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異物少女  作者: 改革開花
3/5

 ――草むらに埋もれる全裸の少女を見下ろす、男子高校生。

 客観的に現状を見るならどう考えても違法性しか感じられない、随分と犯罪チックな場景がそこにはあった。


「とは言え見捨てるってのは無いだろ」


 ともあれ、少女が衣服すら纏わずに捨て置かれているこの現状。自分が品行方正な善人とは思わないが、見捨てて家へ帰れる程性根が腐っているとも思いたくない。とりあえずの処置として断は自分の制服――断の通う高校はブレザータイプだ――を少女の身体に被せる事にした。体面的にも、少女の体調を慮る上でも必要だろうとの考えだ。


「んぁ?」


 しかしその考えは、口から間抜けに漏れ出た声と共にぶち壊される。少女の置かれる状況の異常性は枚挙に暇が無いが、その中でも一際際立つ事項を見つけてしまったからだ。

 髪から肌まで真っ白な少女は、言うまでも無く顔も白い。ただ、今において見ればそれは間違いで、少女の目には真っ黒なゴーグルが着けられていた。

 ゴーグル、なのだろうか。

 断はものの数秒で自分が抱いた第一印象を疑う。それもその筈で、少女の両目を覆うゴーグルモドキは前面が黒い金属で覆われており、どうにも視野が確保されている様には見えないのだ。無論、お面の様に小さな穴が開けられている可能性はあるし、何らかの科学技術で外界を内側に映し出しているのかもしれない。ただ、そんな仮説は的外れであると断はどこか確信していた。少女の着けているゴーグルモドキに何らかの役割を見出すなら、そんな真っ当な性質の物で無く、寧ろ外界との遮断を目的とした「目隠し」なのではないか――そんな裏付けも無い予想をしつつ、断は少女の目隠しを躊躇い無く外した。

 ――真っ白な少女がゴーグルモドキによって無理矢理に束縛されている。断にはそう見えてしまい、堪らず動いていたというのが実情に近い。


 果たして、少女の存在を目隠しが抑えつけていたのは正しかった。否、正しく無いのかもしれないが、結果で見るとそうとしか思えなかった。

 目隠しを外された少女は、断が見つけてから初めて「身動ぎ」をしたのだ。これまで不動も不動、ともすれば死体である事――身体が異常に白いのがその疑惑に拍車を掛けていた――すら考えていたのだが、どうやらそれは杞憂であったようで、少女は実に生物らしい、人間らしい動きで不意に(もたら)された光に悶えた。

 遠くの空に一番星を見つけられる時間とは言え、しかし日光が無くなった訳では無い。寧ろ夕日の日差しは日中より目に刺さる。そう踏まえてから見ると、少女はしばらくぶりの光に順応するのに苦悩しているように見えた。

 断が光に悶える少女を見守っていたのはどれ位の時間だっただろうか。数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。数時間は無いにしても、時間の流れが緩慢な様な、急速な様な不思議な時間だった。

 そして――少女の瞳が断の姿を捉えた。瞳まで白色という事は無く、少女が元来持ち合わせる唯一の黒色は、少女の瞳の中にだけあるようである。全身真っ白な割には、その黒色は恐ろしく真っ黒で、断の姿は余す事無く少女の瞳に映り込んでいた。

 

 重ねて言うならば、初ヶ原断と少女のこの場景を客観的に言って、異質を乗り越えた変質である。変質と言うより、変質者である。何せ裸の少女――ブレザーを被せる前に少女を起こしてしまった為、少女は未だ裸である――と男子高校生の二人、その二人が互いに互いを凝視したまま固まっているのだ。

 善良な一般市民なら通報すべき事案、光景。ただ、この場には善良な一般市民は断以外に居なかったし、二人を(・・・)見ていた(・・・・)第三者(・・・)はとても善良な一般市民と言えなかった。

 その第三者は真っ黒な装束に身を包んだ、病的に白い顔を首の上に乗せた男だった。男の手には大きな鎌――死神の持つ大鎌とでも呼ぶべき物が存在する。それだけで既に銃刀法は違反しており、善良な一般市民である筈も無い事が分かる。


「『白色』が親を認識……完全に予定外な展開ですね。どうしますか?」


 男は諦念と落胆を交えた声で、独り言の様に話す。その実は右耳に装着しているデバイスを用いた会話であり、決して独り言では無いのだが、男の語調は独り言のそれに聞こえる。


「はい、はい……。分かりました、その様に」


 男は通話相手からの返答を受け取ると、デバイスに手を伸ばして通話を終了する。そうして完全に独りになってから、男は今度こそ溜息と独り言を吐き出した。


「『無垢な天使を連れ戻せ』。依頼内容の文面から考えるに、現状を依頼達成とするのは難しそうですね。報酬はちゃんと出るのでしょうか」


 その見た目に反して凄ぶる世俗的な事を言いながら、男は大鎌を構える。夕日が反射したその在り様は、幾人の血に染まっている様に見えた。



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