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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界専属料理人

作者: HIRARI


艶めくマホガニーの重厚な扉には、細部まで繊細な彫刻がなされている。最初は触れるのもためらわれた、いかにもロイヤルなこの扉を琥珀は軽くコンコンとノックした。


「許す」

「ベルさーん、今日は久しぶりに和食、」


魔術式で音もなく開いたドアの向こうに広がるのは、精緻な文様が編みこまれた分厚い絨毯に煌くシャンデリア、象牙と宝石で家紋が描かれた執務机、派手さはないがどうみても最高級な数点の椅子に、国章をデザインしたタペストリー。


「へ?」

「あ。ご来客でしたか?すみません、出直します」


そして部屋の主であるベルンシュタイン王弟殿下と、その部下らしき男性が書類をめくっているところであった。


「かまわない」

「・・・いいんですか?」


書類に目を落としたままのベルンシュタインはともかく、と琥珀が部下の方をちらりと伺えば、上級官吏服を着た彼は口は半開きで目をひん剥いて硬直している。

どう見てもかまわないことはないと思う。


「いいんだ。続けて」

「うーん、じゃあ、今夜のメニューですけど、ルールン豆の炊き込みご飯、カポ鶏の照り焼きにキノコソテー添え、根菜の焼きピクルス、お吸い物、デザートは大学芋の予定です。食べられないものあります?」

「大丈夫だ」

「よかった!では仕込んできますね。そっちの方も、お仕事の邪魔して失礼しました」


ぺこりと一礼して部屋を去っていった琥珀の後姿を見送り、部下こと宮廷魔術師長のゾーマはいまだ無言で書類を読み進めている主君をゆっくり振り返った。


「殿下・・・」


呼びかけに、ベルンシュタインの冷めた一瞥が書類越しに向けられる。

長年部下をやっているゾーマはこれが殿下の通常運転だと知っているが、慣れた者でなければびくついてしまうであろう怜悧な態度。

冷淡で無駄と喧騒をきらい、孤高で優秀な『氷血殿下』


が、今 夜 の ? 献 立 ?


呼びかけたものの何も言い出さないゾーマに、ベルンシュタインの目がすっと眇められる。


「っ、ええっと、いまの、料理人、は、『じゃないほうの異世界人』ですか?」


そう言うやいなや先程来から冷たかった眼差しに、不愉快そうな眉間の皺が加わり、これには免疫があるはずのゾーマの背筋にも寒気が走った。


「いまは、私の、専属料理人をしている」

「そうでございますか。失礼いたしました」


ゾーマの返答などどうでもいいのか、すでに殿下の目線は書類に戻されていた。

常にクールな殿下は、低温ながら感情は一定でこんなふうに不快な表情を露にすることは多くない。

自分の失態に気付いたゾーマは、顔色を青くしながらスミマセンと小声で謝罪した。

皇国の長い歴史の中でも指折りの魔術師といわれるゾーマの優秀な脳味噌らしくないミスだが、氷血殿下の「食事ぎらい」は宮中では知らない者はモグリとされるくらい有名なのだ。

その殿下が、あれである。


今 夜 の 献 立 。



10年の付き合いになるゾーマでも、宮中行事での晩餐以外に殿下がまともな食事をとっているところを見た覚えがない。

必要最低限の栄養補給のために味も素っ気もない補助食品を仕事の傍ら咀嚼しているのが、殿下のデフォルトなのだ。


それが?今夜のメニューは?炊き込みご飯に、鶏の照り焼き?

デザートは大学?芋?なんだそれ?大学と芋に何の関係が?

異世界料理?殿下が、食べるのか?それを?

しかもあの料理人、殿下のことベルさんって呼んでなかったか?

ベルさん?嘘だろ?


エエエ、異世界人すごくない?


