これからどうしよう?
やっと能力が解除されて、鎖がただの鞭へと戻った真琴は大木から降りて地面に着地した。その間にも言い合っていた未来と奏に近づいて状況を確認しようとする。
「一体全体どうしたってんだよ二人とも」
「真琴くん。端的に言えば私たち入れ替わったみたい」
「石段から転がっても、悪魔に願ったわけでも、実験好きな謎の生命体のお遊びでも、キスしたわけでもないってのに入れ替わったってこーとーはー……」
普段はまったく見せない真剣な表情で真琴に話しかける未来に、いつもは凛々しい顔つきをだらしなくさせて言葉を紡ぐ奏。これが明日香の能力なのだろうか。考えようとした真琴だったが、奏が先に能力の解説を始めたのだった。
「これはまさしく幼馴染ちゃんの『入れ替わり』能力だね。彼女は『入れ替わり』の能力で私たちの心を入れ替えたんだよ! いやー嬉しいなぁ~! まさか自分が当事者になるなんてさ!」
「奏……ちょっとは真剣に考えろよ」
「ご、ごめん真琴くん。私、ふざけてたかな?」
未来に怒ったつもりだったのに、姿が奏で心は未来だったために、逆に姿が未来で心が奏の方がしょぼんとしてしまった。
「あ、未来に……じゃなかった。奏に言ったわけじゃないんだ。俺、体の持ち主で呼んだから……」
……う、今は奏が未来で未来が奏だったのか。ああ、ややこしい……。
怒られたがまったく反省してない奏はおちゃらけた話を続けている。恐らく、入れ替わりという事象に自ら遭遇してしまったがためにテンションがうなぎのぼりになっているからだろう。
「でもさ、やっぱり男の子と女の子との入れ替わりを希望したかったね! 例えば真琴ちゃんと私の入れ替わりとかさ! これは萌えるよ絶対に!」
普段が普段なため、そんなTSF談義を楽しそうに語る奏に違和感しかない。しかし、真琴の中で何かが心惹かれた。普段見られない彼女の意外なギャップが真琴の心を打ったのかもしれない。
未来は真面目な表情を崩さずにこの状況を作った犯人……明日香について考察を始めた。真琴と自分の能力の使い方から見れば、恐らく明日香も……。自分の考えが正しいのかどうかを、奏に尋ねることにした。
「未来、あの幼馴染……すでに能力を『使ってる』と思うんだけどどう思うかな?」
「そうだね。奏ちゃんも真琴ちゃんも、能力を使用する時は必ず自分自身に能力を付加させて使ってるもんね。あながち間違いじゃないよ」
「ってことは、今の明日香は、体は明日香でも心は別人なのか?」
「多分そう。じゃなきゃ、能力が使えないはず」
じゃあ、いつから……? 真琴に衝撃が走った。明日香になりすましてた人物はどうやって明日香に成り代わったんだ。俺が昨日会った明日香からして別人だったのか?
だとすれば、昨日と今日の彼女がポニーテールじゃなかった理由が説明づく。微妙に話が噛み合っていなかったのも、別人と話していれば当然のことだ。そして、本物の明日香に真琴は伝えていた。真琴が好きな人物を……。そんな明日香が『愛を受け取ってほしい』などと言うわけがないのだ。
「真琴くん。私が感じた幼馴染なんだけど……ちょっと男の子っぽかった気がする」
「男の子? 明日香を偽ってる奴がか?」
未来はこくりと頷いて真琴に賛同する。その瞬間、奏は鼻を抑えてハァハァと呼吸をし始めた。そう、例の発作が始まったのだ。
「おお……おお! 男女入れ替わりじゃないですか! 素晴らしい……!」
「これ以上イメージが崩れるから止めて欲しいって言っても無駄か……」
一応注意をしたが、奏は話を聞いてない。とりあえず、彼女は置いておいて、真琴は未来と話を続けることにした。
「奏、どんなところが男の子っぽかった?」
「んーと……例えばね、歩き方が違ったの。女の子なら内股気味に歩くんだけど、幼馴染はあまり気にしてないようだった。それから髪の毛かな。あんまり手入れしてなさそうに見えた」
「全然気づかなかった……」
未来の姿をしている奏に真琴は感心した。心の中で決して未来に感心しているわけじゃないと呟きながら。
いつもはうるさいほど騒いでいる未来が今は大人しい。清楚というわけじゃなく、あくまでクールな感じだが、この未来はある意味で真琴の理想の彼女となっていた。
真琴は今の未来と一緒に歩いている自分の姿を想像してすぐに頭を横に振る。雑念を捨てるように、明日香の中に入っている人物を推理した真琴だったが、最悪の場合を思いついてしまった。
まさか、明日香の中に入ってるのが悠太君だったら……。
昨日の明日香との会話を思い出す。
悠太君はどうなったって言ってた? あいつは。確か、死んだって言ってなかったか? いや、そんなはずはない。あいつの言ったことは嘘だ!
心臓の鼓動が早くなる真琴だったが、心を落ち着かせるために単なる妄想だと決め付ける。
「真琴くん。幼馴染をどうするの?」
「……出来れば説得したいさ。だけどどうしてもってなら……いや、やっぱりできない」
見知らぬ男性が明日香の体を乗っ取っているならば戦意が湧いてくる。だが、もし悠太君が明日香の中に入っているとしたら……。先の交通事故で二人の間に何かがあったということになる。そして、それは明日香の心が二度と帰ってこない事実が待ち受ける。
表情が段々硬くなっていく真琴に対して、未来は心配そうな表情をして彼に呼びかけた。真琴は心配させまいと、未来に向かって笑顔を見せた。
しかし、その笑顔さえも未来にとっては苦しげに見えてしまった。
「とりあえず、だ。今日は各自帰ろう」
「そうだね。そうするしかないか。未来、こっち来なさい」
「ほえ? どしたの」
「お互いの家の情報交換するの。『私』の方は家族とも上手くいってないし黙ってれば問題ないけど、『未来』には家族がいるんでしょう?」
「上手くいってないって……ちょっと寂しいね……」
「しょうがないでしょ。お父さん……は今は行方不明になってるけど、お母さんも私のこと嫌いなんだから」
「まあいいか。今日は私の家族で癒されてきなよ」
「……未来」
「本物の家族愛ってのを体験してきなー」
「……うん、ありがとう」
今日は何とかなりそうだな。未来と奏の会話を聞きながら、真琴はほっと胸をなでおろした。




