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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第一章
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交際開始?

 真琴は正座をしていた。場所は学校の一教室で、時間は放課後。未来を呼び出し、放課後この教室へくるようお願いをしたのだ。

 仁王立ちの未来は正座をしながら土下座をしている真琴を見下ろしていた。真琴の願いは『昨日のことはお互いに水に流して付き合おう』というものだった。

 未来にとっては願ってもないことだったが、先日逃げた真琴をどうしても信用できないでいる。そこで、放課後の呼び出しに応えることで真琴の真意を聞くことにしたのだった。


「ほお……私と付き合いたいと。そう申すわけ」


「……はい。お願いします。やっぱり、初恋は初恋なんです。夢なんです」


「昨日は私から逃げたというのに、どういう風の吹き回しかしらねぇ?」


「ギクッ」


 体を震わせて行動の矛盾点をツッコミを入れる未来。何かを隠している……? ますます未来の中の疑惑は大きくなっていく。

 一方、土下座をしている真琴は焦っていた。女体化好きだからと高をくくっていた自分を嘆いている暇はないが、状況の打破を考える余裕も無い。それでも、必死に脳内を回転させて策を作り上げようとする。

 女体化に弱いなら……やっぱりこれしかないのか?

 ある一つの案に終着した真琴は、自分の体が女性になるように念じた。

 光に包まれ、女性の体になった真琴。彼……いや彼女は土下座を止めてすぐさま未来に抱きついた。それから涙目になって未来を見つめる。そう、泣き落としという作戦だった。


「未来おねーちゃん……おれ、じゃなくて……私と付き合ってくれないの?」


「う……う……」


 未来の中で葛藤が起こる。この男は何かを隠していることは明白だ。しかし、目の前の女の子はとても可愛く、自分の理想である。男性が女性化して自分に話しかけているのだ。しかも、上目遣いの涙目というシチュエーション。この葛藤はコンマ1秒で決着がついた。勝ったのは自分の欲望だった。

 未来は真琴を抱きつき返して頬ずりを始める。


「そんなわけないじゃない!! 大好きだよ真琴ちゃん!!」


 男なのにちゃん付けで呼ばれるのは心外だが、とりあえず今は未来を簡単に監視できる状況が作り上がりそうで真琴は満足している。その時、未来がいきなり真琴を突き飛ばした。

 突然の反撃に驚き、計画がバレてしまったのかと焦った真琴だったが、未来は鼻を片手で覆って何かをしていた。息も荒くなっており、興奮しているのが分かる。

 真琴は我ながらアブノーマルな女性を好きになってしまったと改めて後悔を重ねた。


「ハァ……ハァ……いかん。妄想しすぎて鼻血が出てきた」


「どこのエロマンガキャラだよ」


 そう言えば、告白した時も鼻元を抑えていたような気がする。もしかして、あの時も鼻血を……?

 真琴は似たような状況を思い出して、そしてため息をついた。ああ、最初から彼女は彼女だったんだな。


「そ、その女の子の可愛い声で乱暴な口調もイカスわ。元が男の子っていうのがまたなんとも……ブッ!」


 自分の中の限界を超えてしまったのか、未来は両手で鼻元を抑え始める。真琴の心のキャパシティも限界に近づいていた。だが、ここで下手に出てしまえば彼女を監視できない。

 真琴は一世一代の大我慢と思い、必死に表情を隠していた。未来はポケットに入っていたティッシュを取り出して鼻血を止血している。ティッシュを丸めて鼻孔に入れ、流れ出る血をティッシュの防波堤でせき止める。準備が終わったのか、未来は真琴に顔を向けた。今の未来は両方の鼻の穴にティッシュを詰め込んでいるせいで、鼻孔が膨らみ、美人が台無しとなっている。

 学校で清楚で通っている未来からは想像もつかないようなバカげた表情になっているのが、真琴に妙にツボにはまってしまった。腹の底から湧き出る笑いの感情が抑えられず、思わず鼻で笑ってしまった。


