決意
奏は前にいる未来と後ろにいる真琴を交互に見比べて、そのどちらにも対応できるように二人から離れて中間に立った。その手には竹刀が握られている。
奏では珍しいセーラー服を着ている姿に真琴は新鮮さを感じた。
「やっぱりあなただったんですね、奏さん」
「騙してたわけじゃないの。ごめんね真琴ちゃん」
「でも、どうして奏さんみたいな人がそんな真似をしたんですか……!」
「多分、真琴ちゃんじゃ分からないと思う。私の苦労は」
「苦労……?」
奏は再び変身し、男性の姿になる。それと同時に、奏の服装は男の子用の制服に、竹刀は真剣に変化していた。奏は真琴に剣先を向ける。それは奏が真琴との関係を断ち切った瞬間だった。
「あなたも能力者なのね。何者かは分からないけど、私は負けるわけにはいかない。この力、失いたくないの」
「奏さん……!」
奏は真琴に向かって剣を振るう。今回は距離も空いていたことから、真琴はぎりぎりで回避して尻餅をついて倒れてしまう。しかし、これは奏の作戦だったのだ。逃げ道が確保できた奏はそこから走りだす。
地面に倒れた真琴は自分を横切る奏を眺めることしかできない。
体育倉庫に残されたのは、未来と女の子になっている真琴のみとなってしまった。
「逃げちゃったね」
「ああ……」
「やっぱりショックだった?」
「当たり前だろ……」
「で、どうすんの? 戦っちゃうの?」
そんなの決まっている。
真琴の決意は固い。
「……俺は奏さんを救いたい。悩みがあるなら、それを解決してやりたい。数日間の仲だけど、その、間近で可愛い笑顔の女の子と会ったのは、始めてだから……」
「ほーう、私の笑顔は可愛くないと?」
「だって、お前は裏の顔が最悪じゃねーか」
「ふむ……確かに一理あるか」
「おい」
未来は何故か納得して頷いてしまっている。
いい雰囲気だが、こんなところで時間を消費している場合ではない。真琴は奏を助ける手段を考えなければならない。
真琴がそろそろ体育倉庫を出ようと未来に声をかけようとした時、体育館より大勢の忙しない足音が真琴たちに聞こえてきた。
真琴が耳を澄ましてみると、足音と同時に気合を入れている声も聞こえてくるのが分かった。その足音は体育倉庫へと近づいてきている。
「未来さん!! ご無事ですかーっ!!」
「はっ!? ちょ――」
一人の男が体育倉庫へと侵入し、それから次々とクラスメートが入ってくる。まるで雪崩のようにドバドバ入ってきた人たちに押されて、真琴は下敷きになってしまった。そんな真琴のことなど誰も気に留めず、クラスメート全員は未来の元へと集結した。
「未来ちゃん、真琴って人に襲われたって本当!?」
「え!? 私が聞いた話だと、真琴って人が襲われるとか何とか言ってうちらの教室を飛び出したとか何とか……」
「いや、それはありえない! 女の子の真琴ちゃんなら信じるが、男の子の真琴って奴は信じられん! 何故なら可愛くないからだ!」
クラスメート各位、それぞれ思い思いの能書きを垂れているが、下敷きにされている真琴には全て関係ないことだった。それよりも、早くこの状況から抜けだしたいという気持ちでいっぱいになっていた。
目をパチクリさせながら、表の顔で対処している未来には地面で寝そべってクラスメートに踏まれている真琴の姿が見える。だが、この状況で言えることではないため敢えてスルーをしている。とりあえず、クラスメートを安心させるために未来は笑顔で応えた。
「みんな、私は大丈夫だよ。襲われたなんて大げさだよ。ちょっと変な人に絡まれて――」
「誰だソイツは! ゆるさぁぁぁん!!」
「絶対に許さん! 絶対にだぁぁぁ!」
「絶対に許さんぞ真琴! じわじわと褒め殺しにしてくれる!」
「真琴……アンタって人はああああ‼︎」
あ、ヤバイ。
セリフを間違えてしまったと感じ、未来は必死のフォローに努めようとするが、時はすでに遅かった。
「学校祭の準備してる場合ではない! 各員、ただちに不審者の捜索に当たれ! 窓から三列目までの席の者は校内を、残りの三列は校外を調べるんだ!!」
「了解!!」
何というチームワークだろうか。男性の一言により、統率のとれたクラスメートたちは一斉に広まって散り散りになった。その際にホコリが舞い上がり真琴は咳き込む。後に残ったのは背中に足跡をつけている真琴と、その光景に思わず吹き出しそうになっている未来だった。
「未来、お前のクラスメートは最高だな……」
「そう思う? ありがとうね、真琴君」
表の顔のスマイルを真琴に向ける未来。
「人がせっかくシリアスに耽ってたのに……ちくしょう」