なんでもすぐに理解できる優秀な頭脳でメキメキ出世してきたゾーマにとって、はてなマークが思考を埋め尽くす経験は初めてだったので、うっかり失言などしてしまったのだ。



「北の防衛ラインは維持する。辺境伯には通信で伝えてくれ。今日は以上だ」

「、は、御意」


動揺しながらも殿下の印が押され返却された書類を受け取り王弟執務室を退室した。

回廊を歩く頃にはケロッとして「大学芋っていうの食べてみたい」と思っているゾーマは、そのメンタルの強さゆえに氷血殿下の部下を続けられているのだった。






一方その頃。魔術師長を混乱の渦に巻き込んでいたことなぞ露知らず、琥珀はオーブンの温度調整に集中していた。

使い慣れた電気オーブンが恋しくて涙が出そうになるくらい、この火魔法オーブンは調節が難しいのだ。

そう。火魔法。


「はぁ・・・電子レンジ欲しい・・・」



都内の私立高校の学食でチーフシェフをしていた三ツ矢琥珀がこの世界にやってきたのは、いまから2ヶ月前。

調理専門学校を卒業し、数件のレストラン勤務と海外修行を経て、30歳で就職した名門私立高校。

給料の高さに惹かれて入ったものの、とある界隈では王道学園とカテゴライズされる中高一貫全寮制セレブ男子校。


権力ありすぎる生徒会、激しく敵対する風紀委員会、セフレ親衛隊、抱き抱かランキング、公私混同なイケオジ理事長、マリモ転校生、やばすぎる制裁など、異次元すぎる環境に最初はいちいち驚いていた琥珀も、勤務が長くなるにつれて特殊なビーでエルな学園に馴染み、「今年のアンチ王道転校生は元気ですね」と他の教職員と季節の風物詩感覚で話すようになっていた。


そして34歳になった春、蔭で今年の王道君と呼んでいた美形ハーフの早川リオ君17歳とともにこの異世界に召喚されてしまったのである。


 







「よっしゃ。焼き目もきれいに付いた。カーネリアンにメンテさせてよかったぜ」


カーネリアンとは、2ヶ月前にこの魔術連邦国家ブラッドベリ皇国に二人を召喚したこの国の第一王子だ。

こんなことになったすべての元凶なので、琥珀は呼び捨てにしている。

腹が立つので魔法オーブンを点検させたり雑用もさせている。


さて。ご飯も炊き上がり、鶏は皮パリパリの中ふわふわ、ピクルスもほどよく味が染みた。







で、今夜もディナータイムです。



「ベルさん、どうです?」

「全部、うまい」

「酸味は強くないですか」

「平気だ。むしろ好ましい」

「そっか。ピクルスは疲労回復に効くから、今後も出しますね」


サーブしたほかほかの晩御飯が、上品な作法でベルさんの胃に納まっていく。

表情が大きく変わるわけではないが、一口ごとに取り巻く空気が柔らかくなる。

自分の作った料理が人を満たしていく様子に、琥珀は幸せを感じていた。



「完食!」

「ああ」

「やった~!ベルさん、この調子ですよ」


じゃあ大学芋持ってきますね~、と何も残っていない皿をうきうきと下げながら、琥珀はいったんキッチンへと引っ込んだ。









快い満腹感を感じながら、ベルンシュタインはふくれた胃のあたりを摩った。



ベルンシュタインは現王の弟であるが、腹違いだ。

兄を産んだあと病死した先妃の後添いとして、母は隣国から政略結婚でブラッドベリに嫁いだ。

他国の血が入ったベルンシュタインは、髪はブラッドベリ王家特有の銀髪だが、瞳は赤ではなく赤っぽい明るい茶色だ。


長兄ではあるが母親がなく後ろ盾の弱い兄と、第二王子ではあるが隣国の王族を母に持つベルンシュタインは、本人達が物心つく前から皇位継承争いに巻き込まれる運命にあった。


そしてベルンシュタインが11歳の時、毒殺未遂事件が起きた。


超遅効性の毒だったため、毒見役では発見できなかったのだ。

食事から24時間後、毒見役は死亡し、ベルンシュタインは瀕死の重態に陥った。王家の血筋は生まれつき魔力量が豊富なおかげで、ベルンシュタインは一命を取り留めたが、毒は彼から大切なものを奪っていった。

