リターンマッチ
次の日、真琴は朝から奏の捜索を開始した。今までに捜査に協力してくれた剣道部員から聞けば、奏の居場所は簡単に割り出せる。奏の所属するクラスへと向かって、奏を探す真琴。まだ登校していないのか、彼女の姿はなかった。仕方なく、真琴は彼女が来るまで教室の外で待つことにした。
奏は朝礼が始まる十分前に来た。剣道道具を背中に抱えて来た奏に、真琴は話しかける。今の真琴は、奏と会話をするために女の子の姿になっていた。
「奏さん、待ってました」
「真琴ちゃん……。やっぱり、ここにいるうちは出会う宿命なんだね」
「俺はあなたに話があって来たんです」
「ごめんなさい。真琴ちゃんに話すことはないわ」
それだけを言って、奏は教室へ入ろうとする。だが、真琴は引き止めるために彼女の腕を掴んだ。
「聞かせて下さい。奏さんの過去を。多分、俺、話を聞いてもあなたの悲しみを十分の一も分かってあげることができないかもしれません。だけど、話してくれないと何も始まらないじゃないですか」
「……分かったわ。だけど、一つ条件がある。私と戦って勝てたら教えてあげる。それでいいなら」
奏は負ける気はない。というよりも、この前真琴と戦い、追い詰めた実績が彼女にこの条件を出すきっかけを作った。
一度勝った相手に負けるはずがない。それも、この前の戦いを見る限り相手は初心者丸出しだった。剣道をしている私なら、余裕でまた勝てるわ。
奏は不敵な笑みを浮かべて真琴を挑発した。
時間が経ち、放課後になる。真琴と奏は武道場にいた。中から鍵をかけた武道場には、真琴と奏の二人しかいない。真琴は未来を呼ぼうとしたが、真面目な雰囲気を壊されそうな予感がしたので呼ばなかった。
奏はまだ女の子の姿だった。セーラー服を着て竹刀を持っている姿は、真琴の目には新鮮に映った。
女の子になっている真琴はすでに銃を本物に変化させている。だが、当てる気はない。あくまで脅しに使うことを真琴は決意していた。
奏は竹刀を真琴に向けて牽制する。
「さて、あなたの勝利条件だけど……私の顔に傷をつければ勝ちとするわ」
「え? でも、奏さんは女の子だし、顔を傷つけるのは……」
「あなたも女の子でしょうに! それに、そういう配慮がいらないんだよ!!」
奏は男性の姿に変身して、真琴に襲い掛かってくる。それと同時に、竹刀の姿が真剣に変化する。
元の姿からは考えられない、キツイ目と凛々しい顔つきの男性。それが今の奏だった。彼女の面影はまったくない。
気づかないわけだ……。
真琴はしみじみ思いつつ懐から木の棒を取り出した。真琴が手に握ると、木の棒は鉄パイプへと転換した。
ここで奏とつばぜり合いしては、経験の少ない真琴がやられるのは確実だった。真琴は一定の距離を保つことをまず念頭に置く。そして、短い隙を狙って攻撃する作戦だった。
奏が剣を振り下ろしても、真琴は必死になって避け、そして距離を離す。それを逃げだと理解した奏は真琴を挑発した。
「おいおいどうした? 逃げるのか?」
「……正面向かって戦っても負ける。だから、こうやって逃げてるんです」
「あなたなりに作戦を考えてたってこと。でもね!」
奏は立ち止まり、深呼吸をする。そして、今度はすり足を駆使して真琴に向かってきたのだ。
余計な動きがなく迫ってくる敵。いつ攻撃してくるか奏の動きを見ただけでは分からない恐怖が真琴を襲った。先ほどの走りよりも速度が上がっている奏のすり足にどう対応すればいいか、真琴は考える。
……こうなったら、卑怯だけど後ろから攻撃すれば!
作戦を決めた真琴は奏の攻撃を見極めるために目に力を入れて奏を見た。
奇声と共に奏が突いた剣が真琴を襲う。だが、間一髪で真琴は回避することに成功した。奇跡だと真琴は思った。すぐさま、真琴は後ろに回りこんで片手に持った鉄パイプを奏の体に叩き込もうと振るう。
「決まった!」
「まだだよ!」
先に攻撃をしたにも関わらず、奏はすぐに振り向いて真琴に剣を横に振った。剣は真琴の横っ腹に当たり、真琴は声にならないうめき声を出した。激痛に耐えながら、再び奏と距離をとる真琴。奏は不敵な笑みで真琴をあざ笑う。
「分かった? あなたが勝てる確率なんてたかが知れてるんだよ」
「……だけど俺は諦めませんよ。最後の最後まで、隙を見つけて叩き込んでやります」
「やれるものならやってみろよ!」
決して諦めずに真っ直ぐ自分を見る真琴に、奏は苛立ちと焦りを覚えた。頭では分かっている。剣道に必要なのは冷静な心と攻撃の見極め。だが、真琴の信念に奏が押されつつあった。それでも奏は真琴に勝つために、すり足を始めた。
距離が一気に詰められる真琴は、昨日から考えていた作戦を実行に移す。それは一度しか使えない限定の作戦。ここで、真琴は逃げずに奏に立ち向かっていき、奏が振り下ろした剣を受け止めるために鉄パイプで受け止めようとした。しかし、真琴の鉄パイプは奏の剣によっていとも簡単に弾かれてしまう。自分の手から離れた鉄パイプに、真琴はすでに気に留めていない。真っ直ぐ、奏の懐に飛び込んだ。
「――っ!」
「これも俺の力なんだ!」
ここにきて、真琴は変身を解除した。光に包まれ、真琴は一瞬にして男の子に戻る。自分の目の前で予期しない出来事が起こった奏は目を見開いて声を上げた。
「いっけえええええええ!」
真琴は右手で拳を作って、ぐいっと右腕を後ろに引く。それから、思い切り前へと突き出した。真琴の右拳は奏の左頬にめり込み、奏は体勢を崩して床に叩きつけられた。
「か……勝ったんだ。これで、奏さんから話が聞けるんだよな……」
「まさか……真琴ちゃんがあの時に会った男の子だったなんてね。……あなたも私を騙してたんだね」
「女の子に変身できること。これが俺の能力ですから」
負けを認めたのか、床に倒れた奏は抵抗せずにただ自傷するかのような心に突き刺さるような笑い声を武道場に響かせていた。




