表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第二章 前半
43/156

記憶の暴走と奏の油断

 未来と奏の二人が尾行していることも露知らず、真琴は明日香と一緒に神社へ向かっていた。かつては赤い彩りが景色を映えさせていた鳥居も、雨風に吹かれて錆びれてしまい、塗装が剥がれおちてしまっている。その鳥居をくぐれば灰色の石器でできた灯篭が迎え入れ、石の床を歩きながらまっすぐ進む。

 真琴は境内に座り込み、明日香はこの場所の懐かしさに目を輝かせていた。


「懐かしいね真琴。ここ、遊び場だったよね」


「ああ。ここなら多分、秘密の話でも誰にも気づかれないだろうと思ってな」


「よく遊んでもらってたっけ……」


「え? 俺たちが悠太君と遊んでたんだろ?」


「あ、そっか。間違えちゃった」


 その様子を奏と未来の二人は草むらに隠れて隙を伺っている。まるでテレビの司会のごとく、未来はノリノリで奏にこの状況をヒソヒソ声にて伝えた。


「なんと衝撃の事実! 真琴ちゃんと幼馴染ちゃんはこの神社で愛を育んでいたようです! 奏さん、これについてどう思いますか?」


「死ねばいいと思う」


「はい。物騒な答えが返ってきましたねー。引き続き、この状況を見守っていきたいと思いまーす」


 真琴は深刻そうな表情をして、明日香に尋ねることにした。昨日の父の言った事実を。

「明日香……聞きたいことがある」


「こんなところにまで呼び出してってことは、相当なんだろうね。何?」


「小さいときにさ、俺はお前のお婿さんになるって言ったのか?」


「……うん」


 出来れば、真琴は否定の言葉が欲しかった。しかし現実は非情にもYesを叩きつけたのだった。奏を説得できる可能性がなくなった。真琴はその事実に落胆し、頭をガックリと下げた。


「そっか……」


「でもね、忘れてない……よ。わ……わた……ぅ」


 明日香は突然頭を抱えて苦しみだした。目を瞑ってしゃがみ、頭痛に悶えていることから相当の痛みを堪えているのだろうと真琴は思った。

 彼女を助けるべく、真琴は立ち上がって彼女の元へと行く。だが、頭痛の際に何をすればいいか分からず、彼は明日香の背中を摩ることしかできない。

 だが、明日香は頭から手を離すとゆっくりと立ち上がった。


「真琴……。真琴は私のことが好き?」


「何を言い出すんだお前は」


「私はね……とっても大好き。だからさ……私の愛を受け取ってほしいんだ」


 奏はその光景を見て、危機感を覚えた。自分の真琴が盗られる、そういう意味では決してなかった。奏は立ち上がった明日香の目を見て、明日香は真琴を攻撃する意思を見せていると気づいたのだ。奏は茂みから出ていき、真琴と明日香の前に現れた。


「止めなさい、そこの幼馴染……!」


「ゲェ!? か、奏! お前何でここに――」


「真琴くん、そんなことはどうでもいいわ。それより幼馴染から今すぐ離れて」


「え? 離れるってどういうことだよ」


「あなた……真琴の何なの?」


 明らかに不快そうに呟いた明日香に、奏は皮肉を交えながら自分の名前を教えた。


「真琴くんの恋人候補の奏よ。よろしくね、幼馴染さん」


「んでもって、私は女体化した真琴ちゃんの恋人の未来よ。候補じゃないわ。そこんところ、覚えておきなさい」


 いつの間にか、奏の隣にはポーズを決めた未来が立っていた。まるでパリコレにでも出演するのかという程の気取ったポーズでカッコつけながら、先ほどの奏の言葉をアレンジするかのように自己紹介をした。

 どんな雰囲気でも全て自分のテンションで一定へと持っていく未来のポテンシャルの高さに呆れながらも少し羨ましいと思ってしまう奏だった。

 その瞬間、真琴の目の前に赤い鞭が視界に入った。鞭は真琴の頬を叩き、真琴は地面に転がってしまった。立ち直った真琴はすぐに叩きつけられた頬を触る。手には赤い血がついていた。