その日から、彼は物を口にすることがトラウマになってしまったのである。


成長期の男子にとって、空腹がどれほどつらいことか。

しかも自分の身の回りには献上された山海の珍味。美食に囲まれる身分でありながら、ベルンシュタインは常に飢えと栄養不足の体調不良をごまかしながら生きてきた。

ろくに食べていないから安眠もできず、最低限のカロリー摂取で王族の激務をこなしている身に、遊興に割くエネルギーなどない。無口、無表情、効率重視。

こうして氷血殿下の出来上がりである。





「大学芋と、これ、茶葉をちょっと加工してつくった、異世界風のお茶です」

「ふむ、良い香りだ」

「本当はもっと苦味を足したいので、まだ研究途中ですけどね」

「・・・苦くしてどうする?」

「食べてみると分かりますよ」


大学芋と湯気の立つカップをサーブされ、まずは黄金の蜜をまとう芋にフォークをのばした。




激しい王位継承争いは、兄が20歳、ベルンシュタインが16歳の時に母が病死して終結した。

王位を継ぐなんてカロリーが要りそうで疲れそうなことは絶対にごめんだと長年固辞した結果、父に継いで兄であるアルマンディーが現国王をつとめている。

代々銀髪赤目が王のシンボルなのだし、その通りの外見を持つ兄にこそ向いているだろう。それに大食漢の兄は、辛抱強く、堅実で、タフなのだ。


一方その息子で第一王子のカーネリアンは、魔術の天才だが阿呆である。

親バカ気味な兄王がキツク叱らないことに腹立ちながらも、複雑な立場もあり私も甥に強く出られない。

ゾーマが優秀な頭脳に裏打ちされた魔術師だとすれば、カーネリアンは完全なセンス先行の天才型である。


第一王子である彼は王族以外立ち入れない禁庫に子どもの頃から出入りし、高等魔術を感覚でなんとなくマスターしては騒ぎを巻き起こしている。

王子誕生以来、彼の思いつきや、思い込みや、うっかりミスやちょっとしたイタズラによって起きた惨状を、ベルンシュタインは胸中で苦虫を噛み潰しながら後始末に尽力してきた。


2ヶ月前も、「王子が禁術を発動して異世界人を召喚してしまいました」と震える近衛兵に報告を受け、手の中にあったカロリー補給ブロックを粉々にしてしまった。


渋々、ゾーマとともに王子の部屋を訪えば、王家と同じ銀髪に真っ赤な瞳の美しい少年と、その少年の手を両手で握り締めて赤面しながら愛の告白をしているカーネリアン。

そして、一歩引いたところからその光景を遠い目で眺めている黒髪の青年がいた。

一瞬でなんとなく状況が把握でき、私もゾーマも黒髪の青年と同じ遠い目になった。


調査すれば、カーネリアンが発動させたのはブラッドベリ創建当初の秘術だと判明した。部分的に残っていただけの術式をノリと勢いとフィーリング(本人談)で補ったら完成したそうだ。



「ゾーマ、どういう術か分かるか」

「古代文字からするに『皇国を栄えさせる者のために天からの使者を召喚する』術のようですね」

「さっすがゾーマ!そうなんだよ!つまり俺のために天使が召喚されたってことだろ?!」

「どうしてそうなるのかわたしにはわかりません」



調査と検討の末、「皇国を栄えさせる者」イコール王様。つまり、使者に選ばれた者が次の王となる?王を選定しブラッドベリを繁栄させる秘術では?などという解釈が宮中に蔓延してしまい、使者の処遇をめぐって宮中はてんやわんやになってしまった。


警備の近衛兵も調査の魔術師も忙殺され「魔法は天才なのに中身はアホ」と職員たちが口々に愚痴っていれば「それは無力なアホより有害では?」と異世界人が呟いたので、『異世界人のがまともじゃん・・・』と自国の王子を思ってみんな一層気が滅入ったという。

 

