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2.天国でも変わらない

 不慮の事故で死亡した俺、高ヶ坂拝人は目を覚ますと謎の白い空間に倒れていた。困惑する俺の前に現れた死者管理支援省の加藤野乃実により、天国に来たことを知る。状況を掴めないまま、必要な手続きを行うために俺は彼女について行った……





 2.天国でも変わらない





 天国。そう言われて思い浮かぶのは、ふわふわの雲の足場に包まれ、天使たちが歌い踊っているメルヘンでファンタジーな世界だ。


 だが、どういうことだろうか。俺が今実際に目にしている天国は、普通に車がビュンビュン走り、普通に高層ビルがグングン立ち並んでいる。天使などどこにもいない。


 大きく違うことと言えば、アスファルトの白と黒が逆転している……本当にそれくらいだ。正直言って、後は現代社会と何ら変わりはない。


 「天国って……なんか、思ってたのと違いました。すごく現実的というか……」


 あまりの代わり映えのなさに驚いていると、加藤さんはアハハと笑いだした。


 「私も20年前にここに来た時、同じ気持ちになりました。ほとんど現世と変わらないし、むしろ進んでるくらいですからね」


 確かにワープなんて絶対に出来ないもんな……ん?待てよ、20年前って……。


 「あの、失礼ですけど……加藤さんっておいくつなんですか?」


 見た目からして加藤さんは20代から30代のどこかだ。20年前ということはまだ子どもの頃に天国に来たってことに……。


 「25歳です。普通のOLとして働いてたんですけど、事故で命を落としてこちらに来ました」


 んんっ!?20年前にここに来て、今25歳……けど、20年前はOLとして働いていた……5歳でOL!?ど、どういうことだ……?


 困惑している様子の俺を見た加藤さんは何かに気づいたような素振りを見せた。


 「すみません、説明がまだでしたね。簡単に言うと、私は25歳で死んでからずっと25歳のままなんです。後ほどまた説明を受けると思うんですけど、天国に送られると基本的に死亡時の年齢で固定されます。それから、身体の成長を止めるかどうかも一度だけ選択できます。私は……年を取りたくはないので成長を止めちゃいました」


 「えへへ」と笑いながら説明してくれた加藤さん。な、なんて世界だ……この世界の人たちは全員年齢不詳ってわけだ……。まあ、加藤さんはお綺麗だからそのままで良かっただろうな。


 「すごいところですね、天国って……」


 リアルな外観と非現実的な実態のギャップは俺に不思議な感覚を抱かせた。この世界で、俺はちゃんとやっていけるんだろうか……?


 「私も最初はいろいろ戸惑いました。そもそも自分が死んだことを受け入れられませんでしたから。でも、何でもそうだと思いますが、慣れると細かいことはあんまり気にならなくなってくるんですよね。あっ、もちろんこれは私の個人的な意見ですから、ご不明な点などがあればいつでも仰ってくださいね。可能な限り、お手伝いさせていただきますので」


 加藤さんは優しく穏やかな口調で俺にそう言ってくれた。まだ信じられないようなことばっかりだけど、とりあえずこの世界で最初に出会った人物が加藤さんで良かった。俺は感謝の念を込めて加藤さんに礼を言った。


 「ありがとうございます」


 「いえいえ。さて、そろそろ到着ですね。左手の奥に見える灰色の二階建ての建物、あちらが死者管理支援省が運営する死者支援事務所になります」


 加藤さんに言われた通り、平坦な道の先に『死者支援事務所』と書かれた大きな建物が見えてきた。文字だけ消したらその外観は生前の世界にあっても何ら不思議じゃない。


 加藤さんはゆっくりと減速して人が来ていないか慎重に確認してから左折して駐車場に入った。うんうん、安全第一。焦らない焦らない。空いているスペースに適当に車を停めて、俺たちは降車した。


 どこまでも広がる白い空、どこか澄んでいる空気、そして現実と変わらない光景……。俺は今、天国に降り立ったんだ。





 加藤さんについて行くがまま、俺は死者支援事務所の中に入った。受付で加藤さんが手続きをしている間、中を覗いてみると老若男女様々な人で賑わっていた。ここにいる人たちって、皆もう亡くなってるのか……死んでるのに生きてる……俺もだけど。


