2話 チートな俺の初戦闘
(ふわりと、何かが通りすぎた。 風であろうか。
木の下にいるのか、明るくなったり、暗くなったりと繰り返し
俺の目を刺激する。 曖昧だった記憶が、痺れていたような手足が、徐々に戻り始める。 そうだ、俺は異世界に…)
健太はそっと目を開ける。
「異世界に転移したんだったな」
(森の中…か)
目を開けて健太の目にまず入ったのは木だった。 いつも見ているものとあまり変わらないが、よくよく見てみると少し違う。
回り一面木が草が自由に生えわたり、人がこの森を管理してないのが見てわかる。雑草は大小自由に生えわたっていて、 大きいものでは太ももくらいまで生えているものもあった。
(さて、ステータスの確認でもするか、あるかわからんが)
健太が、ステータスの確認をしようとしたその時。
ガキイィィィィン!!!!
鉄と鉄がぶつかったような音が森全体に響きわたった。
「な、何だ!? 今のは」
健太は、さっと音の響いた方向を振り向く。
「もしやこれは、第一イベントか!」
その先にはきっとロクなことがないだろうが、健太にとってはむしろ好都合だった。
健太は音がした方向に向かって走り出した。
(鼓動が早くなる。早くその場所に行きたいと、もう退屈したくないと、その先にはきっと楽しいことが待っていると。 まったく、死んでからは面白そうなことしかないな)
死んでよかった何て思ってはいけないと思うが、死ぬ前の世界で大切なモノが何もなかった健太は、もしかしたら、死んでよかったと思っていたのかもしれない。
数分後。
健太は木の後ろに隠れている。
この木の向こうには、ゴブリンと思われる二人組と赤髪の少年が戦っていた。 少し離れたところには金髪の女の子が倒れている。
今着いたばかりの健太は息を整えている。
(すぐ近くであったが、少し疲れた。 さて、どう倒してくれようか。このゴブリンみたいなヤツらを…まぁ 武器もないし、魔法も使えるかわからんし、できることは一つだけだがな)
両手で頬を二度叩き、そこら辺に落ちていた手のひらサイズの石を右手で持ち健太はゴブリン(仮) の方に向かって走っていった。
キイィィィン!!!!
赤髪の少年の剣とゴブリン(仮)の小さいほうの剣がぶつかる。
(く、やはり危険度Eランクのゴブリン二人に一人で挑むのは無謀だったか…)
先程から、大きいほうには力押しで勝っていたが小さいほうとは互角だった。
相手のゴブリンは二人ということで、交代しながらドンドン赤髪の少年の体力を減らしていく。
小さいほうのゴブリンはニヒヒと笑い声を出しながら
少しずつ力をいれていっている。その表情は余裕そのものだ。
(……このままでは押し負ける)
「駄目だな、人間!!」
キィン!
とうとう、赤髪の少年は押し負けてしまった。
ドサッと赤髪の少年がその場に倒れる。
(くっ! 殺される!)
