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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第一章
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蘇る記憶、生まれる愛情

 誰も知らないビルの地下室。うすら寒く、光さえ嫌うこの場所に男性は逃げてきた。

 男性は壁に寄り掛かるとタバコを取り出して火をつけた。震える手でタバコを口に運び、思い切り煙を吸う。

 そんな男性に一人の影が近づいてきていた。男性にとって顔見知りのその人物は、男性にため息をついた。


「あらあら。負けたの」


「彼の能力の成長が早かった。すでにあの領域にまで到達していたとは――」


 男性が顔を上げると、一人の女性が立っていた。スーツ姿のその女性は、先ほど真琴と出会っていた女性と同じだった。

 女性は男性に向けて拳銃を取りだし、照準を男性の顔に合わせた。


「本物よ。あの子にはおもちゃって伝えたけどね」


「あの子……? そうか、彼を一段階上げてきたのは君だったのか」


「味方だと思ってた? だったら残念」


「あの日から同志だと思っていたが、うすうすは気づいていた。タバコの捨て方に不満を持ってた時からな。……どちらにせよ、私は結局一人だったということか」


「アサーショナーはあなたを危険分子だと断定。私に抹殺を命じてきたわ。まずかったのは能力の入手ね。ただのストーカーならまだ良かったのに」


「……彼は戦わないぞ。能力を持ったあの娘を守ると言っているのだからな」


「それはこれから考えるわ。すでに彼は段階を一つ上げたし。いずれ彼も戦いを求めるようになる」


「それを見届けられないのは残念だ。……月並みだが、私を助けてはくれないか?」


 助けてくれるわけがない。そう思いながらも男性は命乞いをしてしまう自分が面白く感じて失笑してしまった。男性の目論見通り、女性は男性の額に銃口を当てて助ける気はまったくない。


「彼の代わりに、私が殺すのよ。汚い仕事は大人の役目でしょう」


「ああ。そうだな」


 女性は拳銃の引き金を引く。誰も近寄らない地下の施設に、乾いた音が鳴り響いた。その音の反響が終わったと同時に、男性は頭を地面につけた。




 未来は奏を連れて学校から出て行っていた。外はすでに暗闇が支配し、小さな外灯が明かりを灯している。

 未来は、本当ならば真琴が来るまで学校で待つつもりだった。しかし、保健の先生に注意され、しぶしぶ帰ることにしたのだった。奏は未来と一緒に帰ることに喜び、積極的に未来に話しかけている。

 それにうっとおしいとは感じなかったが、記憶が戻った時の末恐ろしさに、未来は内心恐れている。


「あーあ、早く来ないかな、真琴ちゃん……」


「真琴……ちゃん? 誰ですかその人は」


 一瞬だけ迷ってしまった。だが、未来はその想いを無視して彼女に伝えた。


「誰って……奏ちゃんのことが好きな男の子」


「え……。私が……男の人を……好きに?」


 未来の発言に衝撃を受けた奏は思わず面食らった。自分の言葉を確かめるように、一言一言丁寧に発言する。

 それをフォローするように、未来は奏を安心させる言葉を吐いた。


「ああ、それは大丈夫よ。あなたは全然気にしてなかったから」


「そ、そうだったんですか……良かった」


 話も一段落した頃、一人の人影が未来たちに近づいてきていた。それは奏の能力を奪った男性と戦い、取り戻してきた真琴の勇姿だった。満身創痍になりながらも、一歩一歩確実に歩んで決して立ち止まらない。

 未来はそんな彼の姿に安心し、それから奏の手を引いて真琴に近づいていった。

 やっとのことで未来たちの姿を認識した真琴は疲れきった笑顔になりながら、前のめりに倒れそうになる。


「おっと、大丈夫かな真琴ちゃん」


 倒れないように、真琴を抱き寄せる未来。今の彼女はまさしく真琴の想像していた彼女であった。

 奏はボロボロになっている真琴を不思議そうに眺めている。まるで、赤の他人、対岸の火事とでもいうように。真琴は薄れゆく意識の中で変身の能力を手放す。手のひらから出てくる光の球。真琴は最後の力を振り絞ってその光を奏に受け渡した。

