表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

#9 繰り返す”日常”

 約五年ぶりに異世界に帰還。僕の開拓した国への凱旋。

 僕を待ち受けたのは現実同様荒廃した世界。


 ()()()()()()()()()()()


――なんて傍点で強調しシリアス風にしてみたが、なんてことはない。むしろ当然であると言えよう。


 盟主である僕とあらゆる要職についていた嫁達。挙句の果てに戦闘を担う精鋭部隊が揃って現実世界に転移したのだ。

 正しい帰結。やばいなこれ。犯罪横行しまくりで疫病流行り過ぎ。


 時差ボケならぬ転移ボケもあるというのに帰宅早々仕事が山積みである。

 忘れかけていた社畜魂に鈍く火が点いた。これが奴隷の成れの果てである。


 僕不在を受けて暫定的な宗主となっていたのは僕の息子。第一夫人ハーフエルフとの子供。


 って、あれ~五年ででかくなりすぎだろ。五歳の長男がすっかり成人に見える。人間とは成長速度が違うのか? ならば僕の嫁は何歳だ? 外見年齢はハタチ前後に見えるが、これはひょっとして合法的なあれなのか? しかし、妻とは言えど、軽々に女性に年齢は聞けないので疑問符は静に胸にしまっておく。


 だが新たな疑念が振ってくる。肉体と年齢がちぐはぐ? ということは、見た目は大人で頭脳は子供? 逆少年探偵? 外見上は老人に見えてもその実、十数年とかしか生きていない可能性もある。外見の割に幼いオツム。子供のように迅速な理解や適応の柔軟性。


 ()()()()()()()()()()


 この世界の確信に触れる考察は慌しい声に遮られる。はいはい、サボらず仕事しますよー。


 異世界での仕事を片付けたら、現実世界に交代人員を連れて帰還転移。

 そこにある山のような仕事を形にして異世界にワープ。

 リピートリピート。壊れた蓄音機のよう。


 毎日の課題に翻弄されボロ雑巾の様に成り果てた僕は夜遅くに帰宅し、ベッドで待つ柔らかい肉の布団達に飛びこむ。彼女達ともみくちゃに混ざり、ぐちゃぐちゃに溶け合って、そしてそこでも果てる。


 仕事に生活の全てを支配され、家に帰れば寝るだけ。

 果てしなくデジャヴ。

 仕事場が二つの世界に跨るだけで、転移前と同じじゃないか?


 世界の壁を超えた奇妙な符合。


 しかし、かつての僕と違うのは決定的に違う。

 恋人なし、企業の奴隷であった底辺サラリーマンの身分とは確定的に違う。

 遅い帰りを待ってくれる愛しい嫁達の存在。

 僕を持ち上げ甘やかしてくれる格下の存在。

 これだけあれば十分過ぎる報酬だろう。


 現実同様忙殺される毎日だって構わない。

 理不尽や不条理には慣れているし、それに耐えれば可愛い嫁と賛辞の声が冗談みたいに降り注ぐ。

 楽な仕事で雨のような報酬。夢のようだ。ならばこれでいいじゃないか。

 現実と変わらない異世界転移でも満足だ。

 変わらぬ日常を過ごして何が悪い?

 現実じみた異世界なんて最高じゃないか!

 異世界じみた現実なんて必要無い。



 もうこれはまともな『げんじつ』なんていらないぜ! まっぴらごめんだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