き出すまでは――。
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2050年、日本。
東京第三区画・有人エリアの端に位置する、閑静な一軒のベーカリー。
「皆がこれを待ち望んでいた! 閉鎖空間からの解放を可能とする新ジャンル、DAG!! 来週発売!」
「店長CM見てくださいよ! DAGですよ、D・A・G! 会えなくてもみんなでボードゲームとかで対面できる時代がついに来ちゃいました! これは買うしかないですよねっ!」
そう、閑静なベーカリーである――ただ一人とテレビとを除いては。
「んなこと言ってもよう、ウチのパン工場は旧式だぜ? 手作業で貴重な小麦使ってパン焼いてんだから、朝も夜も忙しくって遊んでる暇なんて……。御先室、ほらパン焼いた焼いた」
「えぇー、DAG発売されたら早上がりさせてもらいますからね……」
騒々しい二人が立ち去った後、小麦香る室内でCMは続く。
「我がAvalanche社は、DAG発売のため同名のVRチェアセットを開発いたしました!」
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「VR機器をわざわざDAGのために開発、ねえ……。運営も暇なのかしら?」
光源がカーテンから漏れる光しか存在しない、暗い部屋。
ただのアパートにしては少し大きいその部屋で、少女は正座でテレビを見ながら訝しむ。
「それとも、何か他の目的があるとか? だめだめ、要らぬ詮索は事故の元よね」
小首を傾げていると、不意に携帯が振動する。そのディスプレイは彼女の友人、「天雨 透空」からの電話だと告げていた。
CMはなお続く。
「このVRチェア -DAG- は、椅子に腰掛けて上からシェードを下ろすだけの非侵襲型! 出入りが容易なため、気軽にDAG内の世界にアクセスが可能です! またDAG内で使用するキャラクターは、一から作成することももちろん可能ですがーー」
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「ユーザ自身の願望を計測し反映させることもできる、ですって? 感度は高くないかもって言ってるけど、とんでもない技術じゃないですかこれ……。透空、聞いてます?」
高校の敷地内にある寮の一室。
テレビを見ていた銀髪の少女は、室内だというのに帽子をかぶってベッドに転がる金髪の少女に問いかける。
「透空は味噌じゃないにゃ! あとどう見ても電話してるから咲読ちゃんは後で! ……んで、観夜ちゃんもDAGやってくれるっていうのは嬉しいけど、懸念っていうのはなぁに?」
『……別に、ただの勘よ。気にしないで』
「むー、気になるけどこうなったら絶対教えてくれない観夜ちゃん、つれない……。そういえば確か礼ちゃんもやるって言ってたし、それじゃあ来週また電話するねー! ……っと。咲読ちゃん何の話だっけ?」
「DAGの話だけれど、まあいいです。忘れて頂戴」
ゆるゆると首を振る咲読。
どうせこいつに言ったってわかりっこないのだ。2年も同室で過ごすと流石に分かってくる。
「願望の現れ、ですか……。こういうの、まだ登場しないと思ってたのですが」
「あ、キャラクター生成の話? ランダムとかなんじゃないの、そんで出たキャラが実はあなたが望んでいた姿なんですよーみたいなさ」
肩元で揃えられた金髪を弄りながら透空が返す。
実際単にハッタリなのかもしれない。
しかし、そんな古典的な占い師みたいなテクニックを今時行うだろうか。それも、CMで?
視線をテレビに戻すと、長い長いCMが締めに向かっていた。
……広告費どれだけ掛けたんだろう。純粋に気になる。
「DAGで複数世界を自由に行き来してデジタルにアナログを楽しもう! 今日までの予約で来週の発売に間に合います! さあ、みんなでレッツ☆DAGGING!」
「純粋に気になる……」
少しインフレしてますがお値段は8万くらい。
四人とも同じ学校ですが、これは元々彼女たちのいる第三区画に学校が少ないためであり、家同士は遠めです。
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