第16話 ベビーカー、容姿
初めて庭以外の、家の外に出るとあってワクワクした気持ちが抑えきれないまま翌日を迎えた。
少しばかり距離があるので、歩かせる訳にも母が抱え続ける訳にもいかないと言うことで、ベビーカーのようなものに乗っていくことになった。
流石に現代風の機能的なものではなく、率直に言ってしまえば大きな籠を大人の女性の腰より少し低いくらいの高さの台車に乗せたようなものではあるが。
もちろん、籠は意匠が凝らさせたデザインをしているためシンプルなものではない。
そんなベビーカーに乗せてもらい、初めての外出をすることになったのだ。
ちなみに、籠の中はぶつかっても安全なように、もしくは押して歩いたときの振動を吸収するためにクッション代わりの厚手の布が敷かれている。
その上で更にクッションとして何か柔らかいものを包んだ布の塊も置かれている。
落下防止用に、外を見ることはできるが乗り出すことはできない程度の高さは確保されている。
見なくても魔力で周囲の確認はできるので、乗り出すようなことはせずにおとなしく中でゆったり揺られていることにしようかな。
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ゆったり揺られていれば良いと思っていたのは間違いだったようだ。
サスペンションの問題か、道の問題か、はたまた両方かは置いておくとして、このベビーカーめちゃくちゃ揺れます。
おかげでゆっくりなんてしていられる訳もないので、魔法でなんとか対象することにした。
軽く浮かばせることも考えたが、流石に目立つだろうからやめておこう。
整備されたまっすぐな道ならきっとそんなに揺れることもないだろうし、周囲の確認も兼ねてベビーカー周辺を魔力で把握し、道を無理矢理平らに整地していくことにする。
タイヤが地面に接する前にタイヤの通る道の凹凸を埋めるだけなら、ベビーカーを浮かせるより楽でもあるし。
もし周りに魔法が使える人がいた場合は魔力の流れでバレるかもしれないが、別に隠している訳でもないし、何より自分が酔わない為に頑張ることにした。
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そして、目的地に着いた辺りで気が付いた。
ベビーカーの中で自分だけ浮いてれば楽だったのではないかと。
まぁ、過ぎたことは仕方ないので、帰り道の時にまた対応を考えよう。
目的の家は、正直自分の家よりも大きく感じられた。
門から玄関迄の前庭?もきちんと整備されているし、門をあけて家まで案内してくれている人はどう見ても家族ではない、使用人だった。
うちには使用人は居ない、というか見かけないので、きっと相手の方が格上なのだと思う。
ちなみに、相手の家に対しての説明は一切されていないので、今はワクワクよりもドキドキというかビクビクというか、緊張感の方が強い。
そして使用人の人が開けてくれた玄関の中には女性が子供を抱えて待っており、こちらを出迎えてくれた。
母と挨拶を交わしているので、彼女が招待してくれた人で、抱えているのはおそらくその子供なのだろう。
近寄ってくれた為に魔力の把握だけでなく、実際の目でも見ることができるようになった。
女性は腰くらいの長さの、冬の晴れた空のように透き通ったような青い髪、空色と言うべきだろうか、を緩くまとめており、南国の海のような碧の目をしていた。
そして抱えられている子は、同じ色の髪とルビーのように赤い目を持ち、じっとこちらを伺うように覗き込んでいた。
今更ながら、自分の髪は橙色を少し薄めたような赤みの強い金髪で、母と上の兄も同じ髪の色だ。
姉と下の兄と父親はかなり濃い茶色で、わりと黒に近い色をしているため前世を少し思い起こさせるような髪の色だったりする。
目の色は母と姉が明るい緑色、父親と兄二人は目の前の子よりも深い、蘇芳色というか赤銅色というかそんな感じの色をしている。
自分の目の色はわからない。鏡なんて見たことないし。
そんなよそ事を考えているうちに挨拶も終わり、奥の部屋へと案内された。
玄関でベビーカーから抱き上げられ、部屋に入ったところで下ろされて、親同士はお茶を飲みながらなにやら話しているようだ。
子供は子供同士で遊べと言わんばかりに、お喋りに夢中になっている。
そして、目の前にはこちらをじっと見つめている赤い目。
「はじめまして。ぼく、ヒーゼルです。」
「はじめまして。私、ヘルマ。」
挨拶は成立した。多分女の子だとは思うけど、このくらいの年の子供の性別を見分ける自信はない。
うまくごまかしつつ仲良くなる方法を模索することにしよう。




