明日香と悠太の心
「まずどこから探そうか?」
「昨日、明日香のお母さんから悠太君の居場所を教えてもらった。まずはそこに行く」
昨日の別れ際、真琴は情報を入手した。しかし、それは真琴にとって辛い出来事になってしまう。それを承知で真琴は行くことを決意した。未来も彼に従って一緒に向かう。悠太が存在している場所、それは墓前だった。二人は手を合わせて拝み、少しの時間が流れる。
未来が先に手を離して真琴に語りかける。
「ねえ、この子が幼馴染の体に入ってるって思うの?」
「ああ、多分な。悠太君が交通事故を起こしてから明日香の見舞いに行った時の幼児退行……それと、神社の時に自分が遊んでもらってたような感じで話してたからな」
「じゃあ、この子の体に入ってた幼馴染の心は……」
「消滅した……だろうな」
真琴に対してどうやって返答すればいいか分からず、未来は思わず口ごもってしまう。真琴は手を離して未来に笑顔を向けた。
「明日香が悠太君を救った本当の理由は分からない。けどな、アイツは本当に心の優しい女の子だったんだ。……さてと、もう行くぞ」
「え? もう?」
「手を合わせるついでに明日香がいたら良かったけど、どうやらいないみたいだからな」
その真琴の行動が未来にとっては逃げのように感じられた。まるで、明日香の精神が死んだのは自分の責任があるとでもいうような感じが真琴の動作一つとっても見られるのだ。未来には真琴と幼馴染の関係は分からない。だからこそ、真琴の助けになってやれない自分にもどかしさを感じた。そんな複雑な感情を抱きながら、未来は先に歩き出した真琴の後を追った。
霊園の出口をくぐって、真琴はもう一度振り向いて霊園を見つめる。寂しそうな視線を感じた未来は真琴に話しかける。
「心残り……あるの?」
「……いや、行こう」
未来の声に対し、真琴は数秒黙りながらも返答して、前を向いて歩き出した。
街中を歩く二人は明日香の姿を探す。真琴が思いつくだけの場所を提案し、その場所に行く。しかし、明日香の姿を発見することはできない。歩き疲れた二人は近くのベンチに座ることにした。
ベンチにストンと座り込み、ため息をついて休息をとる未来。いつもの体とは勝手が違うのか、未来はしきりに首をかしげていた。
「どうしたんだ?」
「やっぱり、未来の体じゃ限界があるのかも。部活してる私に比べて体力が……ね」
しょうがないけどね、と言って未来は大きく背伸びをする。
この間でも真琴は休んでいられない。明日香の居場所を突き止めなければ……。ここで、真琴に疑問が生まれた。突き止めて……どうするんだ? 俺は今の明日香に何をしてられるんだ……。戦わないように説得をする? 今の暴走した彼女に説得が通じるのか?
ふと思った疑問は次第に大きく膨れ上がっていく。それに付随して不安も大きくなり、考えなくてもいいことを考え始めていく。
「どうしたの? 真琴くん」
真琴の様子を気にかけた未来が彼に声をかけるが、真琴は頭を抱えているだけで何もしゃべらない。
私じゃ、ダメなの……?
「私じゃあ……力になれないのかな?」
「え?」
「真琴くんが凄く悩んでたら、私も一緒に考えたいし、出せるものなら、答えを出したい。あの時ね、力になりたいって言ってくれて本当に嬉しかったんだよ。だから、今度は私が真琴くんを助けたい」
「でも、これは俺と明日香の……幼馴染の問題だから……」
「真琴くんと幼馴染の間にどんな過去があったかは分からないよ。だけど、話を聞いたら少しは同じ気持ちを分かち合えるかもしれない。だから話してよ真琴くん。幼馴染との過去を」
真琴の目に涙が溢れ出てくる。しかし、女の子の前で泣いてはいけないという真琴のポリシーによって、心の防波堤が作られた。涙はその防波堤によってギリギリのところを防いでいる。真琴は少し出てしまった涙を腕で拭いさり、心を落ち着かせてから幼馴染との過去を話し始めた。
「俺と明日香は、小中高ずっと一緒だった。暇な時は遊んでたし、喜びも悲しみも一緒に味わったと思う」
「仲が良かったんだね」
「……ああ。俺は友情を感じてたんだ。だけど、ある日から明日香の態度が変わった」
「もしかして……」
「様子が変わった一週間後に俺は校舎裏に呼び出された。そこで明日香は俺に向かって告白したんだ」
「そっか。今の現状をみると、告白は拒否したんだね」
真琴は未来の言葉に黙って頷いた。
「引き下がらなかったよ、明日香は。でも、その時俺は好きな人がいたんだ。……まあ、今は本性が分かっちまったからもう呆れてるんだけどな」
「じゃあ、結構最近の出来事だったんだ」
「ああ。そしてある日……俺と明日香がよく遊んでいた悠太君が事故を起こした。それから明日香は塞ぎがちになっちまって……」
その後も、未来は真琴と幼馴染の話に聞き入っていた。真琴にとって、誰かに話を聞いてもらえるだけでも救いになった。また、話しているうちに考えもまとまっていくもの。真琴は次第に自分の中の気持ちに整理をつけ始めていた。