 受付で記名などの簡単な手続きを済ませて2階へ上がった。死亡承認とやらはこの2階で行うらしい。やはりこちらもそれなりに人は多かった。


 「死者支援事務所では死亡承認の他にも住居の変更や住民票の発行など様々な形で死者の皆様をサポートさせていただいてるんです。ただ、担当する業務が他の機関に比べてずいぶん多いので、その分混み合うことも多いですね」


 人並みを眺める俺に加藤さんは苦笑しながらそう言った。ここで働いてる人たちは現実で言う公務員になるのかな……天国でも大変なのは変わらないな。


 「では、あちらに見える7番の席で死亡承認を行いますので参りましょうか」


 加藤さんが手で示した方を向くと、白い壁で区切られた小さなスペースがずらっと並んでいた。あそこだな……。指定された7番へ向かうと、黒いメガネをかけ口元や顎に少し髭を生やしている男の人が座っていた。よっぽど忙しいのかな……目がトロンとしててものすごく眠たそうだ。


 「ふぁああ……えっと、高ヶ坂拝人さんですね。私、今回死亡承認を担当させていただきます、鈴木と申します。ここまでの担当は……あ、加藤さん、あなたですか。すいませんね高ヶ坂さん、この人危なっかしいでしょ」


 俺の担当をしてくれるらしい鈴木さんは加藤さんの方を見て目を細めながらニヤニヤしている。な、なんだこの人……。


 「あら、鈴木さんじゃないですか。高ヶ坂さん、気をつけた方がいいですよ。この人、いつもボーッとしてて怠け者なので」


 か、加藤さんまでなんかムキになり始めたぞ!!一体どういう関係なんだ、この二人……。


 「……はぁ、やめよやめよ。ただでさえ忙しいのに、元部下とくだらない口論なんてゴメンだ。お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ございません。さ、早いとこ終わらせましょうか」


 鈴木さんは軽く頭を下げて、少しキリッとした表情に変わった。元部下……てことは鈴木さんは加藤さんの元上司なのか。すごく適当な人なのかと思っちゃったけど、きっと根は真面目なんだ、うん。


 「そうですね、よろしくお願いします。では高ヶ坂さん、1階のロビーにてお待ちしておりますので終わり次第声をかけてくださいね」


 加藤さんはそう言って鈴木さんに軽く会釈をした後で去っていった。二人とも切り替え早いですね……。


 「まあ、死亡承認と言ってもそんなに特別なことをするわけじゃないですから楽にしててください。まずは情報の確認をさせていただきます。高ヶ坂拝人さん、高校2年生で年齢は17、でよろしかったですね?」


 「はい」と俺は返事をした。鈴木さんはそれを確認するとファイルから『死亡証明書』と書かれた紙を取り出した。


 「この死亡証明書は天国で生活する上での最低条件である、"死んでいること"を証明するものです。1枚は死者管理支援省の方でお預かり致しますので、こちらのもう1枚の方に署名して頂いて大切に保管しておいてください」


 なるほど、これがないと天国で生活できないってことか……。俺はよくできている制度に感心しながら下の方にある署名欄に署名した。


 「ありがとうございます。厳密な意味での死亡承認はこれで終了なのですが、この後の住居の選定や延命契約などの一連の流れを死亡承認と呼ぶことが多いです。では、続いて延命契約に移ります。天国に送られると原則として年齢はその時点でストップし、天国で何年間生活するのかを1年から500年まで選択することになっています」


 ごっ、500年!!?5世紀も生きられるのか……現代医学もびっくりだな。けど、500年もやることあるのかな……。


 「そして、その年数に応じて延命税という形で毎月納税を行って頂かなければいけません。数字だけ見て500年を選ばれる方も多いのですが、後になって税金が払えなくなるような方も少なからずいらっしゃるので慎重に決めていただければと思います」


 鈴木さんは説明しながら延命期間での納税額変動が書かれた紙を取り出した。長生きするほど税金が高くなるのか……俺まだ若いしこの先何があるかわからないからなぁ、400年くらいにしといた方がいいかもな。はぁ〜、500年にすると月に3万テンもかかるのか……ん?テン?