「ク……ククク。ヒデー顔してる」


「笑ったことを後悔しないことね。私の思うままに行動してもらうわよ」


 そう言うと、未来は真琴の手を握って走りだす。彼女の行き先は真琴には分からない。だが、嫌な予感だけは真琴の心に存在していた。

 未来の向かった先はブティック。しかも、女性物が大半を占める女性専用のブティックだった。男性の時にはめったにお目にかかれない店の内装を見ながら、真琴は未来の手を解こうとした。


「なーに慌ててるのかなぁ?」


「バ、バカ! 何で男の俺がこんな店に来なきゃいけないんだよ!」


「ふーん、その体で男の子ねぇ……」


 そう言いながら、未来は真琴と繋いでない方の手で真琴の胸を弄る。再び電気が走ったような快感に襲われた真琴は変な声を出してしまった。


「ヘァ!? だ、だからそれ止めろって……」


「これのどこが男の子なのかなぁ? それとも、まだ自覚できないってならもっと触ってあげようか?」


 が、我慢だ。今、ここで変身を解いてもいいかもしれない。しかし、真琴は自分がこの女体化できる能力を手放すため、そして未来に能力を使わせるために耐えることを決意した。


「わ、分かった分かった! お……じゃなくて、あたしは女だわよ!」


「それでよろしい。じゃあ、行こっか」


「あ、それはちょっとまだ心の準備がぁああぁ!」


 先ほどの男らしさはどこへいったやら。未来と手を繋いでブティックに入った瞬間、真琴は背中を小さく丸めて、顔を赤くして俯いていた。

 未来がここに真琴を連れて来た理由、それは……。


「ふーむ、最近の流行りってのはどれなのかなー?」


 未来は掛けられてある服を一瞥しながら真琴と見比べている。そこから幾つかの服を手にとって真琴に渡す。真琴が受け取ったものは全て女物の可愛らしい服ばかりだった。


「あの、これは一体……」


「私がコーディネートしてあげる。やっぱり可愛い服を着てこそでしょう! それが元男の子だとしたら……フフフ。素晴らしく萌えるってもんよ!」


「はあ……」


「スカートの方がいいよねー。だって男の子のままでスカート着てたら変態だものねー」


 傍から見れば、仲の良い女の子同士が買い物に来た、ただそれだけのことだろう。しかし、一人は男なのだ。もしかしなくても、女装するんだという感覚に、真琴は頭を痛める。だが、全ては能力を手放すため。そして、未来の監視のため。

 真琴の個人的意見を無視し、未来は服選びに躍起になっている。ここで真琴は一抹の不安を抱いた。本当に彼女が能力者なのだろうか。能力者だと断定したのは自分自身だが、こうして見るとただの存在自体が十八禁の女子高生でしかない。……いや、能ある鷹は爪を隠すということわざがある。彼女も実はとんでもない能力者なのかもしれない。無理矢理にでも、真琴はそう考えることにした。

 服選びの最中、暇になっている真琴は気を紛らわすために昨日の学校祭の会議について話すことにした。


「なあ、昨日学校祭の会議があったんだろう?」


「あったよ。それが?」


「生徒会長ってその会議に参加してたんだろ?」


「してたねぇ……でも、すぐ抜けたよ。何でも用事があるとかないとかで」


「抜けた? どういうこと?」


「そのままの意味だよ。生徒会長がスマフォ見てたら急に立ち上がってさ、『用事があるから抜けます』とか言っていなくなったの。驚いちゃったよね、生徒会長がいないと会議も続かないのにさ」


 真琴は未来の言葉をそのまま鵜呑みにはしない。目の前で服を選んでいる未来は、もしかしたら真琴の敵である可能性があるからだ。

 こんなことなら、昨日の行動についてもっと詳しく聞いておくんだった。真琴は今更ながら後悔していた。

 あらかた選び終わったのか、未来は残りの服を真琴に手渡し、彼……いや、彼女と向き合った。


「さてと。それじゃ行きましょうかねぇ」


「行くって……どこに」


「嫌だなぁしらばくれちゃって。こんなに服があるんだから、試着室に決まってるでしょーが」


「……え、えぇー!?」


「ほらさっさと行く!」


 未来に背中を押されて否応なしに試着室へと入れられる真琴。もう、逃げ場はない。

 狭い個室の試着室に入り、真琴は未来から渡された服を持っている。再び、真琴に葛藤が湧き上がる。

 俺は男の子だぞ。こんな服、着ていいはずがないだろ! でも、今は女の子になってるし、未来の監視のためにもここで挫けるわけには……ああちくしょう!


