未来の欲望、大爆発
無事に白き人型を消滅させることができた真琴は、未来にこれまで起こったことの説明をするために場所を変えることにした。近くにあった公園へ未来を誘い、空いているベンチを探す。
先に未来がベンチを見つけて座り、真琴は彼女の隣に腰掛けることにした。まだ女の子の姿を保っているため、スカートの中の聖域を他人に見られないよう気をつけて足を閉じる。
数秒の沈黙の後、口を開いたのは未来だった。
「さて、話してもらいましょーか? さっきの白いヤツと君の女体化、どういった関係があるのさ?」
「……分からない」
「じゃあ、白いヤツって何者?」
「……分からない」
「それじゃあ何の説明にならないじゃん! 胸を揉みしだくぞ」
何も答えられない真琴に対して、未来は彼女の胸に触れた。真琴は当然、その行為に怒りの表情を見せた。
「何ナチュラルに胸触ってんだよ!」
「君自身、何も分かってないじゃん。よくそんなんでいられるね。私だったら気になってしょうがないよ。あ、女体化は別だよ。あれは疑問には思わない。何故なら、それが私の願望だったからね!」
未来の指摘は実に正論だった。今まで真琴は疑問は持っていたが、それを解明しようとしても方法がなかったのだ。生徒会長という唯一の手がかりも、生徒会長が記憶喪失という最悪の結果を迎えてしまった。
真琴は今、自分が知り得る情報全てを未来に話すことを決めた。それで自分の中で整理ができれば一石二鳥だと思った。
「分かっていることと言えば、この能力が生徒会長から貰ったってこと。それと、俺が念じると物体が転換して別の物体に変化すること……それくらいか」
「でもさ、言うなれば今の真琴ちゃんは魔法少女ってこと? アニメやマンガだとよくあるじゃん、男の子が女の子に変身して魔法少女となって世界を救うってやつ」
「よくある……か?」
「バッカでぇ~。私のTSF情報収集力をなめたらあかんよ。まあ、それと比べても真琴ちゃんの戦い方は泥臭いけどね。……泥臭い魔法少女真琴ちゃん……いい、いいぞこれー」
未来の妄想癖が止まらないようだ。未来はまたしても目を幸せそうにだらけさせて、鼻に手を当てて鼻血を食い止める。
何度も見た光景である真琴は黙って彼女にティッシュを差し出した。未来は真琴に礼を言ってティッシュを使って鼻血の処理をする。
「いやぁ~すまんかった。妄想が止まらなくて」
鼻にティッシュを詰めている未来の姿を見て、真琴はすでに彼女から『清楚』という言葉は消え去っていた。代わりに『変態』という言葉が新たに書き加えられた。
彼女に付き合ってたらすぐに話の腰を折られちまう。
ため息をついて、真琴は話の続きを始める。
「あとはコートを着た中年男性がよく分からないな。そのおっさんは俺の他にも能力を持った人間がいると言っていた」
「そのおっさんもTSF好きなんだよきっと! ああ、真琴ちゃんの他にもTSFできる人間がいるなんて私、幸せの絶頂で死にそう……」
「俺はてっきり能力を持っているのが未来だと思ったんだが、違ってたようだな」
「真琴ちゃん。私が能力を持ってたら君なんて相手にしてないよ! むしろ、自分で欲望を満たせるなんて素晴らしいじゃないか! そうだ! 私にもくれ! さあ早く!!」
「落ち着け」
そりゃそうだ。未来が能力持ちだったら俺に関わるなんて有り得ないだろう。こうやって積極的に俺に関わっているということは、未来が能力を持っていないという理由としては十分だ。……ただ、それも彼女の嘘であることは否めないが。
諦め悪くも、真琴は未だに未来を疑っている。それは、ブティックでの恥ずかしい出来事を無駄にしたくないという思いからだった。
「そーいや、何で真琴ちゃんはスマホを辞書に変えてたのさ」
「これが俺の能力らしい。転換って言って、例えば男の子の服を女の子の服に変えることも――」
「何故それを先に言わねぇー!!」
「ええっ!?」
「無駄な出費したじゃねーかボケェ! その能力があれば、真琴ちゃんの持ってる服を女の子バージョンにできるってことでしょう? だったら行こう! 君の家へ!! そして着せ替えショーだ!」
「待て! とりあえず落ち着け!」
「フフフ……昨日の段階ですでに君の家は抑えてある。観念するがよい」
「ストーカーかよっ!」
「君に拒否権はない。私に従ってもらう」
「そんな決定権がお前にあるのかよっ!」
未来は真琴の手を掴んでベンチから立ち上がり、走りだす。
未来が簡単に俺の家を特定できるわけがない。真琴は心の底でそう思っていた。しかし、未来の情報収集力は真琴の予想を遥かに超えていた。
「本当に俺の家につきやがった」
「どやぁ! これが私の能力よ!」
真琴は未来を恐ろしく感じ、新たな懸念を産んだ。それは、真琴の家の事情だ。家族は長期旅行ということで真琴を置いて海外へ旅立ってしまっている。何とも某ラノベの展開のようで都合がいいが、ある意味真琴の都合が悪いといっても過言でないかもしれない。
未来はすでに勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「フフフ……すでに君の家族は旅行で海外にいることも調査済みなのだ」
「やっぱり知ってたぁー!?」
「ねえ、二人っきりだね。真琴君」
ここにきて清楚な笑みを見せる未来。すでにそんなイメージからかけ離れている印象を抱いている真琴には無駄であった。これが、学校で見せている清楚のイメージのままで二人きりなら、どれだけ嬉しかっただろうか。今の真琴はそればかりを考えている。
「合鍵もすでに作成済みで……」
「それ犯罪だからね!?」
「勝てば官軍負ければ賊軍! 勝った方が歴史を作るのよ」
「そのことわざ、この状況で使う意味まったくないから!」
その後は、真琴が未来を振りきって家の中へと逃げ、自分の部屋へ立てこもったと思ったらすでに未来が真琴の部屋にいたという状況になってしまった。
数日間の出来事を改めて回想し終わった真琴の目の前に、未来が立っていた。彼女はすでに理性を失い、一匹の獣へと変わっている。
「ハァ……ハァ……お、お着替えしましょうねー」
「なんかキモい人になってるんだが……」
「この中学生の時の水着とかはどうかな? いやあ、すごく似合うと思うよ」
「誰が着るかバカ!」
未来の暴走は始まったばかりだ。真琴は未来の暴走を抑えながら、今日という日を生きていく。
能力を手放すまでは、この生活が続くのだろうか。そう思うと、真琴の心は深く落ち込んだ。
早く未来から逃げるためには、能力者を探さないとならない。コートを着た中年男性によれば、能力者同士は引き合うらしいが、本当だろうか? いや、いずれにせよ能力者を見つけてその能力を盗らなければ話にならない。当面の目標が出来たと同時に、どうやって未来と付き合っていくか、それを考える真琴であった。