表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第一章
3/156

身体の確認と謎の男

 公園の茂みから逃げた真琴の向かう先は、公園のトイレだった。真琴は迷いなく男子トイレに向かい、個室に入り込んで鍵をかけた。誰もいなかったのが幸なのか、それとも不幸だったのか……。とにかく、誰とも出会わずに個室に入れたことに真琴は安心した。

 改めて自分の体を観察する。

 下半身、触る、ない。

 胸、触る、感じる。

 ……ヤバい。

 自分の中の結論が真実味を増してしまった瞬間だった。真琴は思わず頭を抱え込んでしゃがんだ。その時にも、違和感をもってしまう。自分の腕にかかる髪の毛がいつもより長いのだ。短髪の真琴は、頭を抱えた際に腕に髪の毛がつくことはあり得ない。しかし、今はそれがあり得てしまう。

 いつからだ? いつから俺はこんなことになってしまった。

 必死に先ほどまでの事象を思い出す真琴。ふと、光の玉を吸収した時のことを思い出した。あの後に、生徒会長は男になったんだった……。すると、何かが生徒会長から受け継がれた……?


「じゃあ、あの時から俺は……」


 自分で聞けないが、恐らくかわいい声で絶望しているのだろう。真琴の声は、すでに女の子のそれとなってしまっている。

 まさか、ずっとこのまま女の子になってしまうんじゃあ……。それだとマズイ! 父さんや母さんにはなんて説明すればいいんだよ! いやあ、苦節十六年、おかげさまで立派な女の子になれました! ……ふざけるなだ! このまま一旦家に帰った方がいいか? いやそれはダメだ! ああ、どうすれば……

 不安が真琴の脳内によぎり、焦り始める。そして、心の中で必死に願った。

 元に戻れますように……! 戻れますように……!!

 真琴の願いが神に通じたのか、真琴の体が光り輝くと、体は元の男のものへと戻っていた。学生服も女子用から男子用へと戻っている。


「も……戻ったぁ……」


 ひとまず、一生女の子の姿になることは阻止できたことで真琴は地面にへたれこんだ。魂が抜き出るかのように深く長く息を吐いて、自分の気持ちを落ち着かせる。

 長い時間トイレにこもって気持ちを平静に戻した真琴。しかし、次なる問題が出てきた。それは、真琴に起こった欲望だった。

 もし、願うことで女子に成れるとすれば、未来と付き合うことができるかもしれない。彼女は女体化が好きと言っていた。ならば、今の状況はむしろ自分にとっては好機なのではないか。

 先ほどまで焦っていたにも関わらず、こんな欲望が出てしまう自分に苦笑しながらも、真琴は立ち上がって女の子の体になれるよう願った。

 またしても光に包まれて、真琴は女性の姿になる。

 戻れ……。

 真琴は男性の姿になる。

 変身……。

 真琴は女性の姿になる。


「本物だ……。本物の魔法だ」


 さ、触るのか? 自分の胸部にある二つの頂きを。欲望に負けそうになった真琴は手のひらを胸元へ引き寄せる。だが、即座に両手で拳を作ってドアに叩きつけた。


「バッ……カ! 自分の体だぞこの野郎! さささささささ触っても何の意味もないだろうが!」


 荒くなった呼吸を必死に正しつつ、元の男の姿に戻った。とりあえず、これで大丈夫だ。

 問題はこの謎の力を使って未来に再度告白をするかどうかということだ。だが、真琴にとっては最初から考える必要のないことだった。


「そうだよ。最初から答えは決まってる。俺は何を悩んでいたんだ……」


 決意を固めた真琴はドアを開けてトイレから出て行く。

 そんな真琴の様子をトイレの外から伺っていた中年の男性が一人いた。古ぼけたコートをはおり、帽子で暗くして人相を分かりにくくしている。彼は時代遅れとなってしまったタバコを口に加えていた。タバコの先から出る煙は風向きの影響から男性から遠ざかり、まるで真琴を追うかのように進んでいる。男性は物思いに耽るかのようにタバコを手放し、口内に充満した煙を空へ出す。どこかのドラマのように、一つ一つ丁寧に動作をしながら。


「転換―トランス―は別の人間を主に選んだ、か」


 男性の後ろから女性が歩いてくる。その女性は男性よりは若いがすでに大人の雰囲気を醸し出していた。スーツに身をまとった女性は男性と肩を並べると、二人にしか聞こえないくらいの声量で話し始めた。


「彼には能力を使いこなせなかった、ということ?」


「前任者はそういうことになるな。良くも悪くも真面目すぎたんだろうさ」


「新しい人間は使いこなせるの?」


「どうだかな。だがしかし、かわいい反応はしていたよ。あの初々しさが堪らないね。今日はコイツで決まりだ」


 顎に生えた無精髭を手で触りながら、笑みを浮かべた男性はタバコを地面に捨てて足で火元を消した。

 女性は彼のタバコの始末について不快感を持ちながらも、言わなかった。何度注意しても、すでに無駄なのだ。ある程度の年齢に到達してしまった人間は、自分の価値観を曲げない。これが女性の持論だからこそ、諦めていたのだった。

 男性はすでに遠くへ行ってしまった真琴を見ようと目を細めてみたが、男性に捉えられる視界には真琴はもういない。男性は悔しそうにため息をついた。


「しかし惜しかった。これでまた振り出しに戻ってしまったな」


「この街には転換―トランス―を含めて二つの力があるようだけど、このまま巡り合わなかったらどうするつもり?」


「巡るさ。TSFに魅入られた者は運命から逃れることはできない。最後の一つが決まるまでは、な」


 男性はそこまで言うと、女性から離れ、歩き出した。


「さてと、長い間ここにいたからね。そろそろ善良な市民様が不審者として通報するだろう。君もさっさと退散した方が身のためだよ」


「私は問題ないわ。女性だから」


「なるほど。男性に対してのみ酷い差別がある国。それがこの国というわけか」


「あなたの視野が狭いだけ。他はもっと酷い国だってあるけど?」


「フッ……確かにそうかもしれないな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