未来を偽ってた者
内心しょんぼりとしながら、奏は真琴たちのいる廃墟へと辿り着いた。
奏は辺りを見回して、自分の目には珍しい光景を記憶していく。建設途中で天井にブルーシートが掛かっているビルに、放置された影響でそこら中雑草だらけの駐車場。ガラスがひび割れている入り口のドア。
明日香はめったに来ない場所ということもあってかはしゃいでいる。目をキラキラさせながら、奏の肩を叩いて指を指していた。
「ねぇねぇ、かな姉! あれ! 凄いよ!」
「ああいうの始めて見た?」
「うん!」
「じゃあ、真琴くんも居るかもしれないし、私たちも行こうか」
奏と明日香も廃ビルへと入ろうとする。しかし、その時に奏は自分の足元に何かが落ちていることに気づいた。視線を下ろして地面を見る奏は、一台のスマホを発見した。画面が地面の方に向いているスマホを手に取り、奏は画面を見る。
スマホの画面には、ただ一言『助けて』と打たれていた。
そして、このスマホの持ち主を奏は知っている。
「これ……未来のだ」
「みら姉のスマホがどうしてここに落ちてるの?」
「……まさか!」
奏はスマホを手にとって駆け足で廃ビルの中へと進む。廃ビルの中は外よりも更に廃れきっている。あちこちの壁にはヒビが入り、今にも崩れそうな風貌を醸し出している。地面には雑草が生い茂り、人工と自然の調和が始まっていた。
奏は必死に未来の姿を探す。すると、奥の方で何かが崩れる音がした。
「かな姉! 行ってみようよ!」
「うん!」
奏と明日香は廃墟の風景には目もくれずに奥へと走った。そこで二人が見た光景は、真琴と明日香が争っているものだった。
ただし、じゃれ合いではない。本気の戦い、殺し合いが行われていたのだ。
奏はその光景を疑った。未来は助けを求めていた。なのに真琴を殺そうとしている。
未来は小さなナイフを持って真琴に襲いかかっている。真琴はどうしても踏ん切りが付かないのか、攻撃をためらっている節が見られ、回避に専念しているように奏には見えた。
「真琴くん! 未来! あなた達……何やってんのよ!」
「か、奏!」
奏の悲痛な叫びで彼女の存在に気づいた真琴は一瞬だけ彼女を見てすぐに未来の動きを警戒した。
逆に、未来はぬうっとゆっくり目に奏の方に首を動かす。今の彼女の表情は狂っていた。
「あっれぇー奏ちゃんじゃないの。どうしてここが分かっちゃったのかなー?」
「そんなことどうでもいいわ。それより、これはどういうこと?」
「ああ。私ね、真琴ちゃんを殺したくなったの」
「……何ですって?」
「あ、真琴ちゃんの次は奏ちゃんを殺すから。ちょっち待っててねー」
奏は未来の態度に眉をひそめて目つきをキツくさせようとしたが、先ほど見た未来のスマホを思い出した。あれに記されていたのは助力。それなのに、奏の目に映る景色はおかしい。
ここまで歩いてきていた間に未来を疑ってしまった奏がいた。彼女は無駄に未来を疑って自分を傷つけていた。友だちなら、今の状況はどうするのか。
これが、奏なりの『友だち』の答えだった。
「……違う」
「んー? よく聞こえなかったなあ。はい、お腹から声を出してみよう!」
「あなたは未来じゃない! 未来は……人を傷つけるようなことなんか――」
一瞬だけ奏の脳内に思い出される未来と自分の思い出。
まだ敵だった自分を非難してたり、記憶喪失の自分に対して金をせびったり、自分を貧乳だと罵ったり、幽霊が怖い自分を見下していた。
…………。
バカバカバカ! 今はそんなこと考えちゃダメだ!!
「――傷つけるようなことはしないわ!!」
言い切っちゃった。
勢いで奏は未来に対してそう言い放った。
未来は奏の力強いセリフに目を丸くして驚いている。まるで、何故奏が自分のことを擁護しているんだとでも言わんばかりに。
ためらっている真琴に対して、奏が叫ぶ。
「真琴くん! 今の未来は偽物よ! 私が保証する!」
「……ああ! そうだよな! 分かった!!」
真琴は女の子に変身し、奏から受け取った木刀を真剣へと変化させる。
もう真琴はためらわない。剣を握った手は力強い。
真琴に本気で襲い掛かられては、未来は太刀打ち出来ない。未来は真琴の剣で上半身を縦に切られてしまったのだった。
「――っ!? な、なんだ!」
その瞬間、未来の体はパックリと二つに割れた。正確に言えば、未来の『皮』が二つに裂かれてしまったと言った方が正しいだろう。
裂かれた未来から現れたのは真琴と未来をここに連れて来た女の子ではなく、大人の男性だった。この場にいる全員が、男性の素性を知らない。男性は未来の皮を履き捨てて、真琴たちの前に立ちはだかった。
「あーあ。バレたか」
「あなたは新たな能力者……? どうしてこんなことを!」
「それを言っちゃお終いでしょ。じゃあなお前ら」
男性は即座に地面を蹴って走り始めた。
友だちに化けていたなんて、許せない。
持ち前の正義感が疼いた奏は男性を追っていく。
「明日香、お前は奏と一緒にアイツを。俺は二階にいる女の子を助けに行く」
「ねえねえまこ兄。私、全然活躍できないんだけどー」
折角の機会にもかかわらず今の場面で何も出来なかった明日香は少しだけむくれてふてくされている。だが、そこは真琴。小学生の心を持っている彼女を簡単に説得した。
「お前がここまで案内したんだろ?」
「そーだよ」
「だったらそれだけでも大手柄だよ。じゃないと、俺は偽物の未来に殺されてたかもしれない」
「……ホント!?」
明日香はすぐに笑顔になって奏の後を追っていった。
真琴は苦笑いをしながら、二階にいる女の子へと向かう。未来の様子がおかしくなったのは、あの女の子が気絶した未来を介抱してからだ。
だとしたら、彼女が何かしらの鍵になっていることは明白だ。もしかしたら、敵かもしれない。
そう思った真琴は武器を持つために女の子の姿のままで女の子で彼女へ会いに行った。




