『彼』の正体
未来と真琴は、奏と別れて二人で校内を歩いていた。調査もほぼ終わり、とうとう行き詰まってしまった。
歩き疲れた未来は壁に寄りかかってため息をつく。そして、スマホを取り出して謎の男性が写っている写真を眺めた。
真琴も女の子から男の子へと姿を変化させて、元に戻る。改めて男子の制服を着こんだ真琴は、この状態が一番落ち着くなと思った。
「絶対奏とこの男性、関係ある気がするんだよね。あの奏の異常なまでの擁護は、何か隠してるよ」
未来は、周りに真琴以外の人間がいないからか裏の顔を見せる。
不本意ながらも、真琴は男の子の時に一度会った際の印象を未来に話し始めた。
「男の時にも会ったが俺を睨みつけてたな。助けようとしたんだが、拒否されたし……」
「よっぽど男の子に弱みを見せたくないってことなのかなぁ。やっぱり、奏の変身した姿があの男性だったんじゃないかな」
「……」
「ま、今日のところはこんなもんでいいかな? 私も表の顔で学校祭の準備を進めていかないとだし」
「ああ。悪かったな付きあわせて」
「ふふ、じゃあね真琴君」
口調が表の顔になり、未来は真琴に別れを告げて自分の教室へ戻っていく。真琴も学校祭の準備をしようと思って教室へ向かおうとしたが、その前に自分の考えをまとめることにした。誰もいないことを確認して、真琴は独り言を言い始める。
「まずは謎の男性の目的だが、それはマナーの悪い剣道部員の退治でいいんだよな」
今までの話を統括すると、男性の目的は剣道部員の粛清だと分かる。しかし、それでは一つだけ矛盾が生じてしまう。
「それが、女の子の俺を襲った理由……」
最初に出会った時、男性は真琴を一目見ただけで襲いはしなかった。真琴を襲ったのは次の日の夜。真琴が罠を仕掛けてわざと女の子に変身した時だった。その日も武道場に行って奏と会話した真琴だったが失礼な真似をしたわけでもなかった。何故彼が真琴を襲い始めたのか、それが謎だった。
「そして男性の格好か。最初は白の道着と紺の袴っていう格好だったのが制服に変わった……」
スマホを取り出そうとして格好についての情報から何かを探そうとしたが、真琴のスマホは昨日お亡くなりになってしまった。それを理解した真琴は「あっ」と小さく声を出して落胆した。
「スマホ……壊されちまったんだったぁ……ちくしょう……高いのに」
何故男性がスマホを壊したのだろう。そこに疑問が残った真琴は改めて考える。だが、考えれば考えるほど、男性と奏が同一人物だという結論に達してしまうのだった。
「もしかして、俺が奏さんに尋ねたせいで自分が撮影されてたことが分かって、これ以上詮索しないように警告したんだろうか……」
であれば、初対面で襲われずに二度目で襲われた理由が納得できる。最初は奏は女の子の俺を見て、怪物から俺を守ったのだろう。だが、俺が余計な詮索を開始したから警告のために俺を襲った……。あの時は未来のおかげで命を救われたが、最初から殺す気なんてなかったのかもしれない。
自分の考えがまとまった真琴はどうあがいても一つに達する結論にため息をついた。
「やっぱり、認めるしかないのか……奏さんがあの男性だってことを」
スマホを壊したことから、よっぽど自分の正体を知られたくないのだろう。……待て! だったら!
男性の写真を持っている人物はもう一人いる。未来だ。男性は必ず未来を襲いに来る。しかも、男性が奏だとしたら相当恨みがあるはずだ。間違ったら未来が……。
真琴はすぐに未来の後を追うために走る。
頼む……間に合ってくれ……!
