雨の中で子猫を拾うというありきたりな展開
雨。年齢が上がるごとにうっとうしさが増していき、ストレスが溜まる天気の中で、真琴と未来は並んで歩いていた。
二人とも別々の傘をさしている。会話の主導権は未来が握っており、真琴は彼女の会話になんとなく相槌を打つ程度で歩いていた。
「でさ、真琴ちゃんはどのタイプが好みなの?」
「へ? タイプ? あーそうだな……」
好きな娘のタイプに真琴は考えを過らせた。最初は表向きの顔の未来のような性格が好みな真琴だったが、最近は奏のようなクールな表情も捨てがたくなっている。だが、幼馴染は自分のせいで死んだようなものという考えが真琴の中で渦巻いているため、真琴は今まで以上に奥手になってしまっている。
結局、考えがまとまらなかった真琴は適当な返事をしてごまかすことにしたのだった。
「んー特にないなあー」
「えーつまんなーい。どのタイプのTSFも魅力的なのにさー」
「そっちかよ!」
話し相手が未来であるということを想像すれば、自ずと察することはできた。しかし、真琴は普通の人間であるから好きな娘のタイプだと勘違いしてしまった。
……真剣に考えた俺がアホだったよ。
勘違いしていたことに後悔している真琴を未来がニヤついて眺めている。ねっとりと絡みつくような視線を気にしながらも、真琴は敢えてスルーすることに決めた。
「何で無視してるのかなー? タイプって聞いて何を想像してたのかなー?」
「う、うるさいな。一般人だったら普通はそう考えるだろ」
「そう? モンスターマニアとかだったら火やはがねって答えるし、仮面ドライバーだったらスピードとかフォーミュラって言っちゃうかもよ?」
「果たしてそういくかね……」
「てかさ、聞いてなかったら、ふつーは『え? どのタイプだい、未来ちゃん?』って質問するでしょうに」
「……無視だ無視」
彼女と話していたら時間が勿体ない。真琴は真剣に話を聞くのを止めてとにかく前に進むことにした。
雨もそうだし、未来との会話も面倒くさい。早く家に帰って休もう。
真琴はぼんやりと辺りの景色を眺めながら歩いていると、気になった物を見つけた。壁際にポツンと寂しそうに捨てられているダンボール。その中から何やら声がしているのだ。
「入れ替わりも中々のシチュエーションだけど、憑依も捨てがたい……!! いやー私は幸せ者だねっ!」
未来はまったく気づいていないようで延々と自分の中のTSF美学を語っている。真琴は彼女を無視してダンボールのところへと近づいた。ダンボールはすでに雨に打たれて外装はふやけてしまっている。そのダンボールを開けると、中には小さな猫が一匹いた。
寒さで堪えているのか小さな体は震えている。未来もダンボールを覗いている真琴が気になって一緒に見てみると、愛らしい動物が目に入って思わず声を上げた。
「おおっ! 猫ちゃんじゃん」
「やっぱりそうか」
「……ハッ! まさか真琴ちゃん、この猫に虐待するんじゃないよね!? 嫌がってるのに無理矢理お風呂に連れてったり、牛さんも真っ白の飲み物を飲ませたり――」
「そうしたいのは山々何だけどな、俺の家じゃ飼えないんだよ。親がアレルギー持ちだからな」
未来は自分のボケがスルーされたことに少しだけガッカリしながらも、顔には出さずに話を続けた。
「え? 今親いないじゃん」
「急に帰ってくるんだよ、俺の親は。前に油断して猫を飼ってたら、突然帰宅してきた親に見つかって大目玉を食らった経験があるからな……。でもなぁ……」
愛くるしい瞳でこちらを見ている猫に、どうしても救いたいという気持ちが湧き上がってくる。しかし、真琴の家では飼えない。
「そうだ。未来の家じゃ無理か?」
「あー無理だね。だってすでにイヌとかハムスター飼ってるもん」
「……しゃーない。愛護センターに連れてくか。ここにいるよりはまだマシだろ」
真琴はダンボールから猫を抱き上げて雨で濡れないように胸の中に抱きしめた。
結構絵になる。未来は猫の頭を優しく撫でている真琴を見てそう思った。歩き出そうとした真琴だったが、ずっと黙って突っ立っている未来に振り向いて声をかける。
「何してんだよ。行くぞ」
「あ、うん」
愛護センターに着いた二人は保護員に事情を話し、保護員も快く保護を受け入れてくれた。
すんなりと事態が収束したことに真琴はホッと胸を撫で下ろした。
これでひとまずは大丈夫、か。後は飼い主が見つかればなあ……。
保護員の胸ですやすやと寝ている猫を見ながら、真琴は愛護センターを後にする。
それでもまだ難しい顔をしている真琴を不思議に思った未来は元気なテンションのままで話しかける。
「どうしたのさ? あれで一件落着じゃん!」
「……やっぱり俺が飼った方が良かったのか。そう思うと少し可哀想になってな」
「大丈夫だって。すぐに殺処分にはしないでしょ。最近は愛護団体もうるさくなってきてるし、あんなに可愛い猫ちゃんなら里親も見つかるって」
どんなに悔やんでも、真琴の家で飼うことはできない。未来の言葉に励まされながら、真琴は諦めることにした。
その日の夜、愛護センターでちょっとした事件が発生した。真琴と未来が預けた猫が脱走したのだ。ケージに入れていたのを保護員の些細なミスで逃してしまったのだ。状況も悪かった。雨が上がり蒸している環境で涼むために、偶然窓を開けっ放しにしていたことが脱走を確実なものとする原因になってしまった。
外に出たことで、再び猫は一匹の野生へと戻る。猫がどこへ行くのか。それは誰も知らない。何かの目的を持っているのか、猫の足取りは確かに、そして確実にどこかへと向かっていた。