「あああああ! もうやけだ! 着ればいいんだろ着れば!!」


 全てを観念し、真琴は女物の服に手を伸ばした。鏡に映る自分の姿を見ていると、自分が本当に女の子になってしまったことを実感する。真琴はため息をつきながら、無意識に自分が着ているセーラー服を脱いだ。

 そしてすぐに驚きの声を上げようとした……が、場所が場所なので口を手で抑えて必死に耐えぬいた。

 鏡に映っている自分が、すでに女の子の下着をはいていたのだ。服装までは耐えられた。しかし、下着すらも女の子のそれになっていることで、真琴は赤面してしまう。と同時に心の声が、自分を自制してくれる声が聞こえてくる。

 何を驚いているんだ。自分の体じゃないか。何を恥ずかしがる必要があるんだ! それに、未来の能力をコートの男にあげれば全て解決するんだ。それまでの我慢だ。

 ……そうだよ。は、恥ずかしがる必要はない。い、行くぞ俺! 行くぞ真琴!!

 意を決して、真琴は未来が選んだ服を試着することになった。

 試着の結果、未来のセンスはいいことが決定された。真琴は、目の前の自分が、とてつもなく可愛らしく映っていることに驚きを隠せないでいた。恥ずかしさのあまり、赤面している鏡の自分に変な感情を抱いてしまいそうになり、すぐに試着室のドアを開けて未来に確認を依頼する。


「ど、どうだ! 着てやったぞ」


「す、素晴らしい!! 萌え萌えじゃないか!! よくやった自分。センスいいぞ私ぃ!!」


 色の薄いあまり目立たないワンピースの上から、赤いチェックのジャケットを上半身に羽織っていた。未来はガッツポーズを取っては真琴と自分をを絶賛している。

 もう一度チラッと鏡で自分の姿を確認する。

 可愛いじゃないか。その、なんだ。しつこいようだが恥じらいのある表情もまたグッド……って何乗せられてんだよ俺は!

 ハッとして我に返った真琴は未来に話しかけた。


「おい、もういいだろ! これを買ってさっさと出ていくぞ!」


「オーケーオーケー。今日はそれでいいね」


 次もあるのかよ。次回の来訪もあることを未来の口から聞いて少し落胆をしてしまう真琴だったが、ひとまずの試練を乗り越えたことで気持ちにも余裕が出てくる。

 今回の服代は未来が奢ってくれるとのことで、真琴は先にブティックから出ていた。赤面していた真琴には涼しく気持ちのよい風がそよぐ。その風でクールダウンしながら、真琴は考えていた。

 先程からある違和感。未来はまったく能力を使う気配がなく、能力についても何も知らなさそうな動きをしている。もし、未来が能力を持っていなかったらこれまでの努力、特にブティックでの行動が全て無駄になってしまう。近々、こちらから仕掛ける必要があるかもしれない。真琴は未来と直接対決する意思を固めた。

 紙袋を持って未来がブティックから出てくる。そして、未来は自分が持っている紙袋を真琴に手渡した。


「ほれ。大事に使いなさいよ」


「こ……これには感謝する。だけどな、俺はあくまで男の子なんだからな」


「分かってるよー。だ・か・ら敢えてこんなことしてるんだよー」


「クソォ……」


「これで私の用事は終了! 他どっか行きたい所ある? 真琴ちゃん」


 これはチャンスだ。人気のない場所へ連れて行き、秘密を暴露してもらおう。真琴は未来に自分の行きたい場所を伝えた。

 自分の用事が満足できていた未来はそれに疑問を持たずに快く承諾し、黙って真琴について行った。

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