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13.天国でも疲れる

 不慮の事故で死んだ俺、高ヶ坂拝人は天国に送られた。無事に天国大学転生学部に合格した俺は、クラスZの所属となりそこで仲間たちと出会った。そして、いよいよ本格的に授業が始まった……。





 13.天国でも疲れる





 クラスZについてだいたいのことを聞いた俺は先生に外に出るように言われた。生魂の授業を早速開始するみたいで、話を聞くよりまずは体感した方がいいとのことで校舎裏のグラウンドにいるように指示された。受験勉強の際に基本的なことは勉強したが、正直全く理解はできていなかった。その本質を教えてくれるんだと思うが……。


 しばらく立ち尽くしていると、スーツから赤いジャージに着替えた先生が「おーい」と小走りでこちらに向かってきた。片手にコンビニの袋を持っている……中に入ってるのは栄養ドリンクか何かだ。


「待たせたな。よし、それじゃこれから生魂の授業を開始するぞ」


「はい!」と俺は元気よく返事をする。ここからは全く未知の世界だ。気を引き締めていくぞ!


「生魂ってのは、転生と引き換えに消費するエネルギーのことだ。けど、それには大量の生魂、そして全身に調和させて自分のモノにする技術が必要だ。この転生学部では技術面を主に教える。体内の生魂を増やすのは、日々の生活や自主練でしてもらう」


 ……わからん。まあ当然だが、全くわからん。先生も俺の困惑した様子を感じ取ったようで、頭を搔く。すいません……。


「ま、言われてもわかんねえわな。ちょっと見せてやるよ」


 先生は袋から1本栄養ドリンクを取り出して、数秒でグイッと飲み干した。見せてやるって、何をしてくれるんだろうか……。少しワクワクしていると、先生は腰を落として拳をグッと握りしめた。すると、周囲に強い風が吹き始め、砂埃が舞い踊った。先生の身体が青いオーラ、おそらく生魂に包まれ、先生は唸り声を絞り出す。


虚像・虎(ペイント・タイガー)!」


 先生の言葉と同時に生魂が身体から飛び出し、炎のようにうねりを上げた。生魂の塊は俺の目の前でとてつもない大きさに膨張していき、とある動物の形に変化を続けた。


「と、虎だ……。凄すぎる……」


 爽青の体色に真紅の瞳を持つ超デカい虎が俺に睨みをきかせていた。これが生魂……生魂ってこんなこと出来んのかよ!!いやちょっと待てよ!スゴすぎるだろ!!グラウンドの半分以上は余裕で超えてるぞ!!俺なんか足の爪の垢くらいの大きさだよ!!!


「どうだ……これはまあ幻影みたいなもんで……実体はないんだけどよ……うっ、ごぶっ」


 何だかゲッソリしている先生は突然大量の血を吐いて倒れてしまった。オイオイオイオイ!!!何がどうなってんだよチクショー!!俺は大急ぎで先生のもとに駆け寄った。


「ちょっ、先生、何やってるんですか!!大丈夫ですか!!?」


 顔面蒼白になっている先生はそばに置いてあるコンビニの袋をそっと指さす。ドリンクか!?ドリンクが飲みたいんだな!!?俺は急いで栓を開け、小瓶を先生の口に突っ込んだ。ゴクゴクと音を立てて一気に飲み干した先生は、その顔に生気を取り戻した。


「ふぅー……助かった、ありがとな。この技、とんでもない量の生魂を一気に身体から放出するから体への負担がヤバいんだよな」


 ひょいと身軽な動きで立ち上がった先生。いつの間にか巨大な虎も消えており、辺りは何事も無かったかのようにただ静かだった。


「な、何だったんですか今のは……」


 俺は未だに興奮冷めやらぬ中、先生にそう問うた。先生はジャージについた血を拭いながら答えてくれた。


「生魂の形成(フォーメーション)だ。体内の生魂を一点に集中させて、イメージしたものを外に放出する。まあ、コツさえ分かればすぐできる。さすがにさっきのは俺くらいしかできないと思うけどな」


 体内の生魂って言ったって、俺の身体の中にそんな力があるなんてにわかには信じがたいんだが……。すると、先生はふいに俺の胸に手を当てた。手のひらから生魂が発生し、淡い光を放っている。その時だ。心臓がドクッと一瞬だけ大きく鳴った。なっ、何だこれ……身体中から力が湧き出てくる。生きたい……生きたい気持ちが自分の中でどんどん強くなっていくのが自分でもよくわかった。


「お前に少しだけ俺の生魂を譲渡した。生魂は人間の生存欲を刺激する効果がある。余計なことを考えずに安静にしておけばそのうち身体に馴染んでくるぞ」


 生存欲を刺激……なんか意外と危険だな。冷静に……冷静に……。俺はその場に座り込んで、荒くもない呼吸を整えた。先生もその場に座って、コンビニの袋からタブレット端末を取り出した。俺に見せてきたその画面には人間の絵が映っていた。心臓部が青く光っており、その中心だけが赤色に染まっている。


「詳しくはまた説明するが、今のお前の身体は生前のそれとは違う。お前の心臓には生命魂という生魂を作り出す核になるエネルギーがあるんだ。天国に来た人間は誰でもほんのわずかに体内に生魂をあらかじめ持っている。その生魂を増幅させる、もしくは他人からの譲渡や自然取得で増やしていきそれを馴染ませることで、転生を目指していくってことだ。正直、研究してる俺でもまだよくわかってないことが多くてな。具体的、理論的な話ができない部分もあるかもしれないけど、そこは勘弁してくれ」


 先生は真剣な眼差しで俺を見ながらそう教えてくれた。この数分で生魂がなんか凄いものだってことはわかったけど、具体的にはまだちょっと掴めてきれてない。けど、俺の中にもその凄い力が確かに存在することはわかった。難しい事はよくわからないけど、要はこの力を身体の中で増やしていけばいいってことだな!ちょっとさっきの先生みたいにやってみようかな。俺は右手を開いてとりあえずグッと力を込めてみた。だが当然ながら何も出てこない。


「生魂の形成ってどんなこと考えながらやったらいいですか?」


 イメージって言ってたけど、どうすればいいんだろう。俺の質問に先生は少し頭を捻らせたあとで答えてくれた。


「そうだな……。まずは"出すこと"に集中すればいい。ごちゃごちゃいろいろ考えるのはその後だ。コツがあるとしたら、生魂を扱う時はネガティブな気持ちは禁物。なるべく前向きな姿勢で挑むことが大切だ」


 前向きな姿勢か……生存欲を刺激するぐらいだから、ネガティブじゃダメなんだろうな。よし……生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい……俺は生きるぞ!!絶対にできる……俺に不可能はない!!俺はやればできる子だアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!!


 ボワッ……ボウウウゥ……!


 うおおおおおおおッッッ!!!!!!???右手が青い炎に包まれたァァァァァァーッ!!!!すげえええええ!!本当に出ちゃったよ!!!これが俺の生魂なのか!!?右拳だけ異常な生命力を持ってる……今にも俺の支配を離れて勝手にどっか行っちゃいそうだ。


「先生、なんかよくわかんないけど出せましたよ!!……先生?」


 自慢げにそう話すと、先生は口を開けたまま呆然としていた。ちょっと、言葉を失っちゃってるじゃないですか!だが、すぐにハッと我に返った先生は物凄い形相で俺の右手を手に取り、とんでもない握力で握りしめた。いだだだだだだだだ!!!潰れる潰れる!!!!!俺は身の危険を感じて全力で右手を脱出させた。


「ちょっと!何するんですか!!」


 俺の文句を聞く様子もなく、先生は右手をじっと見て何やら安心している。あれ、そういえば生魂が消えてる……なんでだ……あれ……なんか身体に力が入らないぞ……。そう感じた瞬間、何もしていないのにとてつもない疲労感に襲われて、仰向けにドサッと倒れてしまった。いつの間に汗もかいて……走ったことないけどフルマラソンを走破したあとみたいな感じだ。


「すまねえな。けど、こうでもしないとお前、体力切れて死んでたぞ?いや……やっぱり俺が見込んだだけあるな。普通やろうと思っても、初心者はせいぜい手の平に野球のボールくらいのデカさの塊を出すので精いっぱいなんだぞ?」


 先生は呆れながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべた。俺ってそんなに凄いことやっちゃったのか……。けど、初心者の俺がこんなに大量の生魂を出したら命に関わるんだな……気をつけよ。


「俺、この技……って言っていいのかわからないけど、マスターしたいです」


 興奮と疲労でブルブル震えている右手を眺めながら俺はそう呟いた。俺だけの必殺技みたいで、カッコイイじゃないか。


「さっきのバカみたいな出力の生魂には多大な体力消費を伴う。まずはそれを抑えるところからだな。ま、お前の潜在能力は相当なもんだ。すぐに慣れると思うぜ?」


 そう言って先生はまた俺の頭をくしゃくしゃと雑に撫でた。よし、とりあえず一歩前進だ。いや、一歩どころか十歩は駆け抜けたんじゃないのか?成長を感じられるのは、どこであろうと嬉しいな。……疲れた。

お待たせしました。13話目です。

本格的に生魂が出てきましたが、詳しい説明は次回に回すことにします。まずはだいたいどんなものなのかイメージしていただければと。拝人はなんかすごいことをしちゃいましたが、果たしてどうなるのやら。

今回も読んでくださってありがとうございました。それでは。


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