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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第一章
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一世一代の告白

 話は数日前に遡る。

 真琴は遂に意中の女性を校舎裏に呼び出すことに成功した。『校舎裏』というのが何ともモテない人間の常套句のように思えるが、告白で舞い上がっている真琴は気にしなかった。

 校舎の角から姿を現した人物、それが意中の相手の神野未来だった。

 歩く動作にも一つ一つ気を遣い、おしとやかにしている未来に、真琴はすでに釘づけになっている。

 未来は太陽のような眩しい笑みをしながら真琴に話しかけた。


「真琴君。今日は私に何の用事かな?」


 透き通るようだが、しっかりと耳で聞き取れるハッキリとした声色で自分の名前を呼んでくれる。その事実だけで真琴は卒倒しそうになるが、自身を奮い立たせる。そして、若干どもりながらも自分の言葉で愛を伝えた。


「あ……あの! 未来さんのことが好きなんです! よ、よければ俺と……付き合って下さい!」


 真琴は誠心誠意を込めて頭を下げた。不祥事を起こした会社の会見の時よりも、真摯な想いを伝えたつもりだった。

 数秒の沈黙があり、それから未来は口を開いた。


「……ごめんなさい」


 なるほど、と真琴は思った。案外自分に対して冷静でいられることに驚きを感じながらも、自分では釣り合わないのだろうという気持ちが表に出てきてしまっている。

 絶望を胸に秘めながらも、真琴は未来の見るために顔を上げた。彼女は先ほどの笑顔を向けていた。ただし、その笑顔は少々困り顔に変わっていたが。


「気持ちは嬉しんだけど……私ね、同性しか愛せないの」


「え?」


 同性?

 真琴はその言葉について自分の脳内で解釈を求めた。

 同性というのは同じ性ということ。未来は女性だ。つまり、未来の好きな人は女性限定ということになる。


「でも、今時珍しくもないでしょう? 性は自由であるべきよ。そもそも性というのは――」


 なんてことだ。真琴は初めから眼中になかったのだ。未来にとっては。

 自分の意見を述べている未来に、真琴は呆然することしかできなかった。

 未来のご高説が終了し、真琴もようやく自我を取り戻した頃合いに、未来は大きなため息をついた。


「でも残念だわ。君が女の子なら考えても良かったんだけどね……」


「え?」


 数分前も同じようなセリフを言ったかもしれないと、下らないことを真琴は考えている。自分のボキャブラリの貧困さに呆れながらも、未来の言葉の意味を探ることにした。

 自分が女の子ならば考えてくれる……。つまり、自分がオカマになればいいということなのだろうか? それとも巷で噂の男の娘になるとか……。

 昔は真琴自身、ごく稀に女の子に間違われることもあった。その時は男としてのアイデンティティを傷つけられてショックを感じていたが、今ならばむしろ希望に思えてくる。

 しかし、そんな浅はかな真琴の考えは未来の説明によって砕かれてしまった。


「あ、でも男の娘とかはダメよ。あれは卑怯ね。やっぱり、体は女の子になってないと、私としては萌えないというか何というか……。所詮男じゃないの、それは。本当は元男の子で女体化したって設定が一番なんだけど、この世界じゃあ机上の空論に過ぎないのよね……」


 何を言ってるんだこの人は。もしかしなくても、自分はとんでもない女性を好きになってしまったのではないか。そんな思いが真琴の心を抉っていく。

 未来は咳を一つして、真琴から離れていく。おしとやかに手を振る姿は、真琴の理想の神野未来を貫いていた。


「それじゃあ、本当にごめんね。私、これから学校祭の会議があるから」


 真琴から背を向けて歩き出した瞬間、未来は片手を顔に触れさせていた。何をしていたのか、また理由は何なのか。真琴には分からなかった。




 一世一代の告白を断られ、さらに望み薄ということもあって、真琴はがっくりと肩を落としながら帰路へとついていた。

 振られても、男性が好きならばまだチャンスはある。しかし、意中の相手は女性……しかも同性好きなのだ。これでは、いくら真琴が頑張ってもどうにかなる問題ではない。

 大きな失恋と大きなトラウマに苛まれながら、真琴は公園の茂みへと入っていった。自殺をしようというわけではない。この道が彼にとっての近道なのだ。通常ならば公園を迂回しなければ自宅へと着かないが、茂みを経由することによって約五分のショートカットが可能になる。これは、例えば夜七時に始まる番組を見るため等に便利だ。ショートカットをすることによって夜六時五十五分に帰宅でき、準備を済ませることができる。

 普段ならば、自宅に着いた後の計画を妄想することで気づくこともなかっただろう。しかし、今の真琴は気づいてしまった。茂みの奥でよろめいている女性の姿に。

 異質な状況に恐れを抱きながらも、持ち前の親切心が働き、真琴は茂みの奥へと足を進めた。近くで見ると、その女性は真琴の通う高校の制服を着ていた。ただし、あらゆる箇所が切られており、ボロボロになっている。女性は真琴の姿を見ると、近づいてくる彼に寄り掛かって倒れた。


「おっと!」


 女性が地面に倒れないように、真琴は彼女を抱き寄せる。彼女と真琴の目が合う。真琴は自分の高校に通っている女生徒を全員把握してるわけではない。今、自分にもたれかかっている彼女について、真琴は見たことがなかった。しかし、謎の既視感を覚えた。どこかで見たような不思議な感覚。それが真琴を困惑させる。

 ああ、出来るならば未来とこんなことをしたかった……。傷だらけの女性がいるにも関わらず、真琴は既視感から逃げるために、そんなくだらないことを一瞬考えてしまった。

 すでに虫の息となっている女性は、必死に真琴にしがみ付いて何かを伝えようと口をパクパクさせる。何かを喋っているようだが、「どこにでもいる普通の」高校生の真琴に読唇術などあるわけがなかった。


「どうしました? 一体何があったんですか?」


「ア……アイツが……」


 それだけを言って、女性は真琴に向かって手を伸ばす。すると、女性の手から野球ボールほどの大きさがある光の玉が出現した。ありえない光景だったが、神秘さ故に真琴はその状況を受け入れていた。

 光の玉は真琴の体に取り込まれ、消えた。その瞬間、女性の体が光に包まれた。


「え……え!?」


 先ほどはスルーできた異常現象も、今回は真琴にも無理だった。光が消えると、抱きしめていたのは女性のはずだったのに、目の前の光景は男性が映っていたのだ。

 見たことがあるはずだ。真琴はその男性を覚えていた。忘れるわけもない、自分の通う高校の生徒会長なのだから。既視感については納得がいったが、それ以外は全て納得がいかない。いくわけがない。真琴は生徒会長を揺り起こして必死に呼びかけた。


「あの、どうしていきなりこんなことに! さっきの女の子は何だったんですか!?」


「それも……私だ」


「!?」


「頼む。勝ち残ってくれ……」


 再び真琴を見た生徒会長は、何故か安堵していた。


「勝ち残るとか変な事言わないでくださいよ! そうだ。すぐに救急車を……」


 ここにきて、真琴は自分が何をすべきかを明確にした。いつもよりも高い声色で話しているが、真琴はこの異常事態に不謹慎にもテンションが上がっているのだろうと理由をつけた。

 スマフォを手に取って、救急車を呼ぶ。それから数分後、救急車は到着した。

 担架に乗せられて、生徒会長は救急車に運ばれていく。

 とりあえず、死にはしないだろう。真琴は安心のため息をついて大木に寄り掛かった。それを見ていた一人の救急隊員が、真琴に声をかける。


「よくこの茂みから見つけたね。よく通るのかい?」


「あ、はい。家の近道ですから……」


「それとも、あの子は君の彼氏だったり?」


「……は?」


 真琴は目を丸くさせた。冗談でも笑えるものとそうでないものがある。真琴にとって、今のは後者だった。当の救急隊員は首をかしげながら、ハッとして笑い出した。


「あ……そうかごめんごめん! 恥ずかしくてそんなこと言えないよな」


「ちょっと待って下さい。俺はおと――」


 自分は男である。今までもそうだし、これからもそうである。真琴はそれを自覚して違和感に気づいてしまった。

 まず、涼しい風がふとももを撫でる感覚があった。まるで、ズボンを穿いてない時のような下半身の違和感。恐る恐る下を見ると、スカートが彼の目に映った。女装が趣味というわけではない。先ほどまでは確かにズボンを穿いていた。よく観察すると、高校指定のセーラー服だった。

 自分はいつの間にこんなものを着用していたのか……。それを考えるのに、さっきの女版生徒会長が頭に浮かんだ。あれは女から男になったのか……? だとしたら……いやあり得ない。

 だが、あり得ないとするには、胸の膨らみについての説明をしなければならない。たわわではないが小ぶりでもない、丁度いいサイズの膨らみは、どう考えても一つの道につながってしまう。

 結論が出た。しかし、真琴はそれを納得できない。それはフィクションであり、なによりそう考えるのは異常だからだ。


「う……うわああああ!」


 真琴は自分の結論を否定するために、この場から逃げ出すことにした。

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