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6.天国でも受験勉強

 不慮の事故で死んだ俺、高ヶ坂拝人は天国に送られた。見知らぬ世界で目標を失ってしまった俺は悩める日々を過ごしていたが、ある日コンビニ強盗に襲われる。しかし、大学で転生を目指しているという謎の少女に助けられ、俺は彼女にもう一度会うため、失った人生の目標を取り戻すために大学受験を決意する……。





 6.天国でも受験勉強





 高校受験で学んだこと、受験はまず情報収集からだ。俺はとりあえず、目指すべき『天国大学』について知ることにした。


 天国大学。天国の中心街『ヘブンストリート』にほど近い場所に位置する天国で唯一の教育機関だ。医学部や法学部、工学部などの学部からなる総合大学だが、ただひとつだけ絶対に現世には存在しない学部がある。それが転生学部だ。


 大学ホームページには、『"生魂"について学び、技術を磨き、理想の"第二の人生"への一歩を目指す』というスローガンが謳われている。……まあ、例のごとく生魂ってのはよくわからないが。


 転生学部はありがたいことに受験料1万3000テンを払えばいつでも試験を受けることができるらしい。いつでもと言っても毎日やっているわけではなく半月に一度のペースではあるが、それでも現世とは比べ物にならないほど多くの機会が与えられている。しかし、連続で3回、通算で5回不合格になると二度と受験できないらしいので気をつけなければいけない。ちなみに筆記試験と面接で総合的に合否を判断するらしい。


 と、まあざっとこんなものだ。次の試験は五日後に開かれるがさすがにそんな短期間で合格するのは無理だろうから、とりあえずその次の試験を受けてみることにした。あ、そうそう、合格したら入学後は大学内の寮で生活することになるらしい。もし1回目で合格したら、早くもこの部屋とはお別れすることになりそうだ。


 基本的な情報が入手出来たら早速勉強……と行きたいところだが、何せ全くもって初めて勉強する科目なのでどうすればいいのかよくわからない。というわけでバイト終わりに駅前の本屋に立ち寄った。店構えも古っぽくていかにも老舗という感じだったが、中には人気の漫画から話題のダイエット本まで幅広く取り揃えてあった。ひとまず俺は店を切り盛りしているおばあちゃんに聞いてみることにした。


「すいません、今度天国大学の転生学部を受験しようと思ってるんですけど、おすすめの参考書とか問題集ってありますか?」


 お団子頭のおばあちゃんは俺の問いに少しの間を開けて豪快に大笑いしだした。なっ、何だってんだ……?


「あんた、あそこに行くつもりかい?だいたいの奴は興味本位で変にいい成績で入学して、あとから嫌になって退学するんだ。400年くらい前かね、私も満点で入学して地獄を見たよ。興味本位じゃなけりゃ、あそこに行くような奴はよほど現世に未練があるか、本物のバカかのどっちかだよ。あんたは……本物のバカかもね、うひひ」


 おばあちゃんは目を細めてニヤニヤしながら俺をからかうようにそう言った。だ、誰が本物のバカだ!!けど、興味本位ってわけじゃないし、現世に未練タラタラってわけでもない……やっぱり俺はバカなのか?


「地獄って……そんなに厳しいんですか?」


「試験の成績で配属されるクラスが決まるんだよ。私は最高のクラスA、当時はクラス壱だったかね、あんまりにも厳しいもんで諦めて一週間くらいで辞めてやったね」


 転生ってそれだけ努力と苦労が伴うものなんだろうな……この肝っ玉おばあちゃんがすぐ辞めちゃうくらいなんだから。あの人はどのクラスなんだろう……成績優秀そうだしやっぱりAなのかな。


「よし、俺もクラスA目指して頑張るぞ!」


「あ、安心しな。なんとなくわかる、あんたはそんなにいい成績は取れないよ」


 このババア……さっきから好き放題言いやがって……!今気持ち固めたところだろ!


「ただね、あの試験はどういうわけか面接がかなり重要視されてるみたいなんだ。1年ほど前、あんたと同じようにここに来た女がいた。あんた以上にアホ丸出しでとても受かりそうには見えなかったんだが、ここに来ることは2度となかったよ。自分の実力を思い知って諦めたか、面接で取られたか。つまり、成績が悪くてもポテンシャル次第で合格する可能性もあるってことさ」


 ポテンシャル……いつも地道に努力して結果を出してきたし、そんな才能みたいなもの俺にはないと思うけどなあ。まあ、気持ちは強く持っていた方が良さそうだな。


「少なくともあんたは好奇心で受験しようとしてるわけじゃないんだ。奥行って左の角に参考書コーナーがある。自分を信じて頑張ってみな」


 おばあちゃんは小さくてしわしわな手を俺に差し伸べた。そうだよな、俺にできないことなんてない!!あの人にもう一度会うために、俺はやるぞ!俺はズボンで手汗を一拭きして、おばあちゃんの手を握り固い握手を交わした。


「ありがとう、おばあちゃん!長生きしてね」


 俺はひょうきんで優しいおばあちゃんに別れを告げて、参考書コーナーに向かった。……結局おすすめの参考書聞いてない……。





 俺は基礎問題集、過去問題集、そしておばあちゃんにおすすめされた『マンガでわかる!初めての生魂』を購入して帰宅した。少年少女が指からビームを出している絵が表紙に描かれている……これ本当に参考になるのか?