 「すいません、テンってなんですか……?」


 鈴木さんはポケットから財布を取り出して中から紙きれを出した。花柄みたいなそれっぽい模様の縁どりがされ、"1000テン"と書かれている。


 「テンは天国の共通通貨です。死者の方には初月支援費用として50万テンが支給されることになっております。本題に戻りますが、契約年数はいかがになさいますか?」


 そうだな……大変かもしれないけど、こんなに早く死んじゃった分やっぱり長生きしたいよな。生きていれば何とかなる!よし、俺は生きるぞ!


 「450年でお願いします!」


 とはいえ月3万はやっぱり不安だ。俺は間をとって450年の延命契約をすることにした。月2万6000とまあそんなに変わるわけではないが、安いに越したことはないだろう。


 「かしこまりました。450年で契約させていただきます。特段の事情がない限りはこの契約を破棄することはできませんので、ご了承ください」


 鈴木さんはファイルから『延命契約書』を取り出した。俺はまたもや真面目な契約書と内容の非現実さのギャップを感じながら契約年数の欄に450年と書いた。


 「続いて成長を停止させるかどうか決めていただきます。成長を停止させると契約年数が経過して天国での生活が終了するまで死亡時の外見のまま変わりません。停止を選択しない場合は、現世と同じように成長が続きます。あ、ちなみに現世と違って老化によって身体能力が著しく低下することはないです」


 成長かぁ……大人にはなってみたいけど、よぼよぼのまま何百年も生きるのもなぁ……。よし、俺は今のこの姿のままで生きていこう!


 「じゃ、成長は停止させます。ここに丸をつければいいんですね?」


 鈴木さんは「はい」と頷いた。俺は延命契約書の下の方にある成長停止希望欄に丸をつけた。なんか……トントン拍子にどんどん進めて行ってるけど、大丈夫だよな……?


 「ではこちらも後ほどコピーを取らせて頂いて保管致しますのでお預かりします。最後に住居の選定になります。天国に来て最初の住居の選定はこちらで行いますが、もし引越しなどで他の住居をお探しになる場合は不動産屋の方にお訪ねになってください」


 そういえば生まれて初めての一人暮らしだ……生まれて初めてが死んでからってのも不思議な話だ。鈴木さんは居住地候補として3枚の紙を用意した。紙に載っていた物件の写真は3枚とも特に変わったところはない普通のアパートだった。


 「1枚目の物件は家賃、立地ともに悪くはないと思われます。ただ、交通量が多いのと、すぐ近くに線路があるので雑音が気になるかもしれませんね。2枚目の物件は中心街や駅に近い好立地条件で人気のものですが、家賃がそれなりに高額になります。3枚目の物件は、家賃、立地は問題ないです。ただ……」


 鈴木さんはそこで言葉を途切れさせた。ん……なんか嫌な予感がするぞ?


 「ただ……何なんですか?」


 「"出る"という噂があるんですよ。それが気にならないのであれば問題はないと思いますが……」


 で、出るって、まさか幽霊……?そもそも天国で幽霊ってどういうこと……?いや待て……これは精神力を鍛えるいいチャンスかもしれないな……。家賃も立地も特に問題ないし、よし、ここに決めた!


