未来乱入!
真琴と奏が怪物と戦っている間、時を同じくして未来は真琴を探していた。自分の担当時間が終わり、真琴と一緒に行動しようと思っていたのだった。未来はまず最初に学校内を探りを入れた。真琴のクラスへ行っても、もう仕事が終わったといった情報しかつかめなく、仕方なく未来は学校中を探したのだった。しかし、その苦労は徒労に終わった。次に未来が探したのは学校外で、今真琴と奏が戦っている場所だった。
すでに我慢の限界を超えている未来は、舌を出してうねうねと動かし、眼は怪しく光り、呼吸も乱れている。こんな姿をクラスメートが見たら発狂してしまうかもしれない。
「フシュルルルル……ど~こ~だぁ~」
あり得ないスピードで首を動かして左右の景色を監視する未来。常人ならば景色が全て横線になるくらい首を動かしている。その動きの中で、未来は普通に真琴と奏、二人の姿を発見した。
その瞬間、未来の唇は釣り上がり、顔つきは醜悪さを増していく。そのまま駈け出して、未来は二人の元へ近づいていった。二人はすでに油断していて、未来の気配に気づけない。
「私抜きでテメーら何やってんのよー!」
未来は飛び上がり、奏に向かってドロップキックをした。真琴には攻撃しなかった。可愛かったから。
すっかり安心しきってしまっている奏は真琴とのおしゃべりに夢中になっている時に、未来のドロップキックを腹部にまともに受け止めてしまった。
「ぐふぅ!?」
奏は腹部を抑えてうずくまり、その場で悶絶した。時折痛みを訴えるような苦痛の声を出している。
真琴は地面から立ち上がった未来に対して呆れつつも怒った。
「何やってんだよお前は!」
「二人がイチャイチャしてるのが気に入らない! だからキックをした!」
「お前だって公認してたじゃねーかよ!」
「女の子の姿の時は私の真琴ちゃんだ!」
「知るか! てか俺はお前のじゃねぇ!」
未来に怒るのをさっさと切り上げて、真琴はうずくまっている奏に近づいた。一緒にしゃがんで様子を伺う真琴は、奏に声をかけた。
「大丈夫か奏? ……立てるか?」
真琴は奏と一緒に保健室へ向かい、彼女の手当てをしてもらおうと思っていた。しかし、奏から聞こえてきた言葉は未来に対しての恨みと辛みだった。
「……さない」
「え?」
「許さない! 未来ぃ!!」
「あ……あれあれー? もしかして、怒ってる?」
奏は変身して男性の姿になる。そして、地面に生えてた雑草をむしって、木刀を生成させた。
さすがに身の危険を感じたのか、未来は額に冷や汗をかきながら懸命に奏の怒りを収めようとする。
「ま、待って! そんな木刀で私を殴ったら傷害罪になるよ! ここはひとまずお互い水に流すということで――」
「んなの関係ないわ! だったらドロップキックすんな!」
「……ヤバいやつ?」
奏はこのまま未来に向かって木刀を振るうはずだった。しかし、最悪のタイミングで思い出してしまったのだ。
記憶を喪失していた時に起こっていた事を。
「そういえば未来。……アンタ、私からお金を騙し取ったよねぇ!!」
「げぇ! そ、それは何のことカナー? 私にはさっぱり――」
「しらばっくれてんじゃねー!」
「ひええ! 助けて真琴ちゃーん!!」
「……自業自得ってやつだ。それは」
必死に逃げる未来とそれを追う奏。
いずれ能力がなくなった時、この記憶も消えてなくなるのだろうか。
真琴は、この平和ではないが充実している時を少しでも永らえてくれるよう、神に祈った。