召喚から数日後、ブラッドベリ皇国の王族と同じ色彩をもつ、銀髪に紅い瞳の美少年リオが天からの使者で、そばにいた琥珀は巻き込まれただけだと結論付けられた。琥珀は「じゃないほうの異世界人」と呼ばれるようになり、比較的落ち着いた生活を手に入れた。


天からの使者と認定されたリオは、カーネリアンに一目惚れされ、伝説の魔剣まで台座から抜いてしまい、魔剣士のスキルを得た。これも神の思し召しということで、カーネリアン含む高位魔術師とパーティを組んで太古の魔法が眠る神殿へ冒険に行くそうだ。



「リオ君、背負い過ぎじゃないか?」


琥珀は同じ世界から来た大人として心配したが「冒険に行くのは自分で決めました。王家に認めてもらえるようがんばる!」と宣言され、まあカーネリアンはアホだけど天才だし第一王子だし顔は文句なしに美形だしリオ君にはベタ惚れ激甘らしいし、本人が望んでるならいいか。と遠くから無事を祈ることにした。

後日、リオ君は規格外にめちゃくちゃ強いと聞いてからはぶっちゃけあんまり心配もしなくなった。リオ君って多分チート主人公だと思う。


パーティが攻略に向かう太古の神殿に、元の世界に帰るためのヒントが眠っている可能性が高いらしく、彼らがそれを手に帰ってくるまで琥珀は待機しているしかない。

伝説の魔剣士になったリオ君ほどでなくとも、宮中ニートは後ろめたく、自分にもなにかスキルが発生していないか調べてもらったところ、


「クッキング、マスター・・・」

「そうでぃすナ」

「リオ君は伝説の魔剣士で、俺はクッキングマスター・・・」

「しかしでぃすナ、特殊技能で最強の毒消しがついとりますナ!お主が触れば毒草も無毒化されますナ」


どうやら元の世界のスキルが翻訳される仕組みらしく、剣道3段のリオ君は魔剣士に、調理師免許とフグ処理師、食品衛生責任者を持っていた俺はクッキングマスター(毒消し機能付き)になったらしい。

いやクッキングマスターってさあ・・・魔法の世界に異世界召喚された感のない地味な称号・・・


「ならば、うちに来てもらえないか?」

「王弟ぃ殿下!」

「新宮殿へ遷るので、料理人を探している」

「王弟ぃ、殿下が、料理人を、でぃすかナ?」

「何か問題があるか」

「と、ととととんでもないでぃすナ!」

「俺も、問題ありません。雇ってもらえるなら助かります」


ちょっと変な語尾がかわいいおじいちゃん魔術師と話していたところに不意に現れた王弟殿下のこのリクルートにのっかって、王弟殿下のための離宮の料理人になったのだ。



それからもう2ヶ月。


「確かに、もう少し渋くても、いいかもしれん」

「でしょう?この甘いタレと、濃い日本茶がベストなんですけど、ブラッドベリの茶葉だとそうならなくって。炒ってみたんですけど、まだパンチ不足でしょ」

「でも、十分、うまい」


そう言うと「料理人冥利に尽きますね」と照れたように笑った琥珀を見つめながら、ベルンシュタインはほんのり甘いお茶をもう一口コクリと飲んだ。




食事を完食し、デザートとお茶まで平らげてくれたベルさんに、琥珀の機嫌は最高潮に良い。

その特殊な生育暦から、食事量が極端に少なかったベルさんは成人男性として考えられないくらい胃が小さくなっていた。

雇われた当初、「食べられなくても気を悪くしないでくれ」と言われ、どういうことかと首をかしげた琥珀に、ベルさんは幼少期からの食事事情を教えてくれた。

そして、この世界にしがらみがなく、どの派閥にも政治的立場も持たない琥珀ならば毒などいれないだろうと言ったのだ。

「ふざけんな!俺は料理を愛してる!毒なんていれっかよ!」と熱血キャラみたいな買い言葉が思い浮かんだが、酸いも甘いもかみ分けた34歳の大人であるので言わなかったし、普通に受け入れた。