だが、その時だった。
ドゴォ。
「ふぎゃぁ!」
鈍い音が鳴ると同時に大きいほうのゴブリンが情けない声を上げ倒れた。
その後ろには、血のついた石を右手に持った黒髪の青年が立っていた…健太である。
ゴブリン(小)が、慌てて後ろを振り向く。
ゴブリン(大)が倒れているのを確認すると、先程までの余裕の表情から一転、鬼の形相に変わる。
「てめぇ! 後輩に何しやがる!!」
そう叫んで、ゴブリン(小)は健太に向かって走り出す。その意思には的確な殺意があった。
(やはり来るか。 なら、こうするまでだ)
健太は石をゴブリン(小)に向かって投げた。
160キロは出てるだろう石ころは、ゴブリンの顔面目掛けて飛んでいく。
避けることはできず、顔面から思いっきりくらうゴブリン(小)。
「ぐぼば!」
その隙を逃さず赤髪の少年はゴブリン(小)もとまで走っていく…そして。
「はあぁぁぁ!!!」
赤髪の少年は、剣の柄頭の部分でゴブリン(小)の後頭部を殴った。
「……!?」
ゴブリン(小)はその場に倒れる。
「殺ったか?」
「いや、これくらいではコイツらは死なないはずです」
健太がその場にしゃがみゴブリン(小)の脈を調べる。
「生きてるが、殺すか? 俺的にはあまり殺したくはないのだが」
「僕もあまり殺したくはないのだけど…殺さないとコイツらはまた人を襲う…」
(まさか、自分は殺されかけたのに、ゴブリンみたいなヤツをあまり殺したくないと思ってる人間にこんなに早く会えるとはな)
「殺したくないか、わかった。 もしかしたらコイツらを殺さなくてもよくなる方法が一つある。赤髪、賭けてみるか?」
赤髪の少年はその問いの答えに迷いなどなかった。もしもそんな選択があるならと、少しでもこの選択を避けれるのならと。
「はい、その賭けに…その選択に賭けてみます」
その、真っ直ぐな目には確かな決意があった。
「よし、ではコイツらが起きるまで待機だな」
「あ、では、自己紹介しましょう。 僕の名前はレイです」
そう言って赤髪の少年改め、レイは握手をするため右手を前にだす。
(ふむ、異世界ではワンチャン苗字が貴族しかない可能性があるからな。 念のため名前だけにしておくか)
「俺の名前は健太だ、よろしくなレイ」
健太は差し出された右手をぎゅっと掴む。
「はい、よろしくお願いします。ケンタさん」
そうレイが言うとお互いに手を離す。
「そいえば、あの金髪の女の子とは知り合いか?」
健太は少し離れたところに、倒れている女の子を指差す。
「一度だけ、一緒にクエストに行きました」
レイも金髪の女の子の方を向きそう言った。
「そうか、あとレイはなぜ今日はここに?」
「今日はあの子が心配で」
レイは少し頬を赤く染め、頬を右人差し指でかきながらそう言った。
「ほぉ~あの金髪のことが好きなのか。そぉ~かそぉ~か」
健太はレイの右肩を叩きながらそう言った。
「ち、違いますよ!! 」
レイは顔を真っ赤にしながら否定する。
「ふん、少しでも気になっているのなら、それは立派な恋だぞ、少年」
ポンと右手をレイの肩に置き、左手でグッジョブの形を作る健太。
「え…そうなんですか?」
「当たり前だろ! おもしろいヤツだなお前も」
レイの反応の一つ一つが、健太の心を癒していってるのか、死ぬ前では見せなかったような優しい顔を健太はしている。
「だが、こんなことしてると、ひかれるぞ?」
「知ってますよ! そのくらいは…今回はちゃんとした理由があったのでセーフです! きっとひかれません! きっと!」
自信がないのか、『きっと』を強調するレイ。
「理由とは?」
「理由はですね。 最近ここら辺でゴブリン二人組を見かけた。 と言う噂があってですね」
「ふむ」
「朝にギルドに向かったら、受付嬢が、「あの子なら一人でクエスト行きましたよ」と言ったので、もしものことがあったらいけないと思い! 同じクエを受けて、行きそうなところを探しきたわけです!」
「それなら、ギリギリセーフだな」
健太は左手で顎を支えながら、そう言った。因みにアウトである。レイと金髪少女の関係は飲み会でたまたま会って、一言二言話した事のあるような関係値である。
「ですよね!」
「あぁ、セーフだ」
「よかったぁ~」
レイは安堵の息をはく。
「では、俺はコイツらが起きる前にいくつか準備があるが、レイは何かあるか?」
「いや、特には」
「うむ、では何かある場合は呼んでくれ」
「はい、了解です」
「うむ」
そう言うと健太はゴブリン2組の鉄の剣を持つ。
「一本あればいいな、二本はさすがに使えんし」
レイは、健太が何をするのかじっと見ていると。
「では……ふん!!」
二本あるうちの一本を思いっきり投げた。どこに落ちたかはもうわからない。
「え?」
予想外の行動にレイも唖然としている。
「ん? どうしたレイ?」
「あ、えっとその…それ、鍛冶屋とかに売れば1日は生活できるほどのお金になるんですよ」
「な!?」
(あれが、売れば1日は生活できるほどのお金になるだと!? これは申し訳ないことをしてしまったな)
「それは悪いことをしたな。 すまない」
そう言ってレイにたいして、頭を下げた。
「あ、別に大丈夫ですよ!」
「…今度何か奢ろう」
「あ、はい」
健太は一度頷き、次の行動に移ることにした。
「では、念のためこっちのほうも確認しておこう」
健太はレイから、少し離れたところに移動する。 レイは、次は何をするのかと、健太の方をじっと見ている。
「ふぅーう……ふぅー」
一度、大きく深呼吸してから、健太は右手を前に出し、左手で右手の肘らへんを掴む。
「よし」
そして目を閉じ、あることを想像し始めた。
(想像するのは、つい最近の風。 少し強い…春の風)
(全身から、何かが込み上がる。そして、その波は右腕の先に集まり、外にでていった)
魔力の流れを感じた健太は、今! と思った瞬間目を見開き、叫んだ。
「ウィンド!!!」
その瞬間、健太の右腕の目の前に緑色の魔法陣が現れる。そして、その魔法陣から木の枝を大きく揺らすほどの風が吹く。
(おおおぉぉぉ!!! 今俺は、ついに! つ・い・に魔法を放ったのだ!)