 「そんなもん、どうってことないですよ!俺、このアパートにします」


 俺が自信満々にそう言うと、鈴木さんは少し笑いながら選ばなかった2枚をファイルに戻した。


 「では、こちらの物件にお住まいする方向で手続きを進めさせていただきます。本日からご入居いただけるので、後で加藤に連れていってもらってください。それでは、これで死亡承認は終了になります。お疲れ様でした」


 鈴木さんはファイルをパタッと閉じて軽く微笑みながら俺にそう言った。ふぅ〜、まあ大したことはなかったけど、これを1日何十人もやるのは結構キツイだろうな……。


 「こちらこそありがとうございました。お仕事頑張ってくださいね!」


 俺が感謝と激励の言葉を述べると鈴木さんはほんの少しだけ驚いたような顔をした。あれ、俺なんか失礼なこと言っちゃったか?だが、すぐにその表情は優しさを含んだ笑顔に変化した。


 「天国での生活、最初は慣れないかもしれませんが、困ったことがあったら遠慮なく加藤に言ってやってください。加藤が頼りなく感じたら、僕がいつでも相談に乗りますよ」


 意地悪な笑みを浮かべて鈴木さんは俺にそう助言してくれた。どこか不思議で大人げないけど、頼りになりそうな人だ。俺は隣のカウンターで必要な書類一式が入った封筒を受け取って、鈴木さんに会釈した後1階に降りた。





 全ての手続きを終わらせた後、俺と加藤さんは死者支援事務所を出た。いやーそれなりに長かったな……ん?なんか空が薄暗いぞ……。


 「天国は昼と夜の境目が曖昧で、気づいたら薄暗くなってたり真っ暗になってることが多いんです。そのせいかはわからないですけど、割と時間の制約なく自由に生活している人が多いですね」


 加藤さんが空を見上げながらそう言った。そうか……現実と変わらず何でもあるのかと思ってたけど、どうやらもう夕陽は見れないみたいだな……。


 「本日決められたお宅までお送りしますね。おそらく荷物などは届いていると思いますので、今日から問題なく生活できるはずです」


 俺は「お願いします」と言いながら加藤さんの車に乗り込む。自動でドアが閉まり、間もなく発進した。


 「今日は一日お疲れ様でした。急に知らない世界に来て流れに乗るままいろいろとなされたのでお疲れだと思います。今日はゆっくり休んでください」


 そうだな……冷静になるとやっぱり信じられないよなぁ、天国にいるなんて。そもそも……自分が死んだことすらまだ信じられない。


 「今は気持ちが落ち着かなくて整理がつかない状態だと思います。私もそうでした。その日の夜や次の日とかに徐々に実感していくんです。生きているのに、自分は"この世"にはいないこと、死んでしまったことに。正直最初は現世への未練や悔しさでいっぱいになります。けど、皆さんそこから何か自分にできること、やりたいことを見つけて新しい生活を始めます。私も最初は寂しくてやりきれない気持ちでいっぱいでした。でも、今の仕事に就いて、色んな人と出会って、私と同じような気持ちの人を支えたいと思ったんです。……あっ、すいません、こんなどうでもいい話しちゃって」


 加藤さんは真剣な表情で語った後、我に返ったように笑顔に戻った。そうか……加藤さんもいろいろ悩んだんだな……。


 「いえ、とても励みになりました。それに……鈴木さんや加藤さんに出会えて、本当に良かったと思ってます。本当にありがとうございました!」


 加藤さんに俺は笑顔で礼を言った。すると、加藤さんも満面の笑みでこちらを見て「こちらこそ!」と言ってくれた。……と同時にププーッと大きなクラクションが鳴り響いた。


 「うわあああアーッ!加藤さん、前見て前!!」


 俺の声を聞いて加藤さんは驚愕の声を上げながら急ブレーキを踏んだ。あっぶねぇ……横から来てる車と正面衝突するところだったぞ……。


 「死ぬかと思った……申し訳ありません、大丈夫でしたか?」


 「だ、大丈夫ですけど……気をつけてください……」


 交通事故だけはもうたくさんだからな……頼りになるけどそこだけは気をつけてほしいところだな……。


 加藤さんの言った通り気づいたら外は真っ暗になっており、ビルの灯や街灯が天国の夜空を照らしていた。俺はいつもと違うけど変わらない空を眺めながら、新居へ向かう車に揺られていた。俺の全く新しい生活が始まろうとしていた。

おはようございます。一週間ぶりの天日干しです。

もっと早く投稿する予定だったんですけど、思ったより時間がかかってしまいました。今回は説明的な部分が多かったですね。

次回も一週間以内には上げたいと思います。それでは。

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