 明日香は呆然としている真琴に笑顔を向けた。


「私がいるのに、別の子に手を出すんだ……ダメだよ真琴。真琴のことは私が一番良く知ってるんだから」


「ヤンデレが二人に増えた件についてー……。奏ちゃん、キャラが被っちゃってるよ!」


「私はヤンデレじゃない!」


 今はそんなギャグを挟んでいる暇はない。にも関わらず、未来のテンションに合わせてしまう自分が情けないと奏は感じた。すぐさま真琴を守るために彼の前に立ち、変身をする。奏の華奢な体は男の子らしくがっちりとし、人相も奏とは全くの別人へと変化する。セーラー服も、スラックスとYシャツという普通の男子学生のそれと同じくなった。


「面白いね。性別が変わるんだ」


「性別だけじゃない。姿も変わってる」


 明日香の持っている赤い鞭。それが自分と真琴が持っている能力だと確信した奏は明らかに戦う意思を見せている。

『なるべくなら戦いたくない』

 真琴と同じ意見だとあの時は言った。だけど、こうして間近で能力者を見ると、どうしても戦わなければならないのかもしれない。できるならば話し合いで解決したいが、明日香の自分を見つめている冷め切った瞳からは無理だろう。

 奏は地面にあった石ころを拾って真剣へと変化させる。しかし、明日香を切断する気は毛頭ない。真琴の時と同じように峰打ちで済ませるつもりだ。峰打ちでも怪我をするということは奏も理解している。だが、ある程度の脅しに真剣は有効だと思っていた。

 明日香の能力が分からない今の状態では距離をとって戦うしかない。奏は明日香と一定の距離を保ちながら話しかけた。


「あなたは能力者なの?」


「どうだろうねぇ。あなたはどう思う?」


「質問を質問で返すなんて、感心しないわね」


「ウフフ……そっか。真琴を苦しめてるのはあなたなんだね。じゃあ……真琴から取り除いてあげなくちゃあねぇ!!」


 明日香は赤い鞭を地面に叩き付けてから奏に向かって振り回した。奏は鞭の動きを見て回避しようとしたが、鞭の一歩遅れで襲い掛かってくる動きを読みきれない。剣道経験者で戦いにもある程度熟知しているにも関わらず、いとも簡単に胴体に鞭を受けてしまった。

 鞭の独特な動きに慣れていない奏は、今の戦いは不利であると言える。

 何より、鞭が振るわれた際に鳴る風を切る音が奏の恐怖心を煽っていた。

 そんなことはいざ知らず、未来は動きが鈍い奏に疑問を持ち彼女を注意する。


「奏ちゃん! どーしたの!?」


「う……うるさい。ちょっと油断しただけ……!」


「ふーん、じゃあ次は貫いちゃうよ」


 明日香は再び鞭を無茶苦茶に振りまくる。上下左右にまるで生き物のようにうねりを見せる鞭。

 奏は神経を研ぎ澄ませて鞭の動きを一つ一つ監視する。

 平静を保てば、どんな攻撃だって見きれるはず。『隙』は自分の慢心から生まれる。いつでも平常心を忘れないことを私は剣道で学んだんだから。


「――そこっ!」


 鞭が自分に向かってきた一瞬を見切り、奏は右に回避した。回避できたことが彼女の心を乱してしまった。彼女にその意思がなかろうと、恐怖心から逃れるために無意識に体が求めた。勝機が見えたと思ってしまった奏はほんの少しだけ力を緩めてしまったのだ。

 それが明日香の追撃を可能にさせた。一度外れてもすぐに軌道を修正できた赤い鞭は避けた奏に向かうために曲がってきた。


「……え?」


 奏は自分の体が貫かれたことに気づくのに時間が必要だった。自分が剣を落として、地面につくまでの間で奏はようやく自分の身に起きた事態を理解した。

 しかし、奏はおかしいと感じた。不思議と痛みを感じない。それどころか、眠気が襲ってきたのだ。

 自分から何かが吸い取られる感覚が何故か気持ちいいと感じてしまう。相反する感情に疑問を抱きながら、奏は瞳を閉じて意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