 勝手に自分の中に吸い込まれていく光に怯える奏。しかし、光の球が全て奏の中に入りきると、何かを思い出したように目を丸くさせた。


「私、何を……」


「記憶……戻りましたか?」


「ま……真琴くん」


「よか……」


 最後まで言えず、真琴は深い眠りについてしまった。好きでもない人間の胸の中ですやすやと寝息をたてている真琴に対して、呑気な奴だと呆れる未来。

 次々と記憶が蘇るに従って奏の瞳が震えていく。そして、涙の滴が流れ落ち始めていった。


「そんな……どうして……私なんかのために……」


「そりゃ決まってんじゃない。アンタのことが好きなのよ。真琴ちゃんって」


「未来……」


 真琴との記憶が思い出される。真琴が言った、あのセリフが奏に蘇ってきた。


『俺が奏さんを愛します……親の分までいやそれ以上に。それで、絶対に守ってみせます。だから笑顔を見せてくださいよ。始めて会った時……俺が女の子に変身してた時に向けてくれた、あの笑顔を』


『勝手なこと言わないでよ。別に同情されたいから過去を話したわけじゃないの! あなたが戦いに勝利したから、仕方なく言ったのよ! あなたに私の気持ちが分かってたまるもんですか! 男のくせに!!』


『正直に言って、奏さんがどれほどの時間を悲しんだかは分かりません。だけど、俺は話を聞いて、奏さんの力になりたいと思った! それは本当です!』


 真琴のセリフの意味を理解した奏は思わず顔を赤くさせる。今にして思えば、とんでもなく恥ずかしいセリフを吐いたものだと未来は思った。

 でも何でだろう。嫌って気はしない……こんなの始めて。

 未来は真琴に対して今まで男の子に向けたことのない新たな感情を持ち始めていた。恐怖でもなく、憧れでもないその不確かな感情が未来を幸せな気持ちに運んでいく。


「って記憶が戻ったら呼び捨てになるのね。ちょっとがっかり」


 未来が奏に対してジト目で自分の意見を言う。未来のセリフは時間がそれほど経っていないことの証明であった。こんなにも短い時間で色々考えてしまったのかと奏は驚いてしまう。


「当たり前でしょ。何で未来に敬語を話さなきゃいけないのよ」


「えー、だってさっき敬語だったじゃん! あの時のように『どーも、未来サン。奏ちゃんです』って言ってもいいんだよ?」


「そんなこと言った覚えはないんだけど。っていうか――」


 言うが早いか、奏は未来の胸で眠っている真琴を奪い取り、自分の胸の中にうずめさせた。

 少し顔をにやけさせてしまっている奏をからかうように、未来は声のトーンを一つ上げて口を開く。


「ほー、愛情が芽生たんですかぁー? 奏さんよー」


「真琴くんは私のためにこんなになって戦ってくれたのよ。今日は私が彼を送っていく」


「……真琴ちゃんの家、知らないくせに」


「う……」


 何も言い返せない奏をケラケラ笑い、未来は真琴の頬を叩いて彼を目覚めさせた。

 突然の痛みで目が覚めた真琴は、周りに敵がいるものだと勘違いし、飛び起きて首をしきりに動かして敵の姿を寝ぼけ眼で探す。


「おいこのねぼすけ。何を探してるのよ」


「未来! 今敵が俺の頬をぶっ叩いたんだ! 敵は近くにいるかもしれない。だから――」


「私が起こしたの。お分かり?」


「何……?」


 真琴は目をゴシゴシさせてもう一度辺りを見回す。しかし、敵という敵は見当たらず、奏が心配そうに眺めている顔と未来の呆れきった顔が見えるだけだった。

 そこでやっと状況が理解できた真琴は自分に呆れるようにため息をついた。


「何だよ、焦ったじゃねーか」


「真琴くん」


「み、未来さん……!」


 さらに、自分の状況を理解する真琴。今、彼は奏に抱きつかれているのだ。それは真琴にとって願ってもないこと。真琴は思わず未来のように鼻に手を当てた。


「ありがとうね、真琴くん。本当に私のために能力を取り戻してきてくれたんだ……」


「力になるって言いましたから。このくらい当然ですよ」


「あーあ!! いい雰囲気になっちゃってさぁもう!」


 未来は二人から離れて、文句を大声で放つ。


「言っておくけどね奏ちゃん。男の子の真琴ちゃんは譲ってやろう。しっかーし! 女の子の真琴ちゃんは私が手に入れるんだからねっ!! そこんとこ忘れないでよねっ!!」


 ポカーンとしている真琴と奏を放って、未来はあさっての方向へと走り去ってしまったのだった。

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