少しの間風をだしたあと、そっと右手を下げる。下げると同時に緑色の魔法陣も消え風も止む。
「これが、魔法か…不思議な感じだな」
と、健太が満足感にしたっていると、レイが健太の側まで走ってきた。
「ちょっと健太さん!? 今の魔法ですよね!? そんな、意味もなく魔法使っちゃって大丈夫なんですか!?」
(ん?別に何ともないのだが…)
「別に何ともないぞ。 それ、ウィンド」
健太が、人差し指をレイに向ける。 そして、その目の前に再び緑色の魔方陣が出現する。
先程の強めの春風とは違い、心地よいそよ風が吹く。
「そ、そうですか…凄いですね健太さんは」
「そうか?」
「そうですよ。魔法を使うことはほぼ全員が可能ですが、この街周辺でそんな軽く魔法を使えるのは数少ないんです」
まるで、自分には到底無理というような、もう諦めてしまったような感じで、レイは言った。
(ほぉ さすが俺だな。 初期ステータスから並みの人間よりも優れているとは)
「レイは魔法使えるのか?」
「はい、使えますよ一応ですが。 使えても三発が限度なんですよ。 あ、属性は風です。 同じですね」
その時健太は何かに引っ掛かった。『属性』という言葉にである。
(ん? 風属性、同じ? そのいいかたでは使える魔法が決まっているように聞こえるのだが)
健太は右手を前に出す。
「いや、待て属性とは何だ?」
「え?」
レイは首を傾げる。
「知らないんですか? 属性を」
(言い方的に、これは一般常識なんだな)
「すまない。何せ何も聞かず、ずっと遊んで過ごしてきたからな」
健太は適当な理由でごまかす。
「あ、そうでしたか。 では ゴブリンの方に戻りながら説明します」
そう言ってレイは立ち上がる。
「わかった」
健太も立ち上がり、ゴブリンが気絶している方向に向かって歩きだす。
「えっと属性は、火、水、土、風、雷、毒、氷、闇、光、邪、聖の11属性です。聖属性は、アンデッドにたいしての浄化魔法、そしてパーティに重宝される回復です。邪は呪いなどです。基本は火、水、土、風属性の人が多いですね」
「属性がないと、魔法は使えないのか?」
レイは頷く。
「僕は風属性なので、風の魔法は使えますが、他の属性魔法は使えません。 まぁ、この世界には二つか三つ属性を持っている人もいますが」
先程いたところまで、戻ってくる。ゴブリン二人組はまだ気絶している。
「わかった。 詳しい話しをありがとうな、レイ」
「いえ、別にいいですよ これくらい」
(………ク…俺は確か、人間に…まだ痛てぇ…てか俺)
「何で、死んでるのに痛みがあるんだよ!!! あれ、この景色、生きてる?……のか?」
「「!!?」」
突然目覚め、叫ぶゴブリンにたいして驚く二人。
そして、健太は待ってましたと 言わんばかりにニヤリと笑った。