一番を決める戦い
八戸都を消滅させた未来は彼女がいなくなったことに対して高々と笑いあげていた。過呼吸を起こしてまで笑い飛ばした未来。それも時間が経つにつれて落ち着きを見せていた。
奏は内心、恐れを抱きながら未来に話しかけた。いつものように、未来が振り向いて笑顔を振りまいてくれることを願って。
「未来……あなたは未来だよね?」
「うーうん?」
奏の声に気づいた未来は踵を返して奏の体を舐め廻すように視線を向ける。目の前にいる姿は親友のものなのに、何故か奏は他人に見られているような気がして眉を歪ませた。
「な、何?」
「ほうほう、君が『変身』能力持ちか。んで、そっちは『入れ替わり』能力の明日香ちゃん」
「そ、そうだけど……どうしたのみら姉」
明日香は嫌悪感を表情に出して未来を見つめている。
突然、未来が手を叩き始めた。
「さあ! 早く戦ってどっちが強いか決めてよ!」
「……え?」
「もうそれぞれ一番強い能力は持ってるでしょう? だからさ、早いところ一番を決めてもらいわけ」
呆然として自分を見ている奏に対して、未来は大きなため息をつく。
「奏ちゃんにしては察しが悪いなあ。今までのは前準備。これからは本番。殺し合いの始まり」
「な、何を言ってるの未来? 殺し合いだなんて……」
「殺し合いだよ? どの能力が一番なのか、それを決めるために君たちは存在してるの」
「そんなこと、未来は言わない! お願い、目を覚ましてよ!」
未来が足を踏み出すと、奏との距離が一気に縮まる。一瞬にして、奏の目の前には未来がいた。未来はにやりと何かを暗躍しているような暗い笑みを見せて、奏の顎をクイッと上げた。
「残念、あなたの大親友『未来』はもういないの。ここにいるのは本物のミライ。私がオリジナル」
「う……嘘だ! 私は信じない!」
奏は剣を召喚させて未来の胸を突き刺そうとした。もし、未来が操られているなら、この『操られた者を正気に戻す』剣を使えば何とか……。
未来の胸に奏の剣がいとも簡単に突き刺さる。しかし、未来は微笑みを絶やさない。痛覚を感じていない。
それの意味するところは、奏は理解していた。未来は操られていない。ちゃんと意志を持っている。
「何をしたのか分からないけど、無駄なことだよ」
「そ……んな」
奏は剣を地面に落として絶望する。それが面白くなかったのか、未来は奏を睨みつけた。その瞬間、奏の体は宙に浮いて後ろへ吹き飛ばされ、壁へと激突した。
あまりの衝撃で壁が崩れ、奏の体は壁にめり込んでしまっている。
「早く決めてよ。私も暇じゃないの。さっさと戦え」
「みら姉……」
「お、明日香ちゃんは分かってくれたのかな?」
「僕は戦うよ……みら姉を元に戻すために!」
明日香は立ち上がって、未来の心に手を伸ばす。自分たちの未来を取り戻すために、明日香は自分の力を使うことを決めた。
明日香に対して失望を重ねる未来は、再びため息をついて肩をがっくりと落とした。
「君もか。まったく、お利口さんだと思ったのに。やっぱり小学生じゃあ無理だってこと」
「お願いみら姉。元に戻って!!」
明日香は鞭を召喚させて未来に向けて鞭を振るう。鞭を巻きつけて彼女を無力化させようとするのが明日香の計画だったが、未来は手から出した光の剣で簡単に明日香の鞭を切断した。
だが、これくらいは明日香も承知の上だった。想定内の行動を取った未来に安心した明日香はさらに鞭を取り出して未来へと放つ。
「無駄だよ明日香ちゃん。私には分かるんだから。鞭の速度なんて、たかが知れてる」
「そうだよね……! 今のみら姉なら多分、そうだと思ってた!」
「……何?」
その瞬間、地面から明日香の鞭が飛び出してきた。地面を割って出てきた鞭は未来の体をしばりつけることに成功した。罠に掛かった未来の姿を見て、明日香は安堵した。
「ほお、やるんだね。明日香ちゃん」
「僕だって、ただやられてるだけじゃない」
「だけど……無駄なんだなこれが!!」
「!?」
未来が気合を入れると、鞭は即座に砕け散りバラバラになった。
ふうっと一息つきながら、未来は驚いている明日香に敢えてゆっくりと近づいていく。
「私と戦おうとしないでよ。君が戦うべき相手はあそこの壁にめり込んでいる奏ちゃん」
「あ……あ……」
「でも、私に攻撃してしまったことは後悔した方がいいよ。だって、お仕置きを受けちゃうんだからねっ!!」
その一瞬で未来は明日香の目と鼻の先に移動し、明日香の腹部を殴り飛ばした。目の前がチカチカして、吐き気を催しながら明日香は力なく地面に膝をついてしまった。
「う……うぇ……」
「痛そうに。でもこれは自業自得。しょうがないよね」
「待ちなさい……明日香を……いじめないで」
奥から必死に絞りだすような声が聞こえたと思った未来は壁の方に顔を向ける。
そこには、奏がよろめきながら壁から抜き出て、ふらふらとこちらに近づいてきている姿があった。奏は覚悟を決めたのか、表情を固くさせて未来を睨みつけている。
「いじめる? だから、これは自業自得だって」
「あなたは未来じゃない……だから、あなたは私が倒す……!!」
「……何度言っても分からないもんなんだねぇ。時間を共にした親友とは簡単にはお別れできないのか」
「あいにく、絶望は前に捨ててきたから」