 若干の懐疑心を抱きながらも早速勉強机に腰を下ろした俺はページをパラパラと捲ってみた。……確かに内容は漫画だけど丁寧でわかりやすい解説が随所に挿入されてて、読みやすくて頭にもしっかり入りそうだな。さすがおばあちゃん、伊達に何百年も本屋をやってないだけのことはある。


「おかえり、何それ」


 幽霊は俺のそばにフッと現れて肩から本を覗き込んだ。だいぶ慣れてきたとはいえ、急に出てこられると反射的にまだビクッとしてしまうな……。


「参考書だよ参考書。3週間後の大学入試に備えてな。もし合格したら、この部屋ともお前ともおさらばだな」


 俺が何気なく発した言葉に幽霊は「えっ」と驚いたような声を上げた。気づけばこいつとの付き合いも2、3か月になる。俺との交流が影響したのかは知らないが、最近ではネガティブ発言も比較的少なくなった気がする。それどころか、積極的に話しかけてくるようにもなった。俺としても、例え幽霊でも家に帰れば誰かがいることに安心感を覚えていた。


「引っ越すの?」


 か細い声で幽霊は俺に尋ねる。やめろ、そんな飼い主の帰りを待つ子犬みたいな目で俺を見るなよ。


「ああ、大学の寮で暮らすことになる。ついてくるんじゃねーぞ」


 半笑いで冗談交じりにそう伝えると、幽霊は急に俺から離れて距離を取った。長い前髪に隠れて目元がよく見えない。あんまり離れるもんだから、俺はつい立ち上がって近づいてしまった。


「来ないで」


 最初に会った時のような低音でぼそぼそとした声色で幽霊はそう呟く。薄暗くしっとりとした部屋の中にピリッとした緊張が走っている。俺はとりあえずその場に立ち止まった。


「おい、どうしたんだよ」


 俺がそう問いかけても、幽霊はうなだれたままで顔を上げようとしなかった。何だよ、何か俺変なこと言ったのか?


「どうせ……どうせ私が面倒くさくなったんでしょ。少し優しくしたら急に馴れ馴れしくなったから面倒くさくなったんでしょ。いいよ、こんなこと良くあるし慣れっこだよ」


 床に吐き捨てるようにネガティブ発言を繰り返す幽霊。なんでそうなるんだよ!誰もそんなこと言ってないだろ!!


「落ち着けよ!なんか変だぞお前」


 俺はとにかく落ち着かせようと思いそう声をかけた後、暗くなってきたのでカーテンを閉めて電気をつけた。その瞬間、決して触れることのできない雫が床に一粒落ちていくのを見てしまった。


「そうだよ、どうせ私は変なんだよ。こんな格好で、こんな性格で、皆に嫌われて!おまけに怖くて外には出られないし、自分の名前は知らないし、物に触ることすら出来ない!!どうせ私なんて不必要な存在なんだよ……だから、消えたい、消えたいのに……それも叶わない……」


 感情をむき出しにして叫び、顔を上げた彼女は目に涙を浮かべていた。唇を噛んでそれが流れ出してしまうのを必死に防いでいる。何だよ……俺がお前に何をしたっていうんだよ……ああそうだよ、お前なんて……。


「俺に言われても知らねえよ。絶対に一発で合格してやる。お前みたいな面倒くさいのとこれ以上一緒に生活しなくて済むからな」


 俺もやけくそになってそう言い放つと、幽霊は「もういい」と一言呟いて身体を透けさせた。消えかかる彼女が一瞬だけ見せた悲しみに暮れた表情を目にした俺は「待ってくれ!」と思い出したように叫んで彼女のもとへ駆けよるが、当然触れることなどできず通り抜けてしまう。急いで振り返るが、そこには眩しい灯りに照らされた空っぽの部屋が広がっているだけだった。

どうも、天日干しです。前回で大学受験を決意した拝人は、受験勉強を始めますがその矢先に幽霊と喧嘩してしまいます。二人は仲直りすることができるのでしょうか。

毎度見てくださっている皆さん、本当にありがとうございます。一人でも多くの方に見ていただけると嬉しくて励みになります。本作と違って大変遅筆ですが、CRYSTAL RISERも見ていただけるとより嬉しいです(欲張り)。

次回は早くも受験となります。無事に一発合格できるのでしょうか。それでは。

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