それからは食育の毎日である。



栄養、分量、味付け、好み、レパートリー、すべてに自分の全力を注ぎ、ベルさんの食へのトラウマを払拭するよう努力した。

調理課程を見せたり、素材をさわってもらったり、ときには一緒にメニューを考えたり、食に対する意識の変革をゆっくりあせらずコツコツと積み重ねた。

いくら毒消しスキル持ちが調理しているといっても、運ぶ途中に何か入れられれば元も子もないのでサーブも琥珀が行うことにした。

最初は同席していた御毒見役が去り、毒検知魔道具がテーブルから消え、それにともなってベルさんの食べられる量が増えていく。


好き嫌いの自覚すらほとんどなかったベルさんも、香りの強い薬味とプチプチした食感は苦手、鶏肉は焼くのも煮るのも好き、料理にフルーツが混ざるのはきらい、甘いものは好き、お酒は赤ワインより白が好きで、コーヒーは酸味強めが好みだと判明するまでになった。

そうして今夜は全メニュー完食!!


つい鼻歌でハミングしながら、カーネリアンに作らせた魔法式食洗機に皿を入れていく琥珀であった。





それから4ヶ月経って、召喚から半年後。

召喚当初は青々と繁っていた庭の木々も葉を落とし、木枯らし吹きはじめた皇国はお祝いムードに沸いていた。

太古の神殿から秘宝を手に入れて凱旋した、リオ君とカーネリアンと魔術師達の記念パレードが行われるのだ。



「陛下、ただいま戻りました」

「おお、リオ殿。そしてカーネリアン。無事の帰還あっぱれである」


王族も全員集合ということで、もちろんベルさんも王の間に参上している。異世界に関する秘宝なので、琥珀も呼び出されて王の間の端に座っていた。


「この度の成果を祝し、リオ殿の願いを聞き届けることとした。王家の一員として、これからもこの国を支えてくれるか?」

「ありがたきお言葉にございます!」


国王の言葉に、リオ君の美しい顔がさらにパアァっときらめく。

そして顔だけなら文句なしにイケメンのカーネリアンも喜色満面になる。


「魔剣士リオ、そして第一皇女ルビー。そなたたちの婚姻を許す」

「ありがとうお父様!!」

「ありがとう存じます国王様!!」

「うえええええ!ちょっとお待ちを父上ェェェェェ!!!!!!!」


あ~カーネリアン×リオでハッピーエンドか~おめでと~とゆるい眼差しで見守っていた琥珀も「そっちか!」と思わず声がもれて瞠目した。

でもってそれ以上にめちゃくちゃに驚愕していたのはカーネリアンだ。

顎が外れそうだし目玉もこぼれそうなくらい驚いている。


「どどどどどどういうことですか!!!リオと姉上が?!俺の天使ですよ?!!!」

「何を言っている?ルビーとリオはずっと恋人同士で、わしに婚姻を願い出ておったぞ?だからこの試練を乗り越えれば認めると言ったのだ」

「ルビー・・・初めて会った日から、君のためならどんな厳しい試練だって」

「リオ・・・私も、あなたのためなら・・・」



宝石敷きの眩い王の間で、ともに銀髪赤目の美男美女が両手をとり見つめ合う姿は絵巻物のように美しい。


「皇国の民に宣誓する!ここに第一皇女ルビーと、勇者リオの婚姻を許す!そして、次の王はルビー皇女となることを!!!」


パレードのために集まっていた群衆に、ルビー皇女と勇者にレベルアップしていたリオ君が寄り添って手を振ると、爆発したような大歓声が城を取り巻く広場に轟いた。


じゃあ、『皇国を栄えさせる者のために天からの使者を召喚する』術は正しかったのでは?と周囲の関係者らは内心で納得していた。


王の間の片隅で真っ白な灰になっているカーネリアンを視界の片隅にとらえつつ、

ああ、俺、あの学園に染まりすぎてたな、リオ君ごめんねと琥珀は反省した。




神殿の秘宝を解析したリオ君らパーティによると、我々は異世界に転移してきたのではなく本人の記憶を持つコピー体としてこの世界で誕生した存在なのだという。

