仮想/現実⑤ 「用水路の女神」
仮想/現実⑤
「用水路の女神」
冴えない5人組、それが僕たちだ。顔も学歴もすべてが中の下。小学校の通知表の5段階評価で言えば「2」といったところだ。僕たちはゲームが大好きだ。世界中、ゲームはありとあらゆるところに存在する。5人でゲームしていれば、5倍楽しめる。と、まぁ楽しく生きていたのだが、成長するにつれ、いわゆるお年頃になった僕らは、それなりに異性に興味を持ち始め、彼女が欲しいと思うようになってきた。ゲームだけでは世界は成り立たないことに気づき始めてしまったのだ。クリスマス、バレンタインとなると少し辛くもなるものだ。夏も例外ではない。夏は長い。クリスマスみたいにせいぜい3日ほど我慢してれば過ぎていく、というわけではなく、プールだ、海だと騒ぐリアル生活満喫充実人生勝ち組の声を都合2か月ほど聞かなくてはならないのだ。そんな僕らに大きな事件が起こった。その日は地元の花火大会で、いつもみたいに5人組の誰かの家で、オンラインゲームだ、ソーシャルゲームだと騒いでいたら良いものを、何を思いついたのか、誰が言い出したのか、花火行こうぜということになり、カップル家族連れの満員電車みたいな中へ5人で繰り出した。結果、惨敗。いつもの仲良し5人組全員が無性につらくなり、妙に騒ぎながら帰途についた。帰り道、用水路に浮かぶ白い影を見て、幽霊だ、お化けだ、と逃げ出そうとしたのだが、その幽霊らしき白い影は、大きな声で僕らの名前を呼んだ。なんで僕らの名前知っているのかと疑問を持つ時間も持たせないかのように、いきなり2択の問題を出したのだ。
「あなたがたは、身の程を知り、つつましく穏やかに生きています。私たちは、あなた方に何か褒美をあげたい。と、いうわけで、2択です。」
褒められているのか、けなされているのか、何が2択なのかはわからないが、ポカンと口をあけて呆然としている僕たちに用水路の白い影は2択の問題を出した。
「イケメンになって今後イケてる人生を歩むか、この世のものとは思えない凶悪なバケモノと戦うか、どちらが良いですか?」
いや、それって、前者しかありえない選択じゃないですか、と思ったのだが、僕ら5人は黙ってしまった。先に口を開いたのは、用水路の白い影だった。
「即決は無理だと思います。ゆっくり考えてください。期限は明日のこの時刻まで。用水路の女神、とお呼びください。絶対に決めてください。でないと、この世は滅びます。」
用水路の女神は霧とともに消えてしまった。
取り残された僕たちは、しばらく呆然としていたが、この世が滅ぶ、この大変な事態に時間を無駄にしてはいけないと、急いで家に帰り、作戦会議を開くこととなった。
「明らかに、騙されている。」うんうんと頷く僕ら。
「確かに、用水路の女神というあたりが、胡散臭すぎる。」一同同じ意見だ。
「馬鹿にされているとしか考えられない。」そうだ、ひどい、と僕らは言う。
「でも、女神、水の上に浮いていた。」確かに、僕らもみんな見た。
「もし、本当だったら、明日、地球が滅びるんだぜ。」やばいよ、それは。
このまま地球が滅んだら、責任の所在は僕らにある。これはまずい、ということになった。僕らの頭に、イケメンになって今後イケてる人生を歩む未来が広がった。彼女ができるのだ。あんなに欲してやまなかった彼女が。
「イケメンになって今後イケてる人生を歩む、一択でしょう。」うんうんと頷く僕ら。
「2択とか言いながら、後者なんてありえない。」一同同じ意見だ。
「明日から、モテモテか、それはやばいな。」そうだ、そうだ、と僕らは言う。
「でも、あの女神は本物だよ。」確かに、僕らもみんな見た。
「本当に、冒険できるんだぜ。」やばいよ、それは。
イケメンよりも、イケてる人生よりも、僕らは、僕らが選ぶのは。
「それで、この世のものとは思えない凶悪なバケモノと戦うと、いうことになったのですね。」24時間たって、同じ用水路の上で、用水路の女神は、半ばあきれ顔で僕たちに行った。
「私たちはあなたに褒美を渡すといったのですよ。なのに、なんで、イケメンイケてる人生ではないのですか?」女神は最終確認してきた。僕らの決意のほどを確かめているのだろう。そして、付け足すように女神は僕らにこう言った。
「戦うといったって、いきなり強くなるとか、強い助っ人が現れる、とかじゃないですよ。あなたたちだけで、あなた方の今の状態で、ええと、星1、いや言い過ぎですね、まじめに生きている分、星2個といったところですよ。」
この言葉を聞いて、僕らの気持ちは完全に固まった。僕らは僕らのままで、僕らは5人で一緒に冒険ができるのだ。僕たちは用水路の女神にファイナルアンサーをした。
「決まりです。僕たちが世界を救います。僕たちの力で。ずるいのはナシです。任せてください。ゲームは、自信あるんで。」
用水路の女神は、あきれ顔で帰っていき、自分の上司であるものに報告した。
「凶悪なバケモノを倒すそうです。」
「言ったとおりだったろ。」
上司、または世界を統べるマスターとでもいおうか、は喜びを隠し切れない様子で、エンターキーをポンっと押した。
「あなた(たち)は いまから はじまる せかいの しゅじんこう(たち)と なって ぼうけんのたびに しゅっぱつします。」
FIN.