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異物少女  作者: 改革開花
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プロローグ

 日本某所、そこで行われていたのは紛う事無き「戦争」であった。

 戦場に居たのは十数人の部隊一つと、一人。廃工場を舞台に行われている事を鑑みれば「抗争」とでも呼ぶべき規模ではあるが、それぞれの背景に国家クラスの権力を持つ組織がある事を考えれば、それはやはり「戦争」と呼ぶべきだろう。


「『白色』は大丈夫か!」

「『白色』依然バイタル正常、状態に変化ありません」


 既に電力は来ておらず、灯りの類は何一つ無い廃工場の中で、真っ黒な装備に身を包んでいる部隊――その中の一人、恐らくは隊長であろう男は声を張り上げながら周囲を見渡す。男の部隊は廃工場の一角で円を形成し、各自が外を見張る陣形を取っていた。円の中心には成人男性の肩辺り程の高さの銀色の物体――例えるなら液体窒素を入れる容器の様な、円筒状の物体がある。男達の目的がその銀色の物体を守り抜く事にあるのは想像に難くない。


「――っ」


 誰かが緊張に耐え兼ね、短く息を吐いたのが廃工場の静寂に響く。男達の周囲には何も、誰も居ない。だからと言って、否、だからこそ、男達は過剰なまでに警戒を維持していた。何せ敵が敵――自分達が「狩られる側」である事に疑いは無いのだ。ただで狩られるつもりこそ無いが、勝てるとも思っていない。

 それでも男達が心折れずに耐え忍んでいるのは、偏にこの廃工場が増援との合流地点だからだ。男達の任務は飽くまで銀色の物体の護送である。勝利も殺害も必要無い。成し遂げるべきは目的地まで対象を運ぶ事のみ――増援はその突破口になり得る筈。


「……遅いですね」


 重苦しい警戒の中、部下の一人がぼそりと零した。それは不安の表出であり、然とした事実であった。時計に目を落とせば既に合流予定時刻から十分以上は経過している。当初の予定に無い、イレギュラーな展開でこそあるが、しかしこの状況で予定時刻に現れない増援とくれば恐ろしい想像が脳裏を過る。

 もしかして、増援は既に――


「増援なら来ないですよ」


 男の想像を裏付ける声が、脳天から降り注ぐ。驚愕と恐怖に駆り立てられ空を仰げば、そこには廃工場の屋根を支える梁に真っ直ぐ立ち、血の気の無い真っ白な顔で部隊を見下ろす男の姿があった。

 男達部隊と同じく真っ黒な装束。ただ、右手に握られている得物が明らかに異質だった。湾曲を描く刃、杖にするには余りに長い柄――その得物は俗に鎌、それも形状的に死神の鎌(デスサイズ)を連想させる物である。装束の色と男の顔色が合わさり、その出で立ちは死神と呼んで遜色無い出来だ。これがハロウィンなら仮装大賞でも送るべきだろうが、部隊を率いる男にとって生憎、その存在は正しく死神でしか無かった。


「さて、『白色』を返して貰いましょうか。無垢な天使が穢れる前にね」


 死神はそう言って梁から飛び降りる。彼の持つ鎌が、鈍く光った。



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