つまり、戻るもなにも、地球には変わらず三ツ矢琥珀と早川リオが存在していて、自分たちは記憶をもつ別の生き物なのだ。


「だから、あの世界に行きたいなら、異世界渡りの術で行って、別の名前で生きなおすことになると思います」

「異世界渡りの術は、必要ならカーネリアンに開発させますわ!二人の人間の人生を、こんな・・・愚弟が本当に申し訳ないことを・・・」

「…リオ君は、大丈夫?」

「僕は、ルビーと共にここで生きる決心をしたので…」


沈痛な面持ちのリオ君と、憤慨し謝罪してくれるルビー姫、そして無言でその様子を見守っているベルさんに、琥珀は何も言えないでその場を後にした。




「コハク、」

「帰っても、そこに居場所はないってことでしょ」

「すまない、うちの身内のせいだ。もっと早く、あいつを諌めておく責任が私にはあった」


振り向いた先には、琥珀以上に痛ましさを浮かべたベルンシュタインの瞳があった。

明るい茶色のそれを、煮詰めた蜂蜜のようだといつも思っていた。



「ベルさんの目、きれいだね」

「これが?王家の紅い目のほうがよほど、」

「そんなことないよ。美味しそうで、好きだよ」


今日は、それが溶け出しそうだな、と思う。


「母も、この目を見て私をベルンシュタインと名付けたそうだ。母の国の言葉で」


「琥珀でしょ?」



リオ君が以前言っていたのだ、ベルンシュタイン王弟殿下と三ツ矢さんの名前は同じ意味なんですよって。だから、「じゃないほうの異世界人」なんかじゃなくて、意味があって召喚されたのだと。


「俺の父は考古学の研究者だったから、昔のものがそのまま閉じ込められてる琥珀に感動してそう名付けたんだって」

「そうか」


西日が大きな窓から差し込んで、日が暮れていくのを二人で眺める。

どこからか良い匂いが漂ってきて、人々が帰路につく時間を知らせてくれる。



「ベルさん、今日はオムライスにしよう。俺の好物なんです」

「それは、楽しみだ」



隣り合って歩き出した二人の影が、夕日に照らされて長く伸びる。

栄養状態が飛躍的に向上したベルンシュタインは銀髪も艶やかになって、オレンジ色の光をきらきら弾いている。

このきらきらした人は、自分が作ったものからできているのだと、気分は少し浮上した。



「あ。カーネリアンに頼みたいことがあるんですが」

「・・・やはり異世界渡りの術が、」

「いえ、電子レンジ作らせたいんですが」

















真っ白な灰になった後に、一族あげての説教&無言の圧にさらされた第一王子様といえば。


「ゾーマぁぁぁ!!!ベルンシュタイン叔父上に謝るの付き合ってェェェ!!!怖いぃぃぃぃ!!!一緒に来てェェェェ!!!」

「いやです。いつか大学芋食べたいので」 


「じゃあ大魔導師さまぁぁ!!!」

「お断りでぃすナ。電子レンジ作るんだナ」


異世界グルメ話が書きたかったのにあまり料理できませんでした。もし続いたらもっと料理したい。そしてもっとビーでエルなイチャイチャさせたいですナ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 琥珀もベルンシュタインも仲良しでよかったです 異世界でも、自分の食べ慣れた料理が作れる、しかも毒消し有りとか最高ですね うらやま [一言] もっと続きが読みたいです
[良い点] 続き希望てす! 王弟殿下とクッキングマスターの、ビーでエルなイチャイチャをお願いします(。-人-。) ぁ良い点は、リオ君と王子がよくある王道転校生(無邪気を被る自己中な性悪)と王子(ざま…
[良い点] とても良いオチでした。 カーネリアン(アホ)ではなくちゃんと良い相手を見つけたリオ君流石。 コハクコンビの食育期間やこれからも想像が膨らみます。
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