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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
145/156

反逆への罰

 真琴たちが唖然としてる中で、未来は己の体を触っていた。自身の髪や顔、腕やふとももを舐めるように雅に触れている。

 特に、大きい胸を念入りに触り、揉んでいた。彼女の握り方で形を変えていく胸。顔がやや上気して頬が赤く染まり始めていた。


「へえ、こんな姿になったんだ。人間は面白いね」


 いつもの未来では想像がつかないであろうその姿に頭を殴られたような感覚を覚えた真琴は正気に戻った。そして、未来に呼びかける。


「目を覚ませ未来……。お前はそんなやつに操られるような弱い人間じゃないだろうが……!!」


「残念だけど、この体は元々私が作り上げたマリオネットのようなもの。それにさ、もう彼女とは融合したっていうのかな? 彼女の記憶は私が全て吸い取ったんだよね」


「お前……!!」


 真琴は思わず未来に向かって走りだして彼女の肩を掴もうとする。しかし、未来は手を払っただけで真琴を吹き飛ばしてしまった。

 空中に浮かんだ真琴はそのまま学校の二階の窓ガラスへ突撃すると、ガラスを割って中へと入っていった。校内で鳴り響く壁の崩れていく音。それは、未来のアイデンティティを破壊する音だった。


「真琴くん!」


「触れるものみな吹き飛ばす……なんてね」


「ああ。さすがです。ミライ」


 カコは未来に向かって自分の両手を握って合わせると、膝をついて彼女を神のように崇めた。未来もそれで満足そうな表情を見せていたが、突然彼女の顔が暗くなった。


「カコ。あなた、未来の記憶によれば一度私を殺したようね?」


「は……そ、それは催眠術師が勝手に……」


「そうかな? その催眠術師が死んでからもあなたは未来の命を付け狙ってたようだけど」


「それは誤解でございます。私はあなたを目覚めさせるための最善の行動を取ったまでなのです」


 顔から汗が流れ出し、次第に焦りの表情を見せていくカコ。その表情を見るだけで、未来は全てを見透かし、全てを理解できた。


「過去を司る神が未来を脅かしたらダメだよ~。私が疎ましいのかな。残念だなあ、カコ」


「も、申し訳ありません! この通り!!」


 カコは土下座の体勢へと変わり、未来に向かって必死に許しを請う。

 奏は二人のやりとりを黙って見ている。二人の間に割って入ることは許されないことだと、本能が感じていたからだった。同じく、明日香も奏の様子を察して黙っている。

 あんなに余裕を見せてた八戸都があんなに怯えてるなんて……。未来、あなたは一体何者だったの……?

 奏は不敵に笑い続ける未来にそんなことを思った。


「そっか……じゃあ仕方ないね」


「許して下さるのですか?」


「うん。あなたを消滅させることで許してあげるよ☆」


「なっ……!!」


「未来を消そうだなんて大それたことをした罰だよ。私には未来を消滅させる権利はあるけど、過去にはないの。それを犯したんじゃ、消滅させられても仕方ないよね」


「……くっ!」


 全てを諦めたのか、八戸都は立ち上がって未来を睨みつけ、そしてわなわなと拳を震わせた。


「……ええ。そうですよ。私はあなたが疎ましい。あなたを消せば、永遠に過去でいられる。発展はなく、進歩もない。それが一番なんですよ!」


「それじゃつまんないじゃないの。もっと進化しなきゃダメだよ」


「ここでミライを消せば、この世界は私のものだ!」


「……マズイ」


 言葉を言う度にトーンが上がり盛り上がっていく八戸都を見て、奏は嫌なものを感じた。虫の知らせのような、不快な感情に従った奏は、明日香の手をとってこの場から逃げ出した。

 その予感に応えるように、八戸都は手のひらから巨大な光球を生み出し、それを未来に投げつけた。


「これで死ねぇ!!」


「ふーん、で?」


 光球が未来の体を包んだかと思うと、未来の体は一瞬にして消滅した。


「ハハハ……何と呆気ない。わ、私が未来を消滅させた!! これで世界は私の――」


「モノとなれば良かったんだけどねえ」


 乾いた笑いをして勝利宣言をしてた八戸都の背後に、いつの間にか未来が存在していた。未来は八戸都の肩を軽く叩きながら彼女を憐れむような視線を向けている。

 未来の手が触れられた瞬間、八戸都の表情と思考はは固まってしまった。


「バカじゃないの? 過去が未来に敵うわけないじゃない」


「あ……あ……」


「じゃ、またね。ママのおっぱいちゅーちゅー吸いながら、その魅力的な体でゼウスに孕ませられてきなさいよね」


「いや……! いやあ!!」


「大丈夫大丈夫。ゼウスは経験豊富だし、優しくしてくれるって!」


 全てに絶望し、恐怖に引きつった顔をしている八戸都は未来の手を払うと一目散に逃げ出し始めた。それを追わない未来ではない。

 未来が一歩踏み出した瞬間、彼女は八戸都の目の前で笑いかけていた。


「ひっ!」


「鬼ごっこかな? 神様同士の鬼ごっこは凄いよー?」


「お願いです。一生をあなたに誓います。ですから、それだけは!」


「一生を誓うって……一度未来を殺した存在なのにい? 信じられないなあ」


「う……う……」


「まあこれも未来に反逆した罪だと思って、軽く千年償ってきなよ!」


 未来は手から光の剣を出すと、八戸都の体を切り裂いた。八戸都は涙を流しながらその存在を消滅させていく。最後に何かを言った八戸都だったが、声すら消滅した彼女の叫びは届くことはなかった。

 この場に一人いなくなった。ただそれだけの出来事なのに、奏は恐怖に怯えていた。いとも簡単に人を消し去った未来。そして、取り乱していた八戸都。

 夢を見ているなら早く覚めてほしい。奏はそう思った。

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