第21話 しりとり、フルネーム
お昼寝を挟んで、午後はお勉強の時間らしい。
お勉強といっても、文字や言葉に親しむための時間のようで、絵本の読み聞かせが始まった。
家にない絵本で、どうやら冒険譚を簡単に描いているものらしい。
多分、俺がどの程度文字を追えるのか確かめる意味もあったのだと思う。
この絵本のレベルならまだなんとか読むことはできるので、所々にあった知らない単語を覚えつつ繰り返し読んでもらったり自分で読んだりして覚えた。
また、しりとりのような言葉遊びもあるようでそれも何度か行った。
日本語と違い語尾は母音で終わることが多いため、どの文字から始まる単語にするかは出題者が選べる。
例えば、英語で表現すると、
appleのp→pianoのi→islandのd→...
といった感じなので、綴りをしっかり覚えてないとできない上、同じ単語禁止、4文字未満の単語禁止、3回以上連続で同じ頭文字の指定禁止、自分で指定した文字から始まる回答を用意できていない場合は負け等わりと細かい所までルールが決まっていて、頭の体操としても都合が良かったりする。
難点としては、語彙力がそのままこのゲームの勝敗を左右するためそれが足りない今の俺だとヘルマになかなか勝てない所だろうか。
ヘルマはこの年齢のわりに語彙が豊富なので、しっかりと勉強しないと追い付けない。
負けて何かある訳ではないけど、流石にずっと負け続けるのは少しばかり悔しいのだ。
うまいこと教育係に乗せられてる気がするが、自分の為にもヘルマの為にもなるからおとなしく乗せられておく。
___
そんな感じでお勉強をして、夕御飯の時間になった。
今日はヘルマの父親も早めに帰ってきていたらしく、食事を共にすることになった。
ヘルマ曰く、夕御飯を共にする機会はあまり多くなくて、基本的に仕事が忙しいらしい。
お城で勤めていることは知っているが、なにをしてるかまでは知らないとのことだ。
まぁ、自宅が職場で無いのなら詳しく知る機会も少ないだろうし、仕方がないことだろう。
ただ、城勤めということはわりとエリートなのではなかろうか。
そして、今更ながらこれって婚約者の父親に挨拶するシチュエーションではないかと内心焦っているのだが、流石にこの年齢で色々言われることはないだろうと考えることにして落ち着かせたい。
と、そんな焦りやら混乱やらを抱えつつ初の対面。
30台半ばだと思われる、深い緑色の髪にヘルマと同じ赤い目の精悍な顔立ちの人だった。
ただ、力強い印象を与える顔立ちとは裏腹に、体はほっそりとしていておそらく肉体労働とは縁遠い人物だと思われる。
「いらっしゃい、ヒーゼル君。私はカルステン・コス・レヴツァーンだ。君がヘルマの婚約者としてふさわしい人物であり続けることを願っているよ。」
「はじめまして、よろしくお願いします。がんばります。」
フルネームを初めて聞いたけど、これどっちが家名だ?
自分含めて他の人の名前を知らないと判断できないぞ。
「そういえば、ちゃんと名前を名乗ったこと無かったわね。私はカルステンの妻でヘルマの母のクラウディア・コス・レヴツァーンよ。ヘルマは、自分の名前は言える?」
「私、ヘルマ!」
「そうね、でも正式にはヴィルヘルミナ・コス・レヴツァーンだから、覚えておいてね?」
「はーい。」
あれ?そうすると多分俺もフルネームがあるはずだよな?
どうしよう、自分の名前すら知らないんだけど。
「ぼく、ヒーゼルとしか知らないです。」
とりあえず自己申告。家名すら知らないのは婚約者云々の前の問題な気もする。
「まぁ、その年なんだし知らなくても仕方ないよ。君はマティアス・コス・ビシュベルトという名前だよ。覚えておくといい。」
ありがとうお義父さん。そして、どこから来たんだヒーゼルは。原形が見つからないんだが。
名前の雰囲気的にヨーロッパの言葉っぽいんだよなぁ。ドイツとかフランスとかそっち方面。
フランス語はhの発音をしないらしいからドイツ語なのかな?
今ではもう確かめる術もないから意味のないことだけど、とりあえず中世ヨーロッパの生活をイメージすることにしよう。
なんとなく貴族階級っぽいし、きっといい生活水準なんだろうし。
とりあえず、そろそろご飯食べさせてくれないかなぁ。




