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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
141/156

仲直り?

 真琴から勇気を貰った未来は次の日、学校に登校していた。真琴と別れてから発生した頭痛が気になったが、そうも言ってられない理由がある。未来には奏を元気にさせるという使命がある。


「お願い……今日一日だけでいい。頭痛、起こらないで……」


 表向きは涼しげなしたり顔をして歩いていた未来だったが、内心は頭痛の恐怖に怯えていた。ただ起こらないよう祈るばかりだった。


「あ……いた」


 未来は前方で歩いていた奏を発見した。奏の登校ルートと時間帯をすでに知っていた未来はその時間に合うように調節をして歩いていた。その努力が叶ったということだった。

 未来は後ろにいる自分に気づいてもらえるように、敢えて大声を出して奏を呼んだ。


「奏ちゃん! おはよう!!」


 奏は即座に後ろを振り向いて、それから目を大きく見開く。


「み、未来……。今日は大丈夫なの?」


「私はいつでも大丈夫さ!」


 ……大丈夫じゃないけど、ね。

 表と裏が乖離している感覚に未来は囚われる。心の中で誰かに頼りたいという気持ちがありながらも、心配は掛けたくない。自分の悩み事如きでみんなに迷惑は掛けられないという思いの方が強いがための苦しみだった。

 奏はふっと優しげな表情になった後、何かを思い出したみたいに未来に背を向けて早歩きをし始めた。


「あ! 奏ちゃん!」


 遠くへ離れていく奏を追うために、未来は小走りで奏に近づいていく。走っている音に気づいた奏も、未来から距離を取るために走り始めた。


「ちょ、ちょっと! 何で逃げるのよ!」


「……お願い、未来。私に関わらないで!」


「へぇー、残念だけどそのお願いは聞けませんなー。私は今までに奏ちゃんが嫌だって思うことをしてきた実績があるんだよー?」


「じゃあ近づいて!」


「よし、分かったわ!」


「どっちも同じじゃないの!」


 奏が本気になれば部活をしていない未来を離すことは容易だった。未来は奏に本気にされる前に近づく必要がある。だから、未来は生まれて初めて全力で体を動かして走った。

 奏との差は一気に縮まり、未来は後ろから奏をハグした。奏の細い体に未来の体がまとわりつく。ギューっと抱きしめた未来は決して奏を離さないだろう。

 奏は背中に感じる感触に対して少しだけ嫌悪感を示した。


「あの……何のつもり?」


「奏ちゃーん……もしかして、能力の副作用のこと、気にしてるの?」


「なっ!? そ、そんなわけないじゃない!」


「昨日、真琴ちゃんが来た時に言ってたよ? 奏ちゃんの様子がおかしくなったって」


「それは……私は真琴くんに興味が無くなったから……部活の方が大事だって気がついたから」


「嘘だよね?」


「嘘じゃないよ!!」


 どうしても強情を張る奏に対して、未来は最後の切り札を繰り出すことにした。これで、奏が言ったことが本当か嘘か一発で分かる。当事者もいないことだし好都合だとも未来は思った。


「昨日ね……真琴ちゃんに告白された」


「……そ、そう。私には関係のない話ね」


 心なしか、奏の声は震えていた。未来はさらに言葉を続ける。


「私、何て言ったと思う?」


「……し、知らないよ」


「OKって言ったの。だから、真琴ちゃんと付き合うことになったよ」


「……っ!」


 奏は無理矢理未来の束縛から離れて、未来と向き合った。奏の表情はいたずらを注意された小さな子供のように唇を噛み締めている。


「私だって……私だって真琴くんのことが好きなのに……!! それなのに……未来は……!!」


 秘めていた心境がドッと溢れだしてくるのか、奏は両手を震わせて歪んだ声を出している。怒りがあるが、それを必死に堪らえようとしているのが未来から見ても一発で分かる。

 ネタばらし、するかな。


「……って、私が言うと思ったの?」


「え……?」


「告白したかと思った? 残念、断っちゃいました!!」


「ハ……ハァ!?」


「私は奏ちゃんの副作用のこと知ってるのよ? それ知ってて真琴ちゃんの告白をオッケーするなんて中々できることじゃないよ」


「ほ、本当?」


 奏は未来を凝視して彼女の次の言葉を待ち続ける。


「本当。勝負はフェアにいかなきゃ」


「未来――」


「隙ありっ!」


 全身の力が抜けた奏を襲ったのは、未来が隠し持っていたハリセンだった。気持ちのいい音が鳴り響いて、奏の頭が叩かれる。

 意外に痛みがあったのか、奏は涙目になって頭を抑えている。

 未来は呆れながらハリセンを奏の肩へ叩き続けていた。


「無理しないでよ、奏。私、能力のこと分かってるから。だから、真琴ちゃんや私を避けるようなことしないで?」


「……ごめん」


「大体ね、そういう決まっている運命に反抗するのが主人公ってもんじゃないの? 少しは私達を信じて頼ってよね」


 ……一番信じないで頼ってないのは誰だろう。私かな?

 奏を励ますために発した言葉は、未来の心をえぐっていく。自分を犠牲に、親友を元気にさせる。

 そんな未来の心境などいざ知らず、奏は未来に向かって笑顔を見せていた。


「そうだよね……私がバカだった。ありがとう、未来」


「いやーお礼を言われるようなことじゃないよ。お礼ならお金で――あれ?」


 突然、未来の体が自分の意志を離れて後ろに倒れこんだ。バランスを取ろうにもどうにもできない。未来は気が遠くなりそうになりながら景色が空を向いた。


「未来!」


 倒れこもうとした未来を奏が抱きしめて止める。未来はぼけーっとしながら奏を見るが、自分が何をしていたのかすぐに理解してハッとした。


「あ、ごめんね。何か、急に意識が……」


「まだ本調子じゃないの? もしかして、私を励ますためだけに来た?」


「ア、アハハッ……大丈夫だと思ったんだけどね」


「もう、未来ったら……。私が送っていくから、今日も休んだ方がいいよ」


「それはダメ。今日学校に行くって約束で、昨日は真琴ちゃんにお世話になったから」


「変なところで真面目なんだから……」

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