小学校であったあまり怖くない話
「ねえ、知ってる? この小学校には怖い噂があるんだって。
この学校には全然テストの点数が取れない落ちこぼれがいてね。その子、毎日学校で勉強していたの。
それでも点数は上がらなかったけど、毎日毎日頑張っていたそうよ。でもね、ある日を境に彼は小学校から消えてしまったの。その話をするね。
その子はいつも通りに放課後、教室に集まって勉強をしていたわ。先生も最初は見守って教えていたんだけど、急な用事ができてしまって一旦教室から離れてしまったの。
その子は先生が帰ってくると思ってずっと一人で勉強してた。何時間もね。
ある時、その子は気が付いた。今、何時だろうって。時計を見た。夜の六時半だった。
普通は小学校でそんな時間まで勉強する人はいないよね? でも、その子は先生を待つために勉強を続けていたんだって。偉いよね。
さすがのその子も勉強し続けて疲れてたのか、ウトウトと眠りこけてしまった。次に目覚めた時、その子はすぐに時計を見たの。そしたら時刻は夜の八時半。
さすがに焦ったのね。その子はすぐに帰り支度をして教室のドアを開けようとした。だけどね、そのドアは開かなかったの。
その時、後ろから冷たーい息が吹きかかったわ。その子は体を震わせながら後ろを向いた。
すると――」
「キャアー!!」
諌見は両耳をふさぎながら大声で叫んでしまった。諌見の他に話を聞いていたクラスメートたちは話のオチではなく、諌見の大声にびっくりしてしまった。クラスメートの男子が諌見に対して悪態をつき始める。
「なんだよ諌見! 大声出してうるせーなー」
「だ……だって……」
放課後の一教室で、諌見の叫び声が響き渡った。叫びすぎて声が反響していく中で、諌見は自分の声に少しだけ反省した。
怖い話を聞くためにクラスメートたちは集まっていた。話しているのはクラスメートの一人で、怖い話が好きな女の子である。最初は乗り気でなかった諌見だったが、クラスメートの大半がそのイベントに参加するということで諌見もしぶしぶ参加することになってしまったのだった。
傍から聞けば作り話であるということは明らかでそこまで怖くもない話だが、諌見にとっては地獄で、とても恐ろしく怖い話と受け取ってしまう。
当然、諌見の体には彼女の兄が憑依している。しかし、この怖がりようである。それを考慮しても、相当の怖がりだということが分かってしまう。諌見の体だからまだしも、これが兄本人の体だったら情けないことこの上ないと思うだろう。
諌見は半泣きしながら、男子を見ている。自分自身でも情けないと思っているが、恐怖心はそう簡単に克服できるものではないと、諌見は思っている。
男子はそんな諌見の反応を見てからかうことに決めた。ニヤニヤと顔を変化させながら、男子は意地悪そうな声を出して諌見を苦しめていく。
「あ、もしかして今の話怖かったのかー?」
「こ、怖くない! 誰があんな話怖いもんですか」
「へえー、だったら実際にその教室へ行ってもらおーじゃねーか」
「う……」
諌見は迷った。ここで肯定してしまえば自分が現場に行かなくてはならない。怖い話が嫌い、幽霊が怖いのに自ら見えている落とし穴に嵌ってしまうような事態は避けたい。
しかし、否定すると確実に男子からからかわれてしまう。それだけは妹に失礼だと諌見は思い、勢いに任せて肯定することにした。
「い……行ってやるわよ! 行けばいいんでしょ!?」
「おーいみんなー! 諌見が今日一人肝試しをするんだってさー!!」
言質をとった男子はすぐに他のクラスメートに広めていく。もう逃げられないところまで来てしまったが、諌見は後悔していない……わけがなかった。
心臓の鼓動は次第に増えていき、汗もかき始める。しかし、表情だけは変えたくないと、涼しげな顔――やせ我慢――を見せていた。
「ちゃんと夜の八時半、スマホに写真撮って明日みんなに見せろよな!」
「あ……当たり前じゃない!」
文明が豊かになって、逆に自分の首を絞めることになることもあるんだなと、呆然としながら諌見は思った。
ああ。どうしてこんなことになってしまったのか。
全ては諌見の強がりによるものだが、今の彼女には分からないだろう。
「ホントに大丈夫? 諌見ちゃん」
「だ……大丈夫に決まってるじゃない! こんなのぜーんぜん問題ないよ!」
クラスメートの女子の一人が諌見を心配する。傍から見た雰囲気からして、諌見は無理してるように見える。だが、諌見は女子に対しても強がりを見せている。
空元気になっている諌見の心はすでに決まっていた。
こうなったらヤケだ! もう、どうにでもなーれ!
……ただ、奏先輩とかには相談しておこうかな。奏先輩なら、きっと私と一緒に夜の学校に行ってくれるはず。
戦いでも力強く頼りがいのある奏の助けを乞う。諌見は自然と心が穏やかになっていくのを感じた。頼れる先輩が入れば、怖いものもあまり怖くなくなるかもしれない。
諌見は早速、奏たちの高校へ行く決意をしていた。