未来は学校祭の準備をすると言っていた。だとしたら自分の教室へ向かうはずだ。
真琴は急いで未来の教室へと行った。誰の了解も得ないでドアを開けて未来の姿を探すが、彼女の姿はない。教室に残っている一人に話しかけて、未来の場所を聞き出す。
「おい! 未来はどこにいる!?」
「え? 未来さんなら、準備で体育倉庫に行ったけど」
「……まずい。襲われる!」
体力もそろそろ限界に近づいてきているが、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。真琴は力を振り絞って疾走する。そして、やっとの思いで真琴は体育館へと辿り着いた。
学校祭の準備で忙しいからか、体育館には誰もいない。無音の体育館はこの時期ならば普通なのだが、真琴にはそれが不気味に感じられた。
その時、体育倉庫から大きな音がした。何か重い物が叩きつけられたような重厚な音。真琴は最後の力で体育倉庫へと走った。
体育倉庫に着いた真琴は扉を開けようとするが、扉は固く閉まっている。力を入れてもうんともすんとも言わない扉を諦めて、真琴は扉を叩いて叫んだ。
「いるのか未来!! いるなら返事してくれ!」
「その声は真琴ちゃん!? 来ちゃダメだよ! 私、襲われてる!」
「鍵は!」
「扉の前にイケメンがいて――ってキャア!!」
「未来!!」
ごめんなさい先生。俺、今日悪い人になります。
決意した真琴は変身して女の子の姿になる。そしておもちゃの銃を手にとって本物に変化させる。どっしりとした重みを感じる拳銃を構えて、扉の鍵に狙いを定める。
「跳ね返って俺に当たらないでくれよ……!」
そう願って、真琴は銃の引き金を引いた。弾丸は鍵を司る部分に被弾し、鍵は真琴の期待通りに壊れる。跳ね返って銃弾は真琴に当たらず、天井へ飛んでいった。
真琴はすぐに扉を開けて中に入る。すると、中では男性と未来が対峙していた。
怯えた目つきをしていた未来だったが、真琴の姿を確認するととたんに気の抜けた表情に変わった。
男性は後ろを振り返ることで真琴の姿を確認する。そして、自分が動けないことを察した。
真琴は男性に向けて拳銃を構えていたのだ。その表情はすでに覚悟を決めていた。昨日のような迷いは見えない。
「動くと撃つ。……もう、止めてくれ。奏さん」
「何のことだ? 俺はそんな名前ではない」
「いや……恐らく、ううん絶対にあなたは奏よ。そう断言できる状況がある」
「未来……お前」
「変身という能力があるという前提で話させてもらうけど……。まず、最初に変身の能力を使用した時は使いこなせなかったみたいね。その時だけ『奏』の格好で剣道部員を襲ったんですもの。ネットで調べたけど、白の道着を着るのは女子に多いそうね」
「フッ、どうやら俺をその『奏』という人物にさせたいようだが、道着には色の指定がない。誰がどの色を使ったって問題ないんだよ」
「そうかもね。でも常識的には白は女の子用らしいわ。次にいかせてもらうけど、あなたが襲う相手には矛盾がある。マナーのなってない部員を襲うだけならまだしも、何故私たちを襲うのか? そして、それは何故『奏』と会ってから襲われるのか」
「偶然だ。単なるな」
「それで片付ければ良かったわね。でもね、共通点があるのよ。それは私と真琴ちゃんがあなたの写真を持っているってこと。それを『奏』が把握した瞬間、あなたは襲い掛かってくる。これはどう説明するつもり?」
「…………」
「説明したくないってこと? まあいいわ。じゃあ最後。真琴ちゃんに最近会って親密にしている人物が、私を除くとあなたしかいない。真琴ちゃんが言われたそうだけど、能力者同士は惹かれ合う運命らしいわね。これが一番の証拠みたいなものよ」
「……ハァ、最初に会ってから片付ければ良かったね」
男性は突然言葉使いを変えた。それはまるで女の子の喋り方。真琴は全てを諦め、そして自分の辿り着いた結論を信じることになった。
男性が光輝くと、光の中から一人の女の子が出てくる。その姿は奏だった